コンシューマのIoTとAIは、明るい未来をもたらすのか ―八子知礼 x 小泉耕二【第5回】

IoTNEWS代表の小泉耕二と、株式会社ウフル専務執行役員で、IoTNEWSの運営母体である株式会社アールジーンの社外取締役でもある八子知礼が、IoTやAIに関わる様々なテーマについて公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では、第5回をお届けする。

世界は今、急速に変化をしている。そのためか、私たちの未来予想図はとても錯綜しているように見える。

たとえば、人工知能(AI)だ。産業や社会のデジタルトランスフォーメーションを実現する手段としてAIを活用し、新しい仕事をもたらす可能性まで見据えている人たちがいる。その一方で、「人工知能に仕事を奪われないためにどうすればいいか」といった悲観的な議論もいまだによく目にする。

大切なことは、「明るい未来」のためにテクノロジーをどう使うかではないだろうか。ただ、そんな”前向きな”考え方が難しい理由には、実感をともなわない”革命”といった言葉や、遠すぎる未来の話がひとり歩きしていて、そこにつながっていく具体的なイメージを持ちにくいということがあるかもしれない。

そこで今回、コンシューマ(消費者)にとっての「明るい未来」をテーマに、IoTとAIで近い将来に実現が期待されること、そのために今必要なことは何かを、八子と小泉が語った。あくまで夢物語を語るのではなく、現実から未来へと向かうプロセスについて考えていく。

切り口は、「コネクティッドカー」だ。

クルマは“移動する空間”になる

小泉: 「明るい未来」というテーマでまず思い浮かぶのは、コネクティッドカーです。とくに、CESでトヨタが「e-Palette」を発表したこともあり、自動運転の世界が現実味を帯びてきました。八子さんは、自動運転によって街はどのように変わっていくとお考えですか?

八子: まず、今でも歩道と車道は分離されているわけですが、自動運転車を走らせようとするとそれをもっと明確にする必要がありますね。そうなれば、自動運転車はその特性を活かして、”自ら”目的地を選んで街中を走り、目的地につくと”自ら”駐車するといったことが可能になるでしょう。

そして、クルマの中では新しいビジネスがはじまります。それは飲食店かもしれませんし、マッサージを提供するお店かもしれません。

小泉: クルマの中が色々なお店に変わるというイメージですか?

八子: そうですね。積み替えが可能なモジュールになっていることが理想です。つまり、空間を色々な人が借りて、時にはマッサージ、時には飲食店といったスペースとして代わっていくイメージです。それは、昼と夜で分けてもいいと思います。

小泉: クルマそのものが自動で走るということはみなさんイメージできてきていると思うのですが、クルマのなかでどのようなことができるのかについてはまだこれからですよね。

私が気になっているのは、安心・安全なのかということです。自分が乗っているクルマがきちんと道路の中を走っているのかと。慣れてくるのだとは思いますが、過渡期では気になる方も多いのではないでしょうか。

八子: 確かに過渡期であれば、きちんと駐車できているのか、どこへ向かっているのかなどは気になるかもしれませんね。

小泉: 慣れてくるものでしょうか。

八子: 慣れてくるはずですし、トヨタの「e-Palette」のように空間だけが提供され、あとは勝手に走行するという場合ですと、「走行については気にしないでいいですよ」という配慮が前提とされるでしょうね。

その際には、外の景色は見られないような状態になっていることも考えられます。そうなると、そもそも空間が移動しているだけであって、走行しているという感覚すらなくなってくると私は考えています。

クルマというよりも、「空間のビジネス」になるわけです。たとえば友達と数人で乗って、2時間ほどカラオケをしてまた別の場所で降りるというようなことが普通にできてくるでしょうね。その場合、外の状況を意識しながらカラオケをする、というようなことはないですよね。

IoTとAIで明るい未来はくるのか、その”道筋”を考える ―八子知礼 x 小泉耕二[Premium]
株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフル 専務執行役員IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

小泉: なるほど、確かにそうですね。少し話が変わりますが、電車はどうなるのでしょう。電車は今のままでしょうか?

