KDDI株式会社、株式会社KDDI総合研究所、国立大学法人京都大学大学院工学研究科の野田 進 教授、森田 遼平 同特定研究員、井上 卓也 同助教らの研究グループ(以下、京都大学)はこれまで、通常の半導体レーザよりも高出力で狭い拡がり角のビームが得られる「フォトニック結晶レーザ」を用いた、自由空間光通信の研究開発を行ってきた。
フォトニック結晶レーザは、光ファイバ増幅器などの大型装置を使わずに、単一の半導体デバイスだけで光ファイバ増幅器などを用いた場合と同等以上の送信パワーが実現できるため、通信システムの大幅な小型化や低消費電力化が期待されている。
フォトニック結晶レーザを用いた自由空間光通信は、その小型・低消費電力の特長から、宇宙空間での利用が想定されている。さらに衛星間通信での活用に向けては、3万6,000kmを超える長距離をカバーする必要がある。
これまでの実証では、光の強度情報のみを用いて情報伝達を行う「強度変調・直接検波方式」を用いていたが、長距離宇宙空間を見据えると、受信感度がより高い通信方式を適用することで、通信距離を延伸する技術が求められていた。
こうした中、KDDIとKDDI総合研究所、京都大学は、光を緻密制御するフォトニック結晶レーザを用いた、超高感度な自由空間光通信方式の実証に成功したことを発表した。
フォトニック結晶レーザの周波数変調と、弱い光でも多くのデータ受信を可能とするコヒーレント受信方式を組み合わせることで、送信器から発射された光が受信側で1億分の1に減衰していても、光ファイバ増幅器を用いることなく通信が可能となる。
通常、半導体レーザに直接電流を注入すると、その電流に応じて半導体レーザからの出力光の強度が変調される。また、この過程において、出力光の強度だけでなく、周波数も同時に変調されることが知られている。
今回、この現象を積極的に活用し、送信側ではフォトニック結晶レーザを従来の強度変調よりも効率的で大出力な「周波数変調器」として動作させ、受信側では、フォトニック結晶レーザの狭線幅性を生かしたコヒーレント受信方式を取り入れることで、極めて弱い光信号でも受信できる、超高感度な自由空間光通信方式が考案された。
実験では、0.5GbaudのNRZ電気信号によって、フォトニック結晶レーザを直接駆動し、高出力光周波数変調信号を生成した。そして、この光信号を1億分の1に減衰させ、コヒーレント受信後に復調を行っても、もとのNRZ信号が復元できることが確認された。
これにより、波長940nmにおいて、送信側のビームの直径および受信側の開口の直径を64mmと仮定した場合の伝送可能距離が、宇宙空間における低軌道衛星から静止軌道衛星間(約3万6,000km)に相当する距離で通信ができるようになった。
今後は、フォトニック結晶レーザを用いた、さらなる長距離かつ大容量な自由空間光通信を実現し、6G時代における宇宙空間での通信を支える光伝送技術の研究開発を推進していくとしている。
なお、今回の成果は、2023年10月1日~5日に開催される、光通信分野の国際学術会議「ECOC2023(The European Conference on Optical Communication)」において、一般論文投稿締め切り後(ポストデッドライン)に受け付けられる論文「ポストデッドライン論文」として発表された。
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