Amazonが、患者との会話から医療記録の生成可能な、「Amazon Transcribe Medical」を発表したというニュースが入った。
医師と患者の会話をリアルタイムにテキスト化して、電子医療記録(EHR)に追加できるといったものだ。10月には、米カリフォルニア州でApple Watchを活用した電子カルテ音声自動入力が実現されていた。
電子カルテ入力作業時間における課題は、海外でも同様にとりあげられており、日本国内もまた例外ではない。
今回は、そんな電子カルテシステムにおける現状と課題、および取り組みについて紹介したい。
電子カルテシステムの現状
厚生労働省の調べによると電子カルテシステム等の普及状況は、50%に迫ろうとしている。

とはいいつつも、一方で電子カルテ導入が一般診療所では遅れ気味だ。導入にあたってのハードルは、費用面であったり、使いこなせるかといった点であったり様々だが、一番は費用面だ。厚生労働省の調査結果では1病床あたり、平均55万円という数値が発表されており小規模な病院、診療所では気軽に導入を決めることは難しいようだ。
しかし今後電子カルテにおける普及は、管理効率の向上や、院内におけるカルテ共有が容易であったりするメリットもあって普及は少しずつではあっても広がるだろう。
電子カルテ導入、その後
さて、電子カルテ導入は今後増えていくであろうと推測はされるものの、電子カルテ導入にあたって課題は何だろうか。
- 電子カルテのソフトウェアをつかいこなせていない
- キーボード入力に慣れていない
またこういった指摘は、医療現場でも指摘されており、筆者が病院で診察を受けた際にも感じている部分があった。
加えて、カルテがデータとなることで、データ同士の紐づけができ、さらには業務効率も改善できるのではないかという希望もある一方で、電子カルテ入力における医師への負担は大きい。
医療情報学「医師が電子カルテ操作に費やす業務時間に関する調査」によれば、1日あたり、内科で47分程度、外科で51分ほどという結果が残っている。多くの医師たちは、こうした医療に関する事務、特に電子カルテに時間を使っている実態が見えてきた。
もっと簡単に、共有できる医療データへの取り組み
医療現場における、電子カルテ作業時間負荷に関する課題について取り組む2例を紹介したい。
1点目は、電子カルテ情報連携にむけた動きをとりあげたい。連携によって、初診への時間削減や新しく電子カルテを作成しなくてよいといったメリットがある。しかし、利用者の同意が得られないとどうしても進まないという現状が見えてきた。
2点目は、AIを活用してより簡単に入力できるAI問診票だ。問診票から電子カルテへの記載時間削減に寄与できた取り組みとなっている。
県域を越えた連携への取り組み
地方独立行政法人大牟田市立病院では、「電子カルテネットワークの現状と課題について考える ~Human Bridgeを活用したネットワーク構築の一例~」として、県域を越えた電子カルテ情報連携の取り組みを行っている。
福岡県大牟田市は、熊本県荒尾市と隣接しており荒尾市在住の患者全体の約13%を占めるなど、県域を越えた連携が必要とされている背景があった。
今回の取り組みでは、事前に同意が得られた患者の電子カルテを地域医療機関の登録医師から安全に保護されたインターネット回線を介して参照するといったものである。
実際に利用した患者からは70%に近い利用者が利便性を感じられたことで、期待が高まる一方、連携にあたっての説明や連携先病院でのパソコンセットアップがおいつかずに環境が用意できなかった、などの課題が浮き彫りとなった。
AIを活用した問診票への取り組み
Ubieの問診票への取り組みは、患者からの問診データを直接医師へ連携できるところが作業効率削減に寄与している。
紙ベースの問診票はタブレットでの入力となり、また、患者ひとりひとりの症状にあわせてAIが質問を自動生成する。ちなみに患者が答える質問は10数問程度ということで、患者自身への負担も少ない。
さらに、患者の事前問診結果が自然言語処理解析され、医師の専門語に翻訳されるため、医師は診察時に、翻訳された内容を見ることができる。
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少し前に、GoogleがFitbitを買収をしたニュースは、注目度が高く期待も高まった一方で、ヘルスケアデータが広告に使用されないかという心配もうまれた。一方で、医療データを連携することのメリットも大きい。
今後、クラウドベースで診療記録が保存されれば、旅行先で、引っ越し先で、出張先で、病院にかかる際にカルテが共有されているという状態となり、より診察までの時間短縮であったり、投薬記録の参照が容易になるだろう。また、医療だけでなく普段の食事内容や、日常の運動量も医療へ反映されるだろう。
MaaSと医療を連携させる取り組みもはじまっている。
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広がる可能性の一方で、医療情報に関するデータ保護や規制への課題をどのようにクリアしていくかが焦点となっていくだろう。
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