八子: 自動化すると運転手は必要なくなります。ただ、電車の場合、クルマと違って個人が空間を「占有する」ということが難しいですよね。

小泉: そうですね。だとすると、ただ移動したいというヒトは電車を使えばいいですし、少し割高でもプライベートな空間が欲しいと思えば、クルマを使うというような棲み分けになってくるのでしょうか。

八子: そうですね。たとえば、長距離の視点で考えてみましょう。明日の朝いちばんに東京から大阪に行かなければならないが、今日は23時まで東京で会食があるというような場合。

小泉: 八子さんによくありそうなケースですね(笑)。

八子: ありがちですね(笑)。そのような場合、今だと「ムーンライトながら」のような夜行快速列車を使わない限り不可能です。ただ、自動運転車を使えば、プライベートな空間で一晩ゆっくり休むというようなことができるでしょう。「走るカプセルホテル」みたいなイメージでしょうか。

小泉: なるほど。プライベート空間の延長としてクルマを考えた場合には、その使い方はとても現実的な感じがします。東京から大阪のような長距離ですと走るのは高速道路ですし、そのようなところから新しいビジネスが始まっていきそうですね。一方で、街の中だとわざわざそのような用途で使う必要はない気がします。

八子: 街の中だと、カラオケのようなエンタメ空間の方がいいかもしれませんね。

小泉: そうですね。カラオケですと、私はやっぱり窓があった方がいいです。夜景を見ながらカラオケができますし。

八子: いや、私は窓がない方がいいですね。集中したいので(笑)。

クルマと街がともに創る「空間のビジネス」

小泉: 自動運転によって、クルマが“移動する空間”になるというイメージがわきました。ただ、単純に“箱が動く”ということではなく、あくまで都市空間の中で、クルマという空間が動いているという見方が大事だと思います。

そこで生まれるアイディアとして、たとえばクルマの中にいるヒトが体調を崩してしまった場合に、緊急車両が自動で駆けつけるというような街とクルマのコネクティビティがあります。他にも、ふだん生活していくなかで、クルマと街がつながることで生まれるサービスは何か考えられますか?

八子: たとえば、遅刻しそうなときに、あわててタクシーに乗りたいけどなかなかつかまらないというようなことがありますよね。そのような場合に、自分のスケジュールと行先案内をデジタルで連動させ、自動的にタクシーを予約・手配しておくというようなことができればいいですよね。

小泉: なるほど。GoogleマップとGoogle カレンダーが一体になって、しかも移動手段まで提供してくれるというようなことですね。

八子: そうです。もちろん、決済は事前に完了していて、経費処理まで自動で行われるという。

小泉: 決済の仕組みは重要ですね。私は海外に行ったときにUberを使って電子決済をすることも多いので慣れていますが、使ったことのない人はなかなか慣れないかもしれないですね。でも、これも誰もが便利だと感じるようになれば変わっていくと思います。

八子: 「空間のビジネス」になってくるので、たとえば郊外のリゾート地をシェアするようなビジネスを手がける企業がすでにありますが、今後は自動運転で走るクルマを年間で何日分と確保し、活用するということが出てくると思います。

あるときはピザの配達、あるときはホテル用の部屋、あるときはカラオケルームというようなさまざまなサービスを、同じ予約体系の中で取りそろえるということができます。

小泉: なるほど。それだと、お金もしっかり回るようなイメージがわきます。先に支払われているわけですから、商売としてやりやすいですよね。

そう考えていくと、クルマそのもの、クルマの中のサービスを提供する事業者、そしてサービスを受ける人たちのあいだできれいにビジネスモデルがつくれそうな気がしますね。

今だと、移動一つとってもGoogleマップを見れば目的地までのルートが移動手段ごとに出てきますよね。そういうことがすでにできているので、自動運転車を使った場合にもできそうだという現実感があります。

八子: 前回、スマートシティのときにもお話ししたように、これからはインテリジェントなビル(ビル自体がさまざまな機能を持ち、全体が統合制御されていくようなビル)がどんどん開発されていくでしょう。一方で、クルマの自動運転によってビルの中の一つ一つの部屋、つまり空間を街の中へ流出させていくという流れも起きてきます。

