概念から実行段階へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring 西岡靖之氏 講演レポート

IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)は、日本機械学会の「つながる工場」分科会が母体となり、2015年6月に発足された一般社団法人だ。ものづくりとデジタルを融合させて新たな社会をデザインし、世界に発信するフォーラムであり、製造業に関わる企業230社以上が参加している。

IVIは、製造業における競争領域と協調領域に分け、協調領域においては連携することで日本の製造業を強化するため、「ゆるやかな標準」というの接続仕様を打ち立てたり、連携するための場の提供を行ったりしている。

具体的には、IVIに参加している企業各社が、議論しながら課題解決へ向けた「業務シナリオ・ワーキング・グループ」による実証実験の実施や、つながる工場を実現するべくフレームワークの提案、新たな組織の立ち上げを前提としたタスクフォースの設置、支援ツールやコンテンツの提供などを行っている。

こうした、業務シナリオ・ワーキング・グループの活動内容や、活動で活用されるフレームワークなどについて発表される公開シンポジウムも定期的に開催されており、2023年3月9日〜10日、最新のシンポジウム「IVI公開シンポジウム2023 -Spring-」が開催された。

本稿では、シンポジウムの中で、IVI理事長 法政大学教授 西岡靖之氏により、つながるものづくりやカーボンニュートラル実現へのシナリオと、今後のロードマップについて話された、IVIオピニオンの内容を紹介する。

つながった先のビジョンと具体的な実行方法

IVIでは以前より、「つながる工場」の実現に向けた様々な活動が行われてきたが、つながることは単なる「手段」や「現象」でしかなく、その先に目指すべき姿があるのだと西岡氏は言う。

目指すべき姿の全体像は、以下の図により説明された。

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
目指すべき3つの「未来工場」

これは、3つの未来の工場を表している。

「コンビニ工場」は、製品の消費地に近いところで柔軟に生産する工場で、アセンブリ(組立)型の工場だ。

「シェアリング工場」は、最終製品の設計と組み立ては行わず、設備と製造プロセスを提供して大量生産で製品をつくる。

「コネクテッド工場」は、得意とするコア領域をもちながらも、企業間をつなぐ技術やノウハウをもっていることが特徴で、コンビニ工場とシェアリング工場を結ぶような位置づけとなっている。

3つの未来の工場が「つながる」ことでコア領域が強化され、ビジネスを拡大していくことができるのだ。

西岡氏は、「以前から概念としては提唱されていたコンビニ工場は、現在具体的に実行する段階になっている。コンビニ工場のデータがつながる仕組みに反映され、データ流通・データ連携が始まっている。」と、概念提唱だけでなく、実行段階に移っているのだと語った。

コンビニ工場と聞くと、ユーザのニーズに対して製品にバリエーションをつけて対応するマスカスタマイゼーションをイメージしがちだが、実際は、販売した後の利用シーンにまで対応して、製品の機能を負荷するオープンカスタマイゼーションを指している。

オープンカスタマイゼーションを実現するには、中小企業が柔軟に対応する必要があり、大企業から仕事を受けるというこれまでの製造スタイルから変わることが求められる。

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
左:マスカスタマイゼーションとオープンカスタマイゼーションを表した図 右:マスカスタマイゼーションとオープンカスタマイゼーションのお金の流れを表した図

これを実現するため、IVIはリファレンスモデル「IVRA」を提唱している。

「IVRA」は、4M(ひと、機械、材料、方法)、PDCAサイクル(計画、実施、解析、改善)、QCDE(品質、原価、納期、環境)といった製造工程の3軸を、3次元の立方体で表現しており、加えて、活動の基本単位SUM(Smart Manufacturing Unit)を掛け合わせることで、ものづくり全体を捉えることができるというものだ。

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
リファレンスモデル「IVRA」と、活動の基本単位SUM

「IVRA」を活用して、サプライチェーンの軸、サービスの軸、知識の軸といったレイヤーの中でものづくりを位置付けて、具体的なアクションにつなげていくのだ。

そして、具体的なアクションを抽出し、実際に行動に移すのは、組織の全体が見えている経営層ではないと西岡氏は言う。

「今後は、MES(製造実行システム)を管理している、現場に近い工場管理レイヤーが中心となり、上下左右に連携していく枠組みが主流となる。つまり、コネクテッドな工場は、ERP連携ではなく、MES連携というイメージがビジョンとしてある。

現場を中核としたMESは、「生産準備」「生産技術」「工程設計」といった技術であり、知の体系である。日本はこの知の体系を保有していることが強みであり、ここを中心として、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンなどが合わさり、知の構造体になっていくことが重要だ。」(西岡氏)

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
MESを中心とした知の構造体

もともとIVIは、MESを中心とし、そこから具体的なアクションに移すため、アーキテクチャの構築などを行ってきた。そしてIVI発足から8年たった今、MESを起点とした考えに立ち返っているということは、いよいよ実現するための準備が整ったということだ。

MESを中心とした考え方では、必ずしもプロダクトベースで製造されるわけではなく、プロセスベースでスタートする場合もある。工場全体でのライフサイクルを捉えるには、プロダクトライフサイクルと合わせて、プロセスや製造システムなどを加味する必要がある。

