通信を軸にしたDXの実現へ向け、求められるDX人材 ―KDDI 明田氏インタビュー

KDDIは、2023年度までに、社内外でDXを推進するDX人材を、グループ全体で約4,000名に拡大することを発表している。

その目標へ向け、社内人材育成機関「KDDI DX University」の設立や、ジョブ型人事制度の導入など、新たな変革が起こっている。

そこで本稿では、DX人材育成に注力している背景や具体的な内容、DX人材に求めることなどについて、KDDI株式会社 経営戦略本部長 兼 コーポレート統括本部 経営管理本部 副本部長 執行役員 明田 健司氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)

KDDIが考える「目指す姿」に必要なDXとは

今後コネクテッドカーやIoTの普及により、通信が生活に溶け込み、より一層利用者と密接な関係になっていくと明田氏は語る。

実際にKDDIは、2019年度から2021年度の中期経営計画のひとつに、「お客さまに一番身近に感じてもらえる会社」という目指す姿を掲げており、「通信を軸としたDX」を行うことで、これを実現しようとしている。

通信を軸にしたDXの実現へ向け、求められるDX人材 ―KDDI 明田氏インタビュー
KDDIの3つの目指す姿を、「通信を軸としたDX」で実現しようとしている。

通信を軸にしたDXとは、携帯電話を含む移動体通信事業「au」や、その店舗をはじめとするtoCへ向けたDX。また、通信を活用した働き方改革や事業成長を促すためのサービス提供などといったtoB領域、様々な企業とのパートナリングによる新たなDX事業の創造などが挙げられる。

こうした、通信を軸としたDXによる顧客への利便性向上や新たな価値提供のためには、社外へ向けたDXはもちろん、社内のシステムや構造変革といった、社内のDXも必要となるため、それを推進するDX人材が求められているのだ。

しかし、DX人材の育成及び新規DXプロジェクトの立案には、人事や予算、外部とのパートナリングといった要素が関わってくるため、会社全体で取り組まなければ実現は難しい。

そこで、社長直轄の経営戦略本部が舵取りをし、全社を挙げて取り組んでいるのだという。

明田氏は、「まず初めに目指す姿を決め、ゴール設定をすることが重要です。そうすることで縦割りにならず、ゴール実現のために全社で取り組むことができます。」と、全社で取り組むことができる体制づくりを行っていると述べた。

通常業務と戦略プロジェクトのDXを同時に実現する「KDU」

では、具体的にDX人材育成に向けての取り組み内容はどうなっているのだろうか。

ひとつめは、社内人材育成機関「KDDI DX University」(以下、KDU)の設立だ。

KDUでは、一般コースと注力コースという、大きく2つのコースに分かれている。

後述するが、KDDIでは社内の全職種が、ジョブディスクリプション(職務記述書)によって定義されている。

そしてDX推進に必要な領域は、「ビジネスディベロップメント」「コンサルタント&プロダクトマネージャー」「テクノロジスト」「データサイエンティスト」「エクスペリエンスアーキテクト」という5領域が定義されており、各領域から入校者を募る。

通信を軸にしたDXの実現へ向け、求められるDX人材 ―KDDI 明田氏インタビュー
DX推進に必要な5領域の、「役割」「遂行能力」「知識・知見」を大まかに表した図。

研修プログラムは、入校した全受講生が受ける「DX基礎研修」を受講したのち、この5領域別に用意された「コアスキル集中研修」及び、「専門スキル研修」といったカリキュラムを受講する。

カリキュラムの内容は、グループ会社であるKDDIとアクセンチュアの合弁会社ARISE analytics(アライズアナリティクス)と、KDDIとチェンジによる合弁会社ディジタルグロースアカデミアにより、オーダーメイドで作成されている。

また、コアスキル集中研修では、KDDIの過去のDX事例をベースにケーススタディが作成されており、社内及びグループ会社も含めたリソースを活用して構成されている。

通信を軸にしたDXの実現へ向け、求められるDX人材 ―KDDI 明田氏インタビュー
KDUの研修プログラム。コアスキル集中研修と専門スキル研修では、各領域別のカリキュラムが用意されている。

そして、各カリキュラムの終了時にはテストを受ける。その結果と上司の評価により、卒業時には6段階評価の内、3レベルまで到達できるよう、通常の業務を行いながら10〜20%を研修の時間に割り当てる。

