2019年12月5日、日本マイクロソフトはビジネスリーダーを対象にした「Microsoft Envision The Tour 東京」を開催した。
マイクロソフトの新社長や事業会社の幹部が登壇し、マイクロソフトのデジタルトランスフォーメーションに対する戦略と、ポイント、事業会社でのDXの取り組みが話された。
DXはマイクロソフトの戦略そのもの
講演ではまず、日本マイクロソフト 代表取締役社長 兼 マイクロソフトコーポレーション コーポレートバイスプレジデント 吉田仁志氏(トップ画像)からの挨拶があった。
マイクロソフトでは「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というミッションを掲げている。このミッションの下、現在全社で取り組んでいるのが本イベントのテーマでもある「デジタルトランスフォーメーション」であり、顧客の経営改革、ビジネス変革をマイクロソフトのテクノロジーを基盤として支援していくという。
日本でも10年ほど前からバズワードとして出回っていたが、定義がいまひとつでピンとこない顧客も多かった。ただし、マイクロソフトにとってデジタルトランスフォーメーションはバズワードではなく戦略そのものである、という。
マイクロソフトは元々ソフトウェアライセンスを販売することで売り上げを伸ばし、成長してきた会社だ。しかし40年経つと、ビジネスモデルも段々陰りを見せ始め、同社自身の存在意義を考え直さなければいけない時期に来た。そこで顧客を中心に置き、「顧客の成功無くしてマイクロソフトの成功は無い」という考えに至り、クラウドを基盤としたビジネスモデルを立ち上げたという。
このビジネス基盤を構築するため、実際に「売る」という視点から「顧客に買っていただく」、あるいは「顧客の事業の役に立つ」という視点に変えていったそうだ。そのために社内の製品戦略、オペレーション、カルチャー、社風、働き方などを徹底的に変えた。そして変革を支えてきたテクノロジー自身にもメスを入れて変えてきたという。
吉田氏は「マイクロソフト自身のトランスフォーメーションも道半ばであるが、この痛みを伴う大改革をベースとして顧客のデジタルトランスフォーメーションのお手伝いをさせていただきたい。自社の痛み、上手くいかなかったことなども包み隠さず伝えて、顧客を支えていきたい」と述べて挨拶を締めた。
DX成功のための4つのポイント
続いて登壇したのは、マイクロソフトコーポレーション コーポレートバイスプレジデント クラウドビジネス担当 沼本健氏だ。沼本氏からはマイクロソフトが世界中の様々な企業のデジタルトランスフォーメーションを手伝う過程で学んだこと、そして同社自身のデジタルトランスフォーメーションで学んだことについて説明があった。

現在、「デジタルトランスフォーメーション」という言葉は単なるバズワードではなく、経営者にとっての重要な課題であり、収益性や効率性に対するインパクトの指標なども出ているという。また、「2025年の崖」が象徴するように、企業のシステムのレガシー化について危機感が高まっている事にも触れ、「デジタルトランスフォーメーション待ったなし」の状況にあることが述べられた。
マイクロソフトは世界の様々な組織のデジタルトランスフォーメーションの支援を行ってきたが、その中で以下の4点が特に重要であると感じたという。
まず1つは「デジタルトランスフォーメーションはテクノロジーから始まるものではない」ということ。まずは戦略・ビジョンがはっきりしていなければならないが、この点を明確にせずテクノロジーのアップデート中心にディスカッションをしてしまう顧客は未だに多いという。その場合、せっかく多大な投資をしても、長期的なトランスフォーメーションにはつながらず、むしろ既存のビジネスモデルやビジネスプロセスが若干改善する程度にしかならない。
2点目は「社風」。ビジョンとストラテジーが明確になった後には、変化を組織が自ら求め、それに適応していくための文化が不可欠であり、これが無ければデジタルトランスフォーメーションはやはり一過性のものにしかならない。
マイクロソフト自身も売り切り型のライセンスビジネスモデルから、クラウドサブスクリプション・クラウドコンサンプションをベースとしたビジネスモデルに移行するためのデジタルトランスフォーメーションの真っただ中にいる。それを遂行する上で必要だったのは、エンジニアリング・営業・マーケティング・サポートまで「変化への期待値」を浸透させて、そういったカルチャーを育てていくための努力を包括的にしなければいけなかったという。
3点目は、デジタルトランスフォーメーションの成功にはビジョン・ストラテジーや文化以上に「どういった形で自社のユニークな可能性を提示するのか」が重要であること。これは1つの製品・1つの事業のレベルにおける差別化を図る、ということではなく「市場に対してどのような取り組みを行いたいのか」といった事について深い視座が求められているという。
4点目は実行能力。それは「自社にどういったスキルを持った人間が働いているのか」といった人材の観点や、「実行のプロセスをどうするのか」といった観点などがあるという。
「この4つが揃う事ではじめてデジタルトランスフォーメーションが成功する」と述べて、沼本は説明をまとめた。
また、ゲストとして東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本) 取締役副社長 小縣方樹氏が登壇し、同社の核である鉄道事業についてのビジョンと、それに対するデジタルトランスフォーメーションのあり方について以下のように述べた。
鉄道事業の最重要基盤は「安全」であるが、同時に重要なのは「列車を安定的に運行する」ということである。この点をいかにレベルアップさせるかが、利用客のサービス向上という意味でJR東日本今後の課題なのだ。
上記のようなビジョンのもと、例えば列車の自動運転やAIを活用した列車の運行管理などの研究開発を同社では進めているという。
また、夜間に発生する列車のメンテナンス作業においても、最新技術を導入して従来の「タイムベースメンテナンス(定期的なメンテナンス)」から「コンディションベースメンテナンス(状態に応じて、必要な箇所に必要なメンテナンスを行う)」を方向に切り替え、列車のより安定した運行を目指すということだ。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。