日本のものづくり最前線、「研究開発型」町工場の躍進の秘訣を探る -由紀精密社長 大坪正人氏インタビュー

“ないないづくし”からの躍進、秘訣は少量生産へのこだわりと情報発信

-ある特定の分野を少量生産で攻めていく一方で、突破した市場をさらに広げていくというアプローチはされるのでしょうか。

大坪: 「広げていく」ということが、どういうことかですね。大量生産するということであれば、全く狙っていません。それは、得意な企業にやってもらえればいいと考えています。私たちが得意とするのは、大量生産になるより前のところです。

新しい製品をつくろうとすると、まず試作から始まり、開発し、少量生産をします。その後、だんだんとコモディティ化され、どこでも同じモノがつくれるようになり、大量生産の技術が生まれ、コストが下がっていきます。そうなってしまうと、もう私たちの仕事ではありません。

-御社の場合はそこで、別の製品の試作を始め、少量生産の方へ移行していくということですね。

大坪: はい。ただ、大量生産にならないものもあります。たとえば、ロケットエンジンはそんなにたくさんつくるものではありません。世界で最も多くつくっている企業でも、年間数百台くらいです。それは少量生産のレベルです。

私たちは、ロケットエンジンの小さな部品であれば、世界の需要分の個数をこの工場で一挙につくることができます。そのように、ずっと大きくならない市場もあるのです。

私たちは、ニッチ市場を狙い、そこがダメだったら次、というふうに“賭け”を続けているわけではありません。今後の市場を予測すると、高付加価値の製品が必要な分野が見えてきますから、そこに対して先行して製品を供給していくという方法です。

日本のものづくり最前線、「研究開発型」町工場の躍進の秘訣を探る -由紀精密 大坪正人社長インタビュー
由紀精密が開発した超小型人工衛星の筐体部品:航空宇宙分野では、部品の軽量化が重要。1キログラムあたりの軽量化で何百万~何千万円の削減になる。このパネルは、1枚のアルミの板を削ってつくる。一般的な工法だと発熱が起きて材料が歪んでいくため、歪まないための特殊な工法が必要だ。

-御社のようにやりたくても、できない企業もあります。御社はなぜできているのでしょうか。

大坪: 当社もはじめは、誰にも知られていないところからのスタートでした。そこでいきなり航空宇宙をやるといっても、実績もおカネありません。本当に、“ないないづくし”の状態で、あるのはアイディアとか根性くらいのものでした(笑)。

そんな中で、「こんなことをやります」と目標を掲げて、積極的に情報発信をしました。そうすると、声をかけてくれるお客さんが出てくるのです。そのあとは、実績ですね。しっかりと実績を出すと、今度はそれが口コミで横に広がっていく。ニュースに取り上げてもらったら、当社からもそれを発信します。そうしたことの地道な繰り返しです。

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