パナソニックインダストリー株式会社と、東京大学大学院、九州大学大学院、名古屋大学大学院ら研究グループは、生体呼気から得られる化学情報に基づく個人認証の原理実証に成功したことを発表した。
今回発表された研究では、16種類の高分子材料と、導電性カーボンナノ粒子で構成される人工嗅覚センサを介して呼気センシングを行い、得られたデータ群を人工知能による機械学習を通して分析した。(トップ画参照)
人工嗅覚センサは、分子が吸着するとセンサ材料が体積膨張し、導電性カーボンナノ粒子間の距離が広がることで電気抵抗が増加するといった原理に基づいて標的分子を検出する。
呼気ガスの成分分析には、呼気ガスが皮膚ガスと同様に個人認証に利用可能な成分を含んでいるかを調べるために、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて行った。
その結果、呼気ガスでは皮膚ガスと共通する成分が多数検出されると共に、個人を特徴づける成分を示した特徴量マップから、個人毎に異なる呼気成分のパターンが存在することが分かった。
研究グループは、作製したセンサ素子を用いて呼気ガスの成分分析で得られた個人識別マーカー分子のセンシングを行い、呼気ガスの濃度範囲(2-10 ppb)で標的分子を検出可能であることを確認した。
呼気センシングは、サンプリングバッグを用いて採集した呼気を、内部に人工嗅覚センサを設置した計測システムへ流入して行われた。
年齢・国籍・性別の異なる空腹状態の6名を対象に呼気センシングを行った結果、16個のセンサ素子は全て異なる応答を示し、加えて個人毎に異なるパターンのセンサ応答が得られた。
また、個人を特徴付けるための各センサの寄与度を評価したところ、全てのセンサ素子が個人認証に有効であることが確認された。
呼気センシングによる個人認証の原理実証は、人工嗅覚センサを介して得られたセンシングデータに対して、ニューラルネットワークモデルに基づく機械学習を適用して行われた。
6名を対象に行った個人認証の実証実験では、平均97.8%の精度で個人を識別することに成功(下図(a))。別の日に呼気をサンプリングした場合や対象人数を20名に増やした場合の実証実験においても、同様に達成された。
この研究では、データ分析に使用するセンサ数の増加に伴って、識別精度・再現性が上昇する傾向も観測されており(上図(b),(c))得られた一連の知見は今後さらなる多人数の識別へ向けたセンサ開発の重要な指針になるという。
また、呼気による生体情報は、従来の物理情報を介した方法と比べて、情報の偽造や窃取した情報による長期的ななりすましが困難であり、高いセキュリティの生体認証技術の実現に繋がると期待されている。
今後は、この技術の実用化に向け、さらなる多人数を対象とする実証実験や、摂食が及ぼす認証精度への影響など、人工嗅覚センサのチャンネル数を増やすと共に、人工嗅覚センサのパフォーマンス向上を図るとしている。
なお研究成果は、2022年5月20日(英国夏時間)に英国王立化学会が出版する「ChemicalCommunications」誌のオンライン版に掲載される。
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