つまり、ビルなどの建物の機能をインテグレーションするだけではなく、それをばらばらにして、街の中のあちこちに配置していくということも可能になる。そうすると、不動産業界にとっても新しいビジネスのチャンスと言えるでしょうね。

シェアオフィスでもカラオケなどのエンタメ空間でもなんでもいいのですが、それがビルの中のあるという必然性がなくなっていくわけです。

アンバンドル(解体されること)の流れをおさえておくことが重要です。わかりやすい例ですと、私たちはこれまでテレビの前に座っていることによってしか享受できなかったコンテンツを、今では一人一人が持つスマートフォンを使えば享受できてしまいますよね。同じことが、Mobility as a Service(MaaS)や「e-Palette」のような話においても、起きてくるのです。

IoTとAIで明るい未来はくるのか、その”道筋”を考える ―八子知礼 x 小泉耕二[Premium]
株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

AIスピーカーはエコシステムのひとつ

小泉: ここで、クルマからイエナカの方に視点を変えていきたいと思います。最近のトピックは、やはり(Amazon Echoなどの)音声応答スピーカーですね。ただ、スピーカーそのものよりも、その中のAIエンジンやアルゴリズムの方が重要であると私は考えています。

IoTの時代においては、エコシステムがビジネスモデルの主流と言われます。エコシステム全体が儲かれば、自社も儲かるという仕組みですね。

音声応答スピーカーも同じで、スピーカーそのものはツールの一つにすぎず、他の企業とエコシステムをつくって、(スマートホームの業界)全体で儲けていくというビジネスモデルになると考えています。

ただ、現状ではそうはなっていないな、というのが私の印象です。今後、スマートホームではどのようなエコシステムが考えられそうですか?

八子: まず言葉の定義として、「ビジネスモデル」というのは、一般的には、ある一つの会社の中の閉じた世界の話です。一方で、複数の会社が集まり、自律的に発展ができるビジネスの生態系のことを「ビジネス・エコシステム」と呼んでいます。

では、その考え方を前提に、企業がイエナカのビジネスを展開しようとした場合、そこで課金をする仕組み、つまりエンドユーザーからリクープ(顧客から費用を回収すること)する窓口がないのであれば、他の企業を連れてくるしかないですよね。

往々にして、ビジネスモデルがつくれないと言っている方々は、リクープする窓がないのか、課金するプレーヤーがいないのかに尽きるわけです。

小泉: たとえば、「Netflix(ネットフリックス)」ありきのスマートホームというようなイメージですか?

八子: それも一つでしょうね。現状、課金の”口”を持っていないのであれば、ネットフリックスのような課金の口を持っている人たちのサービスにプラグインするしか方法がないということです。他にイエナカで課金の口と言えば、電力やガス、通信などですね。

小泉: 私は、ネット企業が中心になるような気がしています。たとえば電力会社であれば、家の中という閉じた空間でのサービスに限られてきますよね。

かつてドコモの「iモード」が登場したとき、みんなあの“口”を使って、決済のしくみをつくってしまおうという動きがありました。ただ、そんなにうまくいかなかったのです。サービスに紐づいていない課金の口はあまり使われないからです。

Netflixのような動画視聴サービスは、みんなが動画を見たいからお金を払っています。あるいは、Amazonの会員サービスもそうですよね。そこに他の企業のサービスもオンしていくような流れがいいのかなと思いますね。

八子: たとえば通信は、ユーザー調査をすると、価格の安さでしか選ばれていないのです。一方で、その通信料はとても上がってきています。

ユーザーはその月額料金で有料のコンテンツを買ったり、Eコマースで商品を買ったりしています。つまり、通信サービスを使いながら、モノを買うということを普通にしているわけです。

つまり消費者からすると、「モノを買う」という行為に対して、幅広い課金のタイプが含まれていればいいということですから、Eコマース、あるいはキャリアによるコンテンツの配信など、これまでの延長線上で考えるのが現実的なのかもしれません。

