東洋ビジネスエンジニアリング株式会社(以下、B-EN-G)は、簡単に工場の「稼働モニタリング」と「設備メンテナンス」を実現する「mcframe SIGNAL CHAIN」(以下、SIGNAL CHAIN)に、製造および設備データの収集、整理・集計、管理・連携、表示を担う「IoTプラットフォーム機能」を新たに追加し、2017年11月8日より提供を開始すると発表した。
SIGNAL CHAINは、製造設備の稼働状況を信号灯(シグナルタワー)から取得し、モニタリング・分析する「稼働モニタリング」と、保全業務をデジタル化して管理する「設備メンテナンス」から構成される同社のIoTソリューションだ。
今回の発表にあたり、そのSIGNAL CHAINにIoTプラットフォーム機能として以下3つの機能が追加される。
- mcframe SIGNAL CHAIN Edge:データを集める、整える
- あらゆる情報源からデータを収集
- 統一された形式にデータを整形
- 必要とするソフトにデータを提供
- mcframe SIGNAL CHAIN Data Store:見たいデータをためる
- 非定型データをもれなく格納
- マスタを自動作成、マスタ設定を省略
- 稼働モニタリングと標準で連携
- mcframe SIGNAL CHAIN Quick Viewer:データをつなぐ
- 人、モノ、設備のデータを時系列配置
- 複数種類のグラフタイプを保有
- ラベルや色指定などカスタマイズ可能
これまでのSIGNAL CHAINは、製造設備のデータをパトライト社の信号灯(シグナルタワー)の「青」「黄」「赤」という稼働状況から取得するものだったが、今回「Edge」機能が追加されることにより、あらゆる情報源からデータを取得できるようになる。
また、「Data Store」ではERPなど製造設備以外のデータも集約して分析に活かすことが可能となり、「Quick Viewer」によって、「人」、「モノ」、「設備のデータ」を時系列に配置し、横断的に可視化することが可能となった。
なお、このIoTプラットフォーム機能は大手自動車メーカーならびに大手鉄鋼メーカーとのPoCによって実証され、2017年度のIVIプラットフォームとして認定されたプロトシステムを製品化したものだ。
今回、IoTプラットフォーム機能の詳細とリリースの背景、また「mcframe RAKU-PAD」や「mcframe MOTION」も含めたB-EN-Gの製造業向けIoTソリューションの全体像について、同社ソリューション事業本部 IoTエンジニアリング本部 本部長 志村健二氏、新商品開発本部 マーケティング企画本部 本部長(兼)プロダクト事業本部長付 入交俊行氏、マーケティング企画本部 商品企画1部 新商品開発本部 部長 小林剛氏の3名に話を伺った。
B-EN-Gが目指すものづくりデジタライゼーション

B-EN-Gは、「ものづくりデジタライゼーション」をメッセージとして掲げている。その理由は、昨今の顧客の価値が「ものづくり」から「ことづくり」へシフトしていることにあると志村氏は述べた。
従来のものづくりでは、製品・サービスのQCD価値(「Quality(品質)」「Cost(費用)」「Delivery(引渡)」)を高めていくといった「内部最適」の考え方が大切だった。しかし最近ではデジタル化の流れもともない、未来を事前に予測し顧客の体験価値(UX)を高めていくような「未来予測」型の経営が必要になってきているというのだ。
たとえばGEは、風力の発電機を売るだけではなく、「風の向きや強さによって少し先を考えると風車を止めるほうがよい」、といったアルゴリズムを組みこむことで、顧客が効率的に発電をできるための「ソリューション」を提供している。これは、未来を予測することで顧客の利益を高めた一つの例と言える。
このように、製造業の顧客の価値が変わってくる中で、同社はそれに対応するIoTやERP(統合業務パッケージ)、MES(製造実行システム)などのサービスを統合し、ものづくりデジタライゼーションのプラットフォームとして提供するビジネスモデルを考えてきたという。
また、同社の推進する「ものづくりデジタライゼーション」には3つのStepが必要だという(上図)。
Step 1は自社内を効率化するデジタル・ファクトリー、Step 2はサプライチェーンを跨ぐデジタル・バリューチェーン、Step 3は顧客プロセスに入るデジタル・ビジネスモデルだ。
プラントエンジニアリング会社の東洋エンジニアリング(TOYO)から分社したB-EN-Gは、FAやCIM(コンピュータ統合生産)に起源を持つ。そこから、SAPの生産管理モジュールを初めて日本語化するなど、上流側のERPにも貢献してきた経緯がある。
