無数の電波が飛び交う中で混信を避けるためには、スマートフォンなどの無線通信端末が、所望の信号のみを精密に抽出して受信する必要がある。
そのために重要な役割を果たすのが超音波フィルタだ。
超音波は、物質がキロヘルツ(kHz)からギガヘルツ(GHz)の周波数で振動する波を指す。これは、通常の電波と比較してずっと細かな波によって構成されており、さらにはエネルギーの素子外への漏れが極めて小さいという優れた性質を持っている。そのため、電子部品から作るフィルタよりも圧倒的に小さく省電力なフィルタを実現できる。
無線通信端末は、Wi-Fi、Bluetoothなどの通信方式や使用する国や地域によって、さまざまな通信帯域を利用する。例えば、ハイエンドのスマートフォンは100個近い超音波フィルタを搭載していると言われており、これによって異なる帯域の信号を効率的に送受信できるようになる。
今後は、ますます多くのフィルタが必要となることが予想されており、さらなる小型化が重要となる。そのためには、電気の配線のように、細い経路(導波路)に振動を閉じ込めて所望の方向に導くことができる超音波の回路が必要だ。
しかし、超音波は曲げることが難しく、急な方向の変化は直ぐに後方反射を引き起こすという問題があった。それゆえ、微細な超音波回路を実現することはこれまで困難であった。
こうした中、日本電信電話株式会社(以下、NTT)と国立大学法人岡山大学は、トポロジーの原理を利用した「ギガヘルツ超音波回路」を実現した。
「ギガヘルツ超音波回路」は、数学の理論であるトポロジーを新たに活用して、ギガヘルツ超音波の後方への反射を抑えて伝搬できるものだ。この回路を伝わる超音波は、周囲の周期孔の形状によってつくられるトポロジカル秩序で守られ、反射がなく安定した伝搬を示す。そのため、導波路の形状に関係なく、超音波は反射せずに滑らかに伝わる。
今回の検証により、この性質をもつトポロジカル超音波回路を利用して従来技術を使うと、数万平方マイクロメートルほどのサイズになってしまう超音波フィルタを、その100分の1以下である数百平方マイクロメートルのサイズへの小型化に成功した。
この成果は、無線通信端末で広く使用されている超音波フィルタの小型・集積化や多機能化を可能とする技術として期待されている。

両者は同技術により、半導体チップ上のミクロな空間においても、反射の影響を受けることなく、超音波の流れを自在に制御できるようになるとしている。
また、従来の技術では難しかった折れ曲がった小型導波路構造における反射の問題を解消し、スマートフォンやIoTデバイス等の無線通信端末に用いられている超音波フィルタの小型・高性能化に繋がることが期待されている。
なお、この成果は、2024年7月16日から19日に富山県・富山市で開催される国際会議「14th International Conference of Metamaterials, Photonic Crystals and Plasmonics」にて、招待講演として発表されるとのことだ。
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