東急は、鉄道を中心とした街づくりを推進しており、交通事業、不動産事業、生活サービス事業など、様々な事業を複数のグループ会社を構成して提供している。
そうした中、街づくりにおけるDXをより加速させるため、2021年7月1日に「デジタルプラットフォーム準備プロジェクト Urban Hacks」(以下、Urban Hacks)を設立した。
このプロジェクトでは、「東急グループのリソースを活かし、街をハックする」というコンセプトのもと、各事業でのリソースの有効活用や事業間での共通利用をし、これまで培ってきたリアルとデジタルのサービスを再デザインして提供するという、顧客への新たな価値創出を目指している。
そこで本稿では、Urban Hacksの具体的な活動内容や構想をはじめ、そのために必要となる人材や組織体制などについて、東急株式会社 デジタルプラットフォーム VPoE 宮澤秀右氏にお話を伺った。(聞き手: IoTNEWS 小泉耕二)
顧客接点のDXを点・線・面で段階的に実行していく
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): Urban Hacksは街づくりにおけるDXを加速させるためのデジタルチームということですが、具体的な活動内容について教えてください。
東急 宮澤秀右氏(以下、宮澤): Urban Hacksが進めているDXは、顧客接点にフォーカスを当てています。東急が提供しているサービスを、お客様ごとのライフスタイルに合わせ、より便利な体験価値として提供していくのが主な活動です。
そのために、アプリケーションやWeb、基盤などのデジタル開発を行っています。

小泉: 現在行われている代表的な取り組みについて教えてください。
宮澤: 主に、3つのサービス開発およびリニューアルと、長期スパンでのプラットフォーム開発という4つの開発を進捗させています。
小泉: プラットフォーム化までいけば、様々なサービスがプラットフォーム上に載ってくる形がイメージできます。
現状は、これまでのサービスのブラッシュアップや、新たな体験の提供などを行いながら、最終的にグループを横断するような、面でのサービスに落とし込まれていくのですね。
宮澤: おっしゃる通りです。あくまでUrban Hacksの目的は、お客様に便利なサービスを提供することですので、初めから全てをつないだサービスの設計をするのではなく、段階的に実行していくことで、結果的にグループ横断での便利なサービスを構築することができます。
まずは、これまで東急が提供してきたリアルな施設やサービスでのIT活用という、「点」を強化していきます。例えば、自社でプロダクトやサービスを作るといったことや、そこから得られたデータ収集や解析をすることでサービスやプロダクトを進化させていくといったことです。
そうして「点」を強化していくことで、自ずと関連する事業が連携していくストーリー「線」が生まれ、お客様の声が集まり、体験に不足しているものも自然に浮き上がってきます。
例えば、電車に乗ってある施設に行き、映画を見たりスポーツクラブに行ったりなど、お客様の行動に合わせて東急の様々なサービスを活用してもらうことにより、事業の横連携の必然性が見えてくるのです。
リアルとデジタル、各会社や各事業の架け橋となる
小泉: そうした横断的な取り組みも行っていこうとすると、東急の中でのUrban Hacksはどのような位置付けになるのでしょうか。
宮澤: 東急は、2019年に発表した長期経営構想の中で、「City as a Service」という構想を打ち出しています。