このように上流・下流両方のビジネスに強みを持つ同社は、そこに新たにIoTソリューションも加えることで、ものづくりデジタライゼーションの3つのStepを支援していくのだという。
そのような背景から、B-EN-Gは2016年6月の「mcframe SIGNAL CHAIN」稼働モニタリングを皮切りに、「mcframe IoT」シリーズを展開してきた。「mcframe IoT」シリーズは以下の3つから構成される。
- 「mcframe SIGNAL CHAIN」:製造設備の稼動モニタリングと設備メンテナンスを支援する
- 「mcframe RAKU-PAD」:スマートデバイスで設備状況の記録・分析ができる
- 「mcframe MOTION」:ヒトの作業動作をデジタル化し、VRを用いて作業手順の検証や教育を支援する
そして今回、「mcframe SIGNAL CHAIN」にIoTプラットフォーム機能が新たに追加されることとなった。
製造業の稼働モニタリングと設備メンテナンスを支援するSIGNAL CHAIN

SIGNAL CHAINは「稼働モニタリング」と「設備メンテナンス」の2つから構成される。まず「稼働モニタリング」システムの概要について説明し、次にIoTプラットフォーム、「設備メンテナンス」という順に進めていく。
稼働モニタリング
SIGNAL CHAINの稼働モニタリングとは、その名前にもあるように製造設備のシグナルタワー(信号灯)からデータを自動的に取得し、稼働状況をモニタリング・分析するシステムだ。
製造設備には、基本的にその稼働状況を知らせる3色の信号灯(シグナルタワー)が装備されている。SIGNAL CHAINではパトライト社の「AirGRID」と呼ばれる信号灯を用いており、取得したデータはソラコムのワイヤレス通信でクラウドとつないでいる。
こうすることで、「今赤がつきました、緑に変わりました、黄色が点滅しています」などのデータが取得でき、従業員が何もしなくても設備の稼働状況のデータがクラウドにたまっていく仕組みになっている。
SIGNAL CHAINの特長は、「これまでの制御を変える必要がない」、「配線をいじる必要がない」、「シグナルタワー部分の稼働に影響しないところで完結できる」など、IoTの取り組みを簡単に始められることだ。
信号灯から得た設備の稼働状況は、アンドン上でモニタリングすることができる。「黄色が段取り替え」、「青が通常の稼働」、「赤がなんらかの異常で停止している」・・・など現場の人が視覚的にわかるようになっている。また、そこから稼働率やOEE(設備総合効率)による指標管理もでき、分析に利用することができるのだ。
一方で、工場の設備にセンサーをつけてデータを集めると言っても、20~30年経っているような古い産業機械だとそもそデータを出力しない機械も多く、データが取得できない場合がある。そこで生まれたのが、信号灯以外のデータも取得するエッジ側の仕組みだ。
SIGNAL CHAIN Edge
この新しく開発された「Edge」の機能。これまでデータの取得源は信号灯に限られていたが、今回「Edge」機能を実装することによりPLCなど様々なデータを収集することが可能になる。
「Edge」機能の特長は、エッジ側でデータ圧縮の処理をすることだ。製造設備から時系列のデータをためていくと膨大な量になってしまうため、重要なポイントだ。
具体的には、まず時系列でデータを並べていく。何も異常が起こらないと、「11111…(この例で1は正常を表す)」というように同じデータが連続することになるが、その同じデータは重複するものとエッジ側で判断して圧縮処理を行う。つまり、変化点だけをクラウドへ送るという仕組みになっているのだ(必要に応じて、生データのバックアップ対応を追加することが可能とのこと)。
一方で、この方法の場合、その設備が生きているのか、死んでいるのかがわからないという側面があるため、定点チェックをしながら一定のタイミングでデータを送るという機能もある。なお、データの処理アルゴリズムはNode-Redで作っているので、コーディングの必要がなく、処理フローは簡単に設定が可能だということだ。
この「Edge」機能を活用した事例が既にいくつか出てきている。
たとえばある金型加工メーカーでは、自社の金型がユーザーの工場でどのように使われているかを、金型にセンサーをつけてモニタリングし、サービスに活かす取り組みを行っているという。
