露地栽培のスマート化
池田: 今までは施設園芸(ハウス栽培)という固まった中では割と作業が決まっていたのですが、それを圃場(露地栽培)に広げたというところが初めてだと思います。
小泉: ではハウス栽培ではデジタル化が進んでいたということですか。
池田: ハウス栽培ではセンシングした後に二酸化炭素など、何をフィードバックするか決まっていたので割と知見は溜まっていたのですが、露地栽培一般に関してはあまり溜まっていませんでした。
ハウス栽培の場合は環境をある程度自分たちでセンシングしてコントロールできます。しかし露地栽培の場合は天候、太陽、雨などの環境が関係してきますので、制御しにくいのです。
小泉: データを取ったところで日光や温度を調節できないということですね。
池田: はい。ですから露地栽培のIT化はほとんど進んでいませんでした。取り入れられていたとしてもセンサーを置くくらいで、そこからどうするのか、というとこで止まっていました。
そこをもっとITを使ってスマート化できないかというところに踏み込んでいきました。
小泉: 始めた時は他の方がやっていたように農地に温度センサーを置くということをやってみたのですか?
池田: やってないです。センシングから入るのではなく、そもそも農業はどういう動きをして、どのように生産しているか、ということを分析し、農業をエンジニアリングするという発想で動いていました。
農業に詳しい人は理論など、農産物がどう育つかというところに注力を注ぎます。しかしエンジニアとしての観点からいくと、とりあえずそこは置いといて、全体として業務を分析してエンジニアリングをし、生産性があればいいのではないかと考えたのです。
機械化はできているのですが、人の動きがあまり規格化されていない。ですから農業日誌を取ることで、人のオペレーションを見て、そこから分析する、ということをやったのです。
方法としては、人と場所と作業と時間を「タイムライン」と呼んでいるところにあげていきます。

それぞれの作業に対して、「機械化をすると効率が良くなる」、「除草の作業に関しては農薬を撒くと作業が早くなる」、など規格化していきます。
その中で、見回りを減らすためにセンシングを取り入れるところもあります。そうしてくると、様々なデータが蓄積され、さらに効率を上げる方法を考えられるのです。
小泉: 従来の農業の発想とは逆で、生産性向上から入っているわけですね。
池田: そうですね。また、サービスが広がった1つの理由として、センシングメーカーとあまりバッティングしなかった、ということが挙げられると思います。
小泉: センシングメーカーからしても、競合しているわけではなく、場合によってはセンサーの販売ができるマーケットなわけですよね。
池田: はい。協業していこうという動きです。「Agrion」の方でも、センサーなどとの連携の問い合わせが増えてきています。
数が増えると、プラットフォーム化ができます。現在TtexEdgeは個人経営から大規模経営まで様々な農業形態との契約が1万2千件と、業界ではトップの数です。
小泉: それだけ農家さんは感覚で作業をしていて、自分たちの作業を見てこなかったということですね。
池田: その通りです。現場に行って「なぜそれをしてるのか」とヒヤリングするのですが、「100年前からこうしているから」など、習慣的に行っているものを継続しているケースが多々あります。
農家さんの作業は基本的に日単位です。何月何日に「タネを植える」、「肥料をあげる」、「収穫する」という風に日単位で決まっています。
それを私たちは2時間くらいで分割してデータを取っています。そこまでたくさん記録する必要はなく、1日で考えると、4〜5作業程度可視化するだけでかなり効率化することができます。
取れたデータをWebで、圃場別、人別、日別に分析できます。日別に見ると、日毎に作業の偏りが分るので、偏りがないようにフラットにしていくほうが効率的になります。

圃場別で見ると、圃場の場所によって作業の効率が悪い圃場と悪くない圃場が可視化できます。
可視化できてしまえば、悪いところの原因は農家さんがほとんど自分たちで分析し、対策を立てるができます。
よく見るとここは毎年雑草が生えやすい場所なので、除草に時間がかかっているということが分かる。農家さんは「だろう」という予測はしているのですが、それを可視化することで、こんなにかかっているなら早めに除草剤を撒いておく、など対策を考えようとなるわけです。
人別で見ると、農業の場合は班で移動する場合がほとんどです。ですから、現地でどういう作業をしているのかほとんど見えていませんでした。
そこで班の方にも入力をしてもらい、可視化する。そうすると、作業が偏っているかどうかが分かってきます。
さらに個々のスキルも可視化できますので、難しい作業はスキルのある人に頼む、ということもできます。そしてそのスキルのある人を評価してあげると、他の人が見習うようになり、難しいものに挑戦するようになったという例もあります。つまり人材の教育効果のようなものも間接的に見えてきます。
私たちがやっていることは決して難しいことではなく、うまくITツールを使いインセンティブを見せながら、自分たちで回せるような仕組みを作っているのです。
小泉: このように無駄が省かれていくと、生産量が増えていくのですか。
池田: 増えていきます。1点目は、耕作放棄地(リタイヤなどで使われなくなった圃場)が毎年増えていくので、それを若い人に貸していくという方法です。
私たちが応援している農家さんは、毎年10%〜20%吸収し、売り上げが伸びているのが数字的に見えています。
今までの農業ビジネスというのは、単位あたりの面積で収量を増やそう、という研究が多いです。
私たちはそうではなく、人の動きを20%改善して、面積を二割増やします。そうすると、売り上げが1.2倍になります。オペレーションを効率化して、売り上げをあげるということです。
2点目は社長の時間をどう使うかということで売り上げがかなり変わってきます。余った時間をできるだけ社長に回し、社長が営業をします。営業すると、売り上げが伸びます。
普段社長が何をやっているかというと、普通の人ができること、つまり事務作業を自分でやられています。例えば受発注作業です。それを分析すると、注文を受けてエクセルに入れ、その後請求書や納品書をワードで作られていました。
そういった受発注などの事務処理が慣れていないということがデータを見て初めて分かってきました。
そこに私たちのシステムを取り入れると、8倍ほど効率化にすることができます。
今まで農家さんは、「どういう肥料をどのタイミングであげるか」など、生産技術や農産物そのものに関して熱心でした。私たちが考えている改善と向かう方向が違うのです。
もちろん生産技術の向上は重要ですが、それをやりながらオペレーションを効率化することも重要、ということです。
そしてさらにそこから発展させ、農家向けの販売管理のようなサービスを今年一月に立ち上げました。
次ページは「販売管理システムにより効率化を図る」
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