多様な製造現場のセンサをつなげる、IO-Linkを活用することのメリット ―オムロン 李氏インタビュー

本記事は、オムロン株式会社の協力のもと制作しております。

昨今、多品種少量生産や人手不足の加速を背景に、製造現場では生産性向上の課題が顕在化している。それらを解決するための重要な手段の一つとして、機械のIoT化が必須となっている。

日本でも2010年代半ばから製造現場のIoT対応が盛んになり、例えば機械の変化をセンサで捉え、それらのデータを元に稼働状態を可視化したり、加工条件を改善したりといったことが行われてきた。

一方、その当時は、機械の情報を取得するセンサと上位コントローラとの間でやり取りするためのインターフェースは、センサメーカーとコントローラメーカーの間で統一されておらず、上位のコントローラからコントローラと異なるメーカーのセンサの情報を取得することは容易ではなかった。

こういった背景から、センサ~コントローラ間のインターフェース統一を図るために登場したIO-Linkの普及が拡大してきている。

本稿では、IO-Linkの概要及びメリットについて解説し、オムロンがIO-Linkを活用してどのように課題解決をしているのかについて、オムロン株式会社、ネットワーク商品のプロダクトマネージャである李 海敦氏にお話を伺った。(聞き手: IoTNWES代表 小泉耕二)

グローバルかつオープン、汎用性の高いIO-Linkのメリット

オムロンは、モノづくり現場をオートメーションで革新するために、産業用コントローラであるマシンオートメーションコントローラや、産業用ネットワーク、取得したデータを分析するAIやソフトウェアといった、IoTに必要な様々な製品やサービスを展開している。

しかしそれらを活用するためにはまず、生産ラインを構成する設備の情報を取得することが重要だと李氏は語る。

そのためには、顧客の手間やコストといった導入障壁をさげ、多様な製造現場にも適応できる汎用性のある情報取得方法を提供しなければならない。そこでオムロンが注目したのがIO-Linkだ。

IO-Linkは、IO-Linkコンソーシアムにより2005年にオープン仕様化された、国際標準規格の情報技術だ。

国際標準化機関であるIECの規格、「IEC 61131-9」に準拠したセンサやアクチュエータ用の通信技術で、世界各国のメーカーが対応製品を提供していたり、様々な産業ネットワークに対応していたりという利点がある。

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IO-LINK HP
IO-LINKの市場(IO-LINK)

また、全てのIO-Linkデバイスは、デバイス自身の詳細情報が記述された、IODD(IO Device Description)ファイルを持っている。ユーザはこのIODDファイルをメーカーに関わらず使用することができるといった点も、IO-Linkの普及を後押ししている。

さらに、従来標準化されていなかった、オン・オフ信号、アナログ信号をIO-Linkは同じ通信規格で使用することができ、標準化することができる。

加えて、IO-LinkマスタとIO-Linkデバイス間のケーブルは、IO-Link非対応デバイスにも使用されている標準の3線ケーブルを使用することができるため、これまでは別々に配線を行わなければならなかったセンサ類を統一し、設計上有利な環境構築が可能だ。

多様な製造現場のセンサをつなげる、IO-Linkを活用することのメリット ―オムロン 李氏インタビュー
IO-Link対応デバイスとIO-Link非対応デバイスが混在しているが、同じIO-Linkマスタに繋ぐことができる。

こうした汎用性の高さがメリットのひとつだ。

また、IO-Linkは、最大32byteのプロセスデータ通信による、これまで以上に細やかなセンシング状態の取得、デバイスデータ通信によるデバイスのパラメータの読み書き、更にはデバイス自身の診断情報の取得が可能となるのだ。

加えて、アナログ通信では「ノイズ」により誤差が生じてしまうということがあるが、IO-Linkはノイズ耐性に強いという利点もある。

IO-Link対応のオムロン製品

こうしたIO-Linkの強みを、オムロンは製品やサービスにどのように落とし込んでいるのだろうか。

まずは、IO-Linkに対応したオムロン製品の概要と構成を紹介する。

IO-Linkに対応している製品は、IO-Linkマスタ、IO-Link I/Oハブ、IO-Linkセンサで、IO-Linkマスタより上位のマシンオートメーションコントローラやそれらの統合開発環境もオムロンは提供しているため、柔軟なシステム構成が実現できるとともに、複雑なIoTシステムの設計、立ち上げ、保守を簡単に行える製品ラインナップとなっている。

IO-Linkマスタは「NXシリーズ IO-Linkマスタユニット」(以下、NXシリーズ)、「GXシリーズ IO-Linkマスタユニット」(以下、GXシリーズ)及び「NXRシリーズIO-Linkマスタユニット」(以下NXRシリーズ)で、NXシリーズは、スクリューレスクランプ端子台タイプのIO-Linkマスタだ。マシンオートメーションコントローラの横に直接繋いで利用することができる。(①)

また、EtherCAT経由でリモートターミナルの横に繋げ、EtherCATのスレーブとして構成することもできる。(②)

GXシリーズも同様に、EtherCATの下に構成する、ボックスレスタイプのIO-Linkマスタユニットだ。(③)(NXRシリーズはEtherNet/IPの下に構成)

