大坪社長が考える「職人技」、“機械を動かすことは、鉛筆で字を書くことに似たり”
-ものづくりの世界では「職人」と呼ばれる方の技術が重要だと認識しているのですが、それは手作業によるものが多いのですか。
大坪: いえ、機械の方が多いです。ものづくりでは「リピータビリティ」、つまり同じものをよい品質で出し続けていくことが大切です。そのためには、手作業にあまり頼らない方向へ行かないと、どうしてもばらつきを抑えきれません。
手を使わないと「職人技」ではないかと言えば、まったくそんなことはありません。たとえば、金属を削るためのプログラムをどのように書くか、どういう加工工程にしていくか、切削液は何を使い、どの機械を使うのか、そうしたすべてがノウハウの塊なのです。
ものすごくいいペンを使っても、字が下手な人はいますよね。機械とは、鉛筆みたいなものです。それをどのように動かすかは、すべて人間が決めるのです。同じ機械を持っている中国の企業と何を勝負するのか、という話においても同様で、機械は道具ですから、結局それをどう削るかは自分たちのやり方次第です。
そこには色々な要素があります。たとえばある製品を、今は一部の企業しかつくれなくても、時間が経てば他の企業でも同じように加工できるようになるかもしれません。ただ、そこに至るまでのスピード感も競争力です。
あとは、それを100個同じ品質でつくれるのか、10年後にまたつくる際に、10年前と同じ品質でつくれるのか。そういうことを一つ一つ考えていくと、ものづくりというのは本当に難しいことがわかります。

-大量生産でつくるものと、御社のように少量かつ高付加価値でつくるものの差は、簡単に言えばどういうところにあるのでしょうか。
大坪: 量産ではつくれないタイプの製品があります。量産する場合は、金属でも樹脂でも基本的に、金型を使います。ただ、金型では成型できないような材質を使う場合がその1つです。
たとえば、超高温まで耐えられる製品をつくろうとする場合です。金属を加熱し、溶かして金型に流し込もうとしても、そもそも溶けません。溶かすには、加熱温度を上げるために莫大なコストが必要ですし、金型はもっと融点が高い特殊な材質のものを使わなければなりません。
たとえば、ジェットエンジンに使われるような部品などがそうです。あるいは、体の中に機械を埋め込む際には、生体親和性の高いチタンを使うのですが、チタンも耐熱合金ですから、同じように簡単にはつくれません。
そのようなつくりにくい特殊なものを、私たちはあえて狙っています。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。