そう考えると、サービスやコンテンツの消費は(Amazonや楽天のような)Eコマースのうえに既に乗ってきていますから、やはりEコマースは強いのではないかという気がしています。

”ヒト中心”のIoTがあらゆる空間をつなぐ

小泉: スマートホームでは、スマートロック、スマート蛍光灯など色々なツールがあります。そこで、家賃より5,000円ほど高く払えば、そのようなスマートホームの製品が一式借りられるといったサービスが既に始まっています。これも一つですよね。

ただそれだけではなく、外からスマートな製品を一式買ってきて、たとえば自分が楽天の会員だとすると、会員費にプラスでいくらか払うとその製品に紐づいたサービスを受けられるというようなことも起きてくるというわけですね。

八子: そのように、サービスを前提としたものが主流になると思います。たとえば、電球を1個買ってきて、色が変わるということにお金は払わないですよね。

小泉: そういうことなんですよ。

八子: 空調になんらかの機能をつけるので、その分これだけのお金を払ってくださいと言われても、うーん、という感じですよね。ですから、モノ自体にこだわっているといけないですよね。

企業はそのモノによって、どのようなサービスが提供されるのかまで考えなければいけませんし、そのサービスというのはやはりEコマースやコンテンツ企業がになっていくと考えられるでしょう。

小泉: たとえば、ハワイのビーチ風の演出ができる家キットみたいなものが楽天で売っているとします。クリックすると、演出に必要なハード製品が一式送られてきて、一通りセットするという。

その次は、サブスクリプションで異なる演出を選べて、次はローマ風にできるというようなサービスが考えられます。メチャカリのようなレンタル・サービスのイメージですね。

八子: 一定の月額料金を払えば、壁に飾った絵画の中身を毎月変えられるというサービスは既にありますよ。壁紙といった施工を必要としない、モノの入れ替えだけでできるのであれば、サービス化は十分考えられますね。

小泉: そのような発想がむしろ根幹にあって、その中に偶然デジタルデバイスが一つあるというような考え方の方が受け入れられやすいのではないかと思います。

八子: サービスモデルありきで、そこにモノが点在しているという考え方ですよね。

小泉: スマートロックだけがぽつんとあっても、便利かもしれませんが、それだけ買おうとはなかなか思いません。結局、全体としてつながっていないといけないですよね。

八子: そうです。デバイスがつながるということは当然ですが、それだけではなく部屋と部屋、屋内と屋外がつながっているということでなければ、意味がありません。

小泉: ですから、家のなかだけではなく、家から出たところで使うスマートデバイスのようなモノも全部一つとしてつながっているイメージができていれば、なんらかの課金の口を持った企業が課金をして、サービス事業者がそれを分配するというモデルがつくれるということですよね。

IoTとAIで明るい未来はくるのか、その”道筋”を考える ―八子知礼 x 小泉耕二[Premium]

八子: そうですね。あるいは、環境の温度や湿度、照度、雰囲気や香りといったものまでコピーして、クルマの中にペーストできるというようなことができれば、それは十分お金を払う価値はあると思いますね。

小泉: 先日、ある企業の展示で、リビングで聴いていた音楽を、寝室に移動して、途中から流すというようなデモをやっていました。それに近いようなイメージでしょうか。

八子: そう、ですね。でも、それだったらスマフォで流せばいいと思いますけどね(笑)。

小泉: 確かに、もう一回聴き直せばいいですね(笑)。ただ、実現しようとしている、さきほどのコピーとペーストのようなイメージは共通していますね。

八子: そうですね。AIとかIoTで実現される世界は、やはりヒトを中心として据えていかないと感じますね。まだまだモノを中心に考えすぎているような気がします。

小泉: なるほど。ヒトの行動や喜びといったものを軸に、さまざまなデバイスを組み合わせて、サービスをつくっていくということですね。デバイス自体はいいモノがたくさん出てきていますから。本日はありがとうございました。

放談企画の第4回までの記事はこちら。

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