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
左:MESを中心として上下のレイヤーと連携していく 右:IVRAで示されたものづくりの全体像には、様々なライフサイクルが関係している。

つまり、作りたいものがあったとしても、現場の製造設備で作れなかったり、コストがかかりすぎたりしてしまうと、製造されない。そうした製造中心な技術的な知見を、デジタル化、ネットワーク化し、最終的には仕組み化することができる点が、日本の強みなのだと西岡氏は言う。

そして、これを実現するためには、つながることが必須なのだ。

西岡氏は、「『設計と製造の統合』といった企業内に留まらず、サプライヤー、協力企業、大学やエンジニアリングなど、枠組みや組織を超えたつながりが必要。IVIはこれを実現するための仕組みを構築してきており、実行できる状況にある。」と、自前主義を捨てる重要性と、そのための仕組みを既に構築しているのだと語った。

「つながる工場」をベースに実現されるカーボンニュートラル

こうした「つながる工場」を実現するために、各企業・工場はトランスフォームしていく必要があるが、さらに製造業界が考えなければならない項目が増えた。それがカーボンニュートラルだ。

しかし、カーボンニュートラル実現には、CO₂排出量削減のための直接的な取り組みだけでなく、「情報の連携」という、つながる工場を実現するための取り組みと重なる部分が実は大きい。

温室効果ガスの排出量を算定・報告する際の国際的な基準であるGHGプロトコルの全体像では、製造から物流、販売廃棄に至るまで、サプライチェーン全体でCO₂の総量を減らしていくビジョンが打ち出されている。

つまり、個社では絶対に実現できないのがカーボンニュートラルなのだ。

そこで、つながる工場実現へ向けてIVIが構築してきた、組織が持つ知の共有と利活用を図るための手法である「スマートシンキング」や、前述したリファレンスモデル「IVRA」、企業間のデータ連携を行うためのオープンフレームワーク「CIOF」や、生産計画やスケジュールに関する意味の共有を行う標準仕様「PSLX」を活用して、カーボンニュートラルにおける情報共有も実現していくのだと西岡氏は言う。

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
IVIが構築してきた4つのアーキテクチャ

実際、IVIが2023年1月25日に公開したカーボンニュートラルに関するホワイトペーパー「トラストなカーボンチェーン・ネットワークの実現方法」でも、IVIが推進する「ゆるやかな標準」というコンセプトに従い、積み上げベースでのCO₂排出量の計算方法や、企業を超えたデータ流通を可能とする手法などが記されていた。

西岡氏は、「2050年のカーボンニュートラルを実現するには、ものづくりが成長するための契機と捉え、全体で取り組むことが必須である。そのためには、事業所ベースでの取り組みに加え、製品ベースのCO₂排出量の見える化が必要。カーボンニュートラルへ向けた取り組みがつながるものづくりのきっかけとなると考えている。」と、カーボンニュートラルを製造業が成長する良いきっかけとして捉え、取り組んでいく意義について語った。

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
カーボンフットプリント算出の課題と、その解決策を表している

また西岡氏は、今後ルールが明確に整理され、CO₂排出量の情報提示を迫られた際に、データの整理を行っていないために、自社の知財が守られない危機を訴えた。

西岡氏は、「今後は、情報を全てクローズにすることは不可能。必要に応じて必要な範囲で取引先とつながるために、どこまでの情報を開示し、どこまでをクローズにするかの整理を今すぐに始める必要がある。様々な場所に様々な形で保管されている情報をデータ化する。そしてIVIは、企業から開示されたデータを認証し、守りながら必要に応じて開示することができる仕組みを構築している。」と述べ、カーボンニュートラルを実現するための4種類のサービスについても簡単に触れた。

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
カーボンニュートラルに関するホワイトペーパーにも記されている、カーボンニュートラルを実現するための4種類のサービス

4種類のサービスについては、公開されているホワイトペーパー「トラストなカーボンチェーン・ネットワークの実現方法」および、このホワイトペーパーについて西岡氏にインタビューした記事を是非参照してほしい。

以前の記事はこちら:連携の連鎖で確実なCO₂削減を目指す ―IVI 西岡氏インタビュー

最後に西岡氏は、今後について、「無償ツールやコンテンツの展開、CIOFの本格展開、中小企業へのアプローチや国際標準化などに取り組んでいく」と述べた。

また、来年度以降の方向性として、「未来工場向けのPOC企画」「年度毎の辞書の無償配布」「マッチングイベントの展開」「ベーシックセミナーの充実」などが挙げられた。

「未来工場向けのPOC企画」では、コンビニ工場、シェアリング工場、コネクテッド工場といった未来の工場へ向け、具体的なプロジェクトをIVIメンバーに率先してPOCに取り組んでもらうというものだ。

「年度毎の辞書の無償配布」では、既に3万ワード以上登録されているPSLX(辞書)を、ゆるやかな標準にのっとり、名寄せして配布する予定だという。さらに、2030年へ向けたロードマップでは、PSLXをAIで自律的に更新する構想なども発表された。

概念から実行へ、つながるモノづくりの現在地と未来 ーIVI公開シンポジウム2023 Spring
2030年へ向けたつながる工場のロードマップ

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