多様な製造現場のセンサをつなげる、IO-Linkを活用することのメリット ―オムロン 李氏インタビュー
PLC、IO-Linkマスタ、センサ類の構成を表した図。

上図赤枠のように、オムロン製のIO-Linkマスタユニットにも、IO-Link非対応のデバイスを接続して構成することができるため、既存のセンサを残しておきたい場合にも対応している。

一方青枠のように、オムロンのIO-Link対応デバイスで構成すると、設定がより容易になるといった利点がある。末端のセンサから上位システムまでオムロン製品で構成することのメリットは、次の章で紹介する。

煩雑な作業をなくし、導入障壁を下げる

では、実際の現場でIO-Linkに対応したオムロン製品は、どのように活用されているのか、事例を伺った。

まずは、設計・立ち上げの効率化を行うために活用される例だ。

IO-Linkを導入した現場では、IO-Link非対応のデバイスからIO-Linkに変更することで、取れる情報量は増えるが、設定が複雑になるという声が多数あったと李氏は語る。

自動車の組み立てラインのような大規模な生産ラインでは、センサの総数は数百〜数千となる。従来であればそれらのセンサの設定は、PC上の設定ソフトウェアを使って1台1台行う必要があったため、数千のセンサに対して実施する場合の工数は膨大となり、導入する際の障壁となっていた。

そこでオムロンは、使用するIO-Linkデバイスをドラッグアンドドロップするだけでパラメータが一括で自動設定される設計ツール、統合開発環境「Sysmac Studio」を使用することで、設定・立ち上げの工数を大幅に削減することに成功した。

これが、全体をオムロン製品で構成することのメリットのひとつだ。

多様な製造現場のセンサをつなげる、IO-Linkを活用することのメリット ―オムロン 李氏インタビュー
オムロンが提供する統合開発環境「Sysmac Studio」。設定工数は10分の1以下に短縮でき、設定項目の抜け漏れも防ぐことができる。

また、通常は専用ツールからデバイス1台ずつにデータを転送していた立ち上げに関しても、コントローラとネットワーク、スレーブを、オムロン製品で構成することで、センサ側に一括でデータ転送が行えるインターフェースも提供している。

多様な製造現場のセンサをつなげる、IO-Linkを活用することのメリット ―オムロン 李氏インタビュー
左: 専用ツールを使い、デバイスに1台ずつデータを送信している。 右: オムロンのPLC、IO-Linkマスタユニット、デバイスを活用すると、一括で設定を行うことができる。

さらに最近では、取ったデータの可視化ツールも同時に提供している。

例えば下図のように、液体の流量と温度をセンシングできるセンサを浸炭炉に設置した場合、現在の温度の値や流量の値と、稼働状態や生産実績などを同時に可視化することができる。

多様な製造現場のセンサをつなげる、IO-Linkを活用することのメリット ―オムロン 李氏インタビュー
浸炭炉にセンサを設置した際に見ることができる可視化画面のイメージ。

このように、これまでは利用者自身で構築しなければならなかった可視化機能も含めて提供することで、導入障壁を下げているのだ。

李氏は、「設定ミスがあると、何が原因で動かないかを探すのも難しくなります。そこで、そうした煩雑な作業を我々がなるべく取り払うことで、技術の普及につながると考えています。」と、技術の浸透を促進させることが重要だと語った。

予兆保全を行い、稼働率を向上させる

次に、稼働率の向上と予兆保全に関する事例について紹介する。

稼働率の向上を実現するためには、設備が止まることを防がなければならない。そのためには、設備が止まる前に異常が起こりそうな箇所を予知し、保全する必要がある。

こうした課題を解決するためにも、オムロンではIO-Linkを活用して商品開発が行われている。

例えば、光電センサを設置している現場では、光電センサに汚れ等が付着すると受光量が低くなり、最終的にはセンサが誤検知するということが発生していた。

従来のオン・オフの信号だけでは、光電センサが反応しなくなったということが判断できるのみであった。

IO-Linkを活用することで、オンの状態の中でもどれくらいのレベルにいるかの値をデータ送信し、設定しておいたしきい値を超えた際に通知することができる。

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状態監視による予兆保全 光電センサ編(オムロン株式会社)

同様に近接センサの場合でも、安定稼働の領域を設定しておけば、その領域を超えた距離になった場合に通知をすることができる。

このように、単純なオン・オフだけでなく、その状態の詳細を知ることで、事前に停止を阻止する保全を可能にし、稼働率の向上を実現している。

統合プラットフォームのメリットを活かし、新たな課題に挑戦する

今後は、取得可能なデータの幅を広げるとともに、取得したデータをどう活用していくのかに注力していきたいと李氏は語る。

例えば前述した光電センサの例では、「レンズの汚れ」という原因究明は人手で行っている。

そうした誤動作時の原因特定や復旧時間短縮の自動化を実現しようとすると、その周辺の状況やデータを組み合わせて判断する必要が出てくる。

そこで、取得したデータと周辺データを掛け合わせ、自動で原因特定復旧処理を行うといったことを構想しているという。

こうした連鎖している複雑な課題に対し、これまでオムロンが提供してきた統合プラットフォームを活かして解決していきたいと李氏は述べた。

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詳細は、関連リンクや関連記事を確認してほしい。

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