ワンクールは1年で、半年ごとに100人程度入校しているのだという。

そして注力コースは、部門から選抜された10人が、受講するコースだ。

選抜された注力コースの人材は、通常の業務からは切り離され、2ヶ月で一般コースの6ヶ月分の学習を行う。

その後は社内のDXプロジェクトに割り振られ、専門スキルを磨いていく。具体的には、部門横断プロジェクトや、DXによる働き方改革、パートナー会社との新規事業などに配属されている。

通信を軸にしたDXの実現へ向け、求められるDX人材 ―KDDI 明田氏インタビュー
DXコア人材が卒業後、取り組んでいるDX案件の事例。

明田氏は、一般コースと注力コースの枠組みについて、「一般コースの受講生は、普段の業務自体がDXに関わっています。そのため、学習したことをすぐに現場で活かすというOJT(職場内訓練)が自然とできる仕組みにしています。

一方注力コースの人材は、2ヶ月集中的に学習したのち、社内のDXプロジェクトにそれぞれ配属され、事業を推進してもらいます。

注力コースの人材を分離させた組織に集めるのではなく、部門横断プロジェクトや既存の事業部門のDXプロジェクトにそれぞれ配属することで、DXプロジェクトを組織的に動かすリーダーの役割を務めてもらいたいと思っています。」と、通常業務のDXと戦略プロジェクトの推進を、同時に行える設計にしているのだと語った。

新しい人事制度により、多様なキャリア形成と成長を実現する

そして、KDDIがこうした教育と連動して取り組んでいるのが、新しい人事制度だ。

KDDIは、2020年8月より中途社員などの一部の社員から職種領域を明確化したジョブ型の人事を導入しており、2022年4月に全総合職に適用される。

職種領域は30領域で、それぞれにジョブディスクリプションが設定されている。KDUで分けられていた5領域は、この30領域の中でのDX部門だ。

また、評価軸に関しても社内統一の基準を設け、成果や挑戦、能力といった指標で判断することで、成長機会を促す方針をとっている。

通信を軸にしたDXの実現へ向け、求められるDX人材 ―KDDI 明田氏インタビュー
KDDI株式会社 経営戦略本部長 兼 コーポレート統括本部 経営管理本部 副本部長 執行役員 明田 健司氏

こうしたジョブ型人事と社内で統一された評価をセットにすることで、採用の強化及び人材の育成が実現できるのだという。

明田氏は、「今後弊社では、中途採用の比率を増やそうと考えています。良い人材を採用するためには、良いジョブディスクリプションが必要です。そこで、海外も含めたDX企業のジョブディスクリプションを調査し、社内に当てはめて落とし込んでいます。

また、社内の人材を流動的にしていくためにも、社内統一された個人ごとの評価を行い、ジョブディクリプションを基に、次のステップへ進むことができる機会を提供しています。」と、採用、人事、評価において、新しい人事制度の重要性を語った。

また、KDUにて教育されたDXコア人材の流動化を図るための施策も立てられている。

KDUの注力コースを受講する人材は、各事業部から選抜される。

そこで各事業部に対して、優秀な人材を選抜してもらう代わりに、DXコア人材を受け入れたいプロジェクトも同時に募集するのだという。

つまり、単純に人材を引き抜くだけでなく、新たなDXコア人材を確保しているのだ。

こうすることで人材のジョブローテーションを可能にし、人材の多様なキャリア形成及び、各事業部の成長を実現している。

全社員のトランスフォームへ向けて

今後は、2023年までにDX人材を4,000名、DXコア人材を500名教育することを数値目標にしている一方、全社員がDXの必要性を理解し、意識改革を行っていく必要があると明田氏は述べる。

例えば、社内の働き方改革に向けて、全社員のPCログの蓄積・分析を行うといった取り組みに関しても、DXコア人材が人事部門に配属され、推進しているのだという。

明田氏は、「既に人事などのコーポレート部門にもDXコア人材が配置され、社内の変革をリードしている。一部の部門のみではなく、DXの必要性を全社員が理解し、自身の業務を適応させていくことが求められているということです。

ですから我々も、全社員がDXの素養を持てるよう、今後も人材育成に着手していきます。」と、さらにスケールを拡大させた人材育成への展望を語った。

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