具体的には、これまで一定期間にメンテナンスを行っていたところを、金属加工を行う際の機械のショット数をカウントしてメンテナンスタイミングを見つけたということだ。また、ショットの際の振動の波形をとらえることで異常なポイントを見つけ、顧客の予知保全などに活かすこともできるのだという。こういったデータを取得し、クラウドに飛ばす部分に「Edge」機能が使われている。
もう一つは調味料メーカーの事例だ。そのメーカーは、自社の調味料を食品メーカーに納品する際に、その食品メーカーの敷地にある原料タンクにローリーで運んでいる。
食品メーカーはタンクの中身がみれないので生産計画から判断し、「そろそろなくなったからきてくれ」と注文するのだが、実際に調味料メーカーのローリーが行ってレベルゲージを見ると、原料タンクが満タンだった、といったケースが少なからずあったという。このようなローリー配車の無駄によるコストインパクトは非常に大きい。
そこで、調味料メーカーは顧客のタンクの在庫を計測し、補充タイミングにあわせて「そろそろなくなっていますよ」と自ら提案できるビジネスモデルにしたいと考えたのだという。原料タンクに非接触の液面センサーとSIGNAL CHAIN Edgeを利用し、顧客の在庫管理のサービスを始めたのだ。
SIGNAL CHAIN Data Store
次の「Data Store」は、「Edge」から送られてきたデータをどうためるか、という2番目のステップにあたる。
特長としては、「NoSQL形式(固定化されたスキーマーに縛られない形式)」のデータベースを利用していることだ。これにより、装置ごとのテーブル設計や事前のマスタ登録が不要になり、非定型のデータも登録が可能になる。
ちなみに、RDBを使用した場合だと、装置ごとのテーブル作成やデータ格納用のSQL作成が都度発生し、顧客が取り入れようとしても時間や労力がかかるため運用がうまくいかないケースがあるという。一方、NoSQL形式だと、事前に設定済みのテーブルを用意しておけば、どんなデータがきてもソース修正が必要なく、マスタ作成が不要になるという。
つまり、「Data Store」では、あらかじめ設定されたキー項目に合わせてデータを送りさえすれば、どんなデータでもためられるというのだ。一方、管理していないデータがきた場合は、自動的にマスタを作成することもできるのだという。
また、Data Storeの機能としては、「こういうデータがきたら停止と表示してください」、「こういうデータが来たら何色で表示してください」などのユーザビリティを高めるようなデータ作成も可能だという。
さらには自分の見たい切り口でのデータの並び順やグラフの種別などを登録して保存しておけば、逐一マスタを管理しなくても、データをためて表示するという操作が可能になるとのことだ。
また、この「Data Store」の実装により、「Edge」経由以外のERPやMESのデータも集約し、横並びにして分析に活かすことができるということもポイントだ。
SIGNAL CHAIN Quick Viewer
最後に、「Data Store」にたまったデータをどう見せるか、というステップが「Quick Viewer」だ。
最大の特長は、時系列データの変化点を見せることに特化したアプリケーションになっているということだ。これにより、製品の温度やラインの状況、人の位置など、センサーをつけた様々なモノ・設備・人の変化を時系列に見ることができる。
上図は、大手自動車メーカーでのPoCをモデルにした「Quick Viewer」の画面だ。左側の「データ・ソース」と右の「Quick Viewer」の画面が対応している。
いちばん上に、PLCから取得したモーターの総稼働時間が累積で表示されている。次は、SIGNAL CHAINで信号灯から得た設備の稼働状況。
三番目には、MESからはプログラムナンバーを、次のmcframe RAKU-PADからはロット番号を取得することにより、何をつくっているのかを把握することができる。
最後に、mcframe MOTIONのエリアセンサーから従業員がどのエリアで作業しているかがわかり、また同じくmcframe MOTIONで動画を撮ることで、現場の作業員がどんな作業をしたのかも管理することができる。
こちらは、以上3つのIoTプラットフォームが追加されたSIGNAL CHAINの全体像だ。「Edge」によりあらゆるデータを取得し、「Data store」でそのデータを蓄積する。また、工場の見える化は「Quick Viewer」で一元的に行い、その際にはERPなど「Edge」を経由しないデータも併せて取り込み、分析をすることができる。
【関連リンク】
・東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。