これは、統合IDやキャッシュレス、通信インフラやセンシングなどが構築された「デジタル都市基盤」を整備し、そこで得られたデータをリアル都市基盤にフィードバックすることで、一人ひとりに最適なサービス提供やコミュニティ支援を行う街づくりをしていく、という構想です。
こうした「City as a Service」を含めた長期経営構想を具体化する一つのアイテムとして、Urban Hacksの活動が位置付けられていると考えています。
これまで東急の各会社・各事業はバリューチェーン型で、それぞれの分野で責任を持って事業を回してきたという文化があるので、横連携にはまだ課題があるのが現状です。
これは、今までのビジネスの成り立ち上仕方がない部分ですが、「City as a Service」のようなデジタルとリアルの融合を実現していくためには、デジタルを活用して横連携し、お客様の期待値を書き換える体験価値を提供していく必要があります。
そこでUrban Hacksが、先ほど述べた東急全体でのプラットフォームを構築することができれば、東急の各事業を横連携させていくだけでなく、共通基盤のAPIをオープンにすることで、街や東急で行っていない事業との連携など、様々な可能性が見えてきます。
小泉: リアルとデジタルの融合、各会社や事業の連携を行う役割を果たしているのですね。
Urban Hacksと既存組織の共創によりDXを実現する
小泉: そうした構想を実現するために、必要な人材や組織はどのようなものなのでしょうか。
宮澤: 人材で言うと、UX・UIデザインやプロジェクトマネジメント、ブロダクトマネジメントやネイティブクライアント開発などの、いわゆる高度ソフトウェア開発人材を集めています。
なぜなら、顧客接点におけるサービスは日進月歩で変わっていくものですから、外注型での開発には限界があり、内製化が必要だからです。
一方、高度ソフトウェア開発人材を集めただけでは、DXは進まないと考えています。
東急はこれまで鉄道や不動産などハードを中心に投資し、その後にマネタイズするという装置産業を行っており、ウォーターフォールの外注型ビジネスを行ってきました。ITビジネスとは真逆のビジネス形態ですので、発想をトランスフォームする必要があります。
「高度ソフトウェア人材を集めて開発をしてもらう」という外注的な発想では、デジタルを活用していたとしても、トランスフォームすることはできません。
文化を変え、事業を変え、ビジネスを変えていくためには、既存の東急全体の人材がデジタルを活用して、自分たちの事業をどう変革していくかを、自分ごととして考えていく必要があります。
これを実現するために大切にしているのが「共創」です。ビジネスのプロフェッショナルと、デジタルのプロフェッショナルという、両面のプロフェッショナリズムをうまく活用し、良い事業、良い顧客体験を作っていくという連携が必要なのです。
装置産業とデジタル産業では、通じる点もありますが、タームと成果物が大きく違うため、既存の組織とUrban Hacksが共にお互いの常識をすり合わせながら、ギャップを埋めていく作業を行っています。
そうした違いを認識した上で、新たな体験を共に作っていくことが重要だと思っています。
サービス開発だけでなく、会社としての将来的なビジネスをどう発展させていくかという点に関しても、既存の人材と連携しながら共に進めています。
小泉: 開発というとシステム開発をイメージしてしまいますが、デジタルを使った新しい体験を生み出すために、Urban Hacksと既存組織が共に取り組んでいるのですね。
組織や仕組みにも必要となる「持続可能性」
小泉: 既存の人材との連携を行なっていく上で、専門知識や用語理解といった共通認識が必要になってくると感じるのですが、デジタル研修などは実施しているのでしょうか。
宮澤: 現在は実開発を中心に行っていますが、今後は研修や育成にも取り組んでいきたいと思っています。
採用に関しても現在は中途採用が中心ですが、Urban Hacks自体が持続可能な組織になるために、将来的には新卒採用の可能性や既存人材をソフトウェア開発人材に育成していくことも考えていきたいです。
デジタル化の流れは不可逆であり、デジタルを超える何かが現れるまではやり続けなければなりません。
そのために持続可能な仕組みづくりが必要であり、1つ良いサービスを作ったから終わりというわけではありません。
10年後、100年後の東急にとっても、デジタルが適切に使われるような仕組みや組織作りを行っていく必要があると考えています。
デジタル人材のスキルを街づくりにも活かしていく
小泉: 現在Urban Hacksに在籍されている方は、どのような点に魅力を感じて御社に入社されてきたと感じていますか。
宮澤: これまでデジタル人材は、基本的には自分たちの強みをデジタルサービスの中だけで発揮していました。
しかしこれからは、デジタルとリアルの境目がどんどんなくなっていく中で、今まで培ってきたデジタル側の強みをリアル側に活かして、街づくりやサービス開発を行い、社会貢献することができるといった点に魅力を感じ、挑戦してもらっています。
小泉: 「Urban Hacks」という名前からも、デジタルを活用して街をハックしていけるというイメージが湧きますよね。
宮澤: 高度ソフトウェア開発人材が自分たちのスキルを活かすことができる場だと感じてもらえるように、ネーミングやブランディングは大切にしました。
働く場所のオフィスやロゴなども含めてブランディングしていくことで、挑戦できる環境だという信頼感を打ち出しています。

小泉: 最後にUrban Hacksに応募したいと考える方へのメッセージをお願いします。
宮澤: Urban Hacksで行おうとしていることは、前人未到の長期的な挑戦です。
しかし、成功するためのリソースは東急にあると思っていますし、そこに挑戦する気持ちのあるメンバーに集まってほしいと思っています。
デジタルを使って、街づくりや自分の世代で後世に残せるものを作ることにモチベーションを感じられる人に来てもらいたいです。
小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。
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