生産技術向上から販路支援まで、農業をエンジニアリングする ―Trex Edge 池田氏インタビュー

企業:

販売管理システムにより効率化を図る

小泉: ところで、農家向けの販売管理システムというものは今まであったのですか。

池田: 工業向けのものはあるのですが、農家向けのものはありませんでした。工業と農業では販売管理の内容が少し違います。

例えば工業では出荷する時に価格が決まっていないということはありませんが、農業では出荷した時点では、価格、量が決まっておらず、着荷(納品)した時に相場で決まります。

あとは検品された時にサイズによって値段が変わってきますので、Mだと思っていたものがSだとなると、Sサイズの価格になります。さらに腐っていたりしたら取り除かれ販売できません。

ですから、その時点で入れたデータを発注まで全部同期させるという機能や、通常なら納品したものと違う差分があった場合、「赤伝票」を発行して破棄する、という工程を機能化したりしています。

農家さん特有の一連の作業に合った機能を出したということです。

小泉: 売り上げと納品が一緒になっているという意味ではシステムとしてはシンプルな気もしますね。

生産技術向上から販路支援まで、農業をエンジニアリングする ―Trex Edge 池田氏インタビュー
株式会社アールジーン 代表取締役/IoTNEWS 代表 小泉耕二

池田: システムとして難しいのはバリューチェーンの連携ですね。注文と出荷の日、そして請求です。

大きいスーパーだと入力するシステムが導入されているところもあります。ですから、将来は私たちのシステムがもっと普及してくれば連携も可能だと考えています。

小泉: 今後の展望をお聞かせください。

池田: まず現在青森県と、青森県のリンゴ農家から支援を受けて、果樹版を開発しトライアルを行なっています。これは圃場ではなく、木の一本一本に「ツリータグ」というQRコードをつけて管理できるというものです。

小泉: 果物の種類で管理の仕方が変わってこないのですか。

池田: 木の一本一本で管理したほうが良い果物と、場所で管理したほうがいい果物とがありますが、現在はリンゴの管理をベースにして展開していこうと思っています。

次に、現在問い合わせが多いのが酪農、畜産ですので、そこの参入も検討しています。

「作るところから食べるところまで」全体の最適化

さらに、最近フォーカスしているのが、果樹と野菜で取れたものの販路支援や、バリューチェーンをどこまでできるか、ということをトライアルし始めています。

実際私が農家さんから注文を受けて、営業して、どういう動きかを見ています。

ECサイトでの販売の部分だけの支援や、技術部分だけの支援をしている会社はあるのですが、生産技術から販路支援までをしている会社は他にありません。

「作るところから食べるところまで」の全体を見ないと、どこをどう最適化したらいいかが分かりにくいところがあります。

よく、「流通業者を抜けばコストが下がる」という風に一般的に言われていますが、そもそも卸しなど、そういう業界がなぜあるかということを分析する必要があると思っています。

小泉: サプライチェーンを加味した時に農家さんというのは流通面において取り残されているのでしょうか。

池田: そうですね。今の農業の仕組みというのは、ヨーロッパやアメリカも一緒なのですが、30年ほど前の仕組みがそのままです。30年前と違うところは、高速道路網の発達やIT網の発達ですが、それに合わせた形態に変わっていません。

しかし、高速道路網やIT網がない時代ではかなり合理的な仕組みでした。

流通網がいらないわけではなく、高速網、物流、情報が消費者とつながった時に、農産物の物流がどうあるべきかを考えて変えていった方がいいのではないか、ということです。

意外とP2Pなど、自分たちでやるには逆に無駄が増える場合が多いのです。

物流に関しては、トラックや運転手を抱えるかどうかは別として、サービスとして提供できるかどうか、というところも含めて今トライしています。

小泉: その先には店舗があると思うのですが、農業業界における店舗に関しての問題はありますか。

池田: 価格の決定メカニズムについては改善の余地があるのではないかと思います。農業の作業からみても、農産物価格は安くなりがちなので、そこにどのように価値をつけるかを考えています。

価格が最適化されず、そのまま生産者に負荷が来てしまっているのが現状です。

小泉: 改善点としては価格から見直した方がいいということですか。

池田: そういった単純なものでもありません。価格というのはどこでどうやって決まっているのかを考え、もう少し第三者でも評価できるような仕組みにしていく必要があると考えています。1つの例ですが、「ITで価格を決める」というようなことです。

食料の場合は市場原理や、食の安全保障などのバランスがあります。最低限の食料は確保しなければならず、それを生産する「人」と「農地」が必要になってきます。最低限の食料は死守しつつも、そこからは食料を選択する消費者の自由、というバランスがあると思います。

小泉: 世界の農業と日本の農業での違いはありますか。

池田: ヨーロッパでは農業地政学という日本にはない学問があります。食料生産をどうするべきかという国レベルでの全体のヴィジョンがあります。

例えば都市に対してその周りの農地は責任を持つ、という取り決めをし、食料生産基地を確保します。そして最小限のインフラ投資をします。

日本に直すと、例えば仙台では、山形、秋田、青森の農地はある程度責任を持つと取り決めるとします。「責任」というのは買い上げるということです。スーパーや消費者など全体が気を付けながら買うという形で成り立たせていきます。

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