2019年に裸眼視力1.0未満の小中高生の割合が過去最高を記録するなど子どもの近視問題が注目される昨今、世界人口の半数となる 50億人が2050年までに近視になると推定されており、うち10億人が失明リスクの高い重度の疾患や、強度近視になることが予想されている。最新の研究では視力の低下と認知症の関連性が示唆されており、緑内障や60歳未満の白内障患者も増加傾向にあるなど、眼の疾患を早期に発見し最適な治療を受けることの重要性が高まっている。
ドライアイや眼精疲労などの症状と生活習慣の関連性を明らかにするためのアプリ「ドライアイリズム」をはじめ、医療アプリ分野で実績を持つ順天堂大学と、アイヘルスカンパニーでコンタクトレンズブランド「アキュビュー」を提供するジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社は、個人の健康やライフスタイルデータを活用して個々の患者にあった最適な予防・治療を実現するための共同研究「デジタル医療講座」を開始した。
同研究は、デジタル医療を用いたSociety5.0時代の医療を実現させることを視野に、スマートフォンやウェアラブルデバイスなどのモバイルヘルスをはじめとしたIoMT(※1)機器から個人の健康やライフスタイルに関する情報を収集、AIを活用した疾患発症リスクの予測や行動変容の促進、ならびに個別化医療(※2)・先制医療に向けた医療システムの構築を目指す。
具体的には、スマートフォンのアプリで収集したデータから患者の状態を推測し、ドライアイの疑いから角膜異常のリスクまで、早期受診を促すデータとして患者に提供する予定だ。
また、患者の日々の状態を可視化し、診断支援のデータとして医師に提供するなど、収集したビックデータを集約・分析し個々人にとって価値ある情報に変換することで、眼科領域での個別化医療や先制医療に活用していく計画としている。さらに、その過程で患者の行動変容を促すスマートフォンのアプリ開発も行い、医療機器としての認証および特許の取得を目指す。同研究のプロセスおよび詳しい内容は以下の通り。
第1段階:モバイルヘルスを用いた個人の健康データの収集の有用性と妥当性を検証
- スマートフォンのアプリによる個人の健康やライフスタイルに関連する観察研究の実施
- 収集した個人の健康データと、実際の検診による診療情報の妥当性と信頼性の検証
第2段階:モバイルヘルスによる疾患予測や行動変容の促進とその効果を検証
- 収集したビッグデータをAIにより解析し、疾患・罹患リスクや行動変容の促進を行うアルゴリズムの開発と効果の
検証
第3段階:診断支援のためのインフラを開発
- 個人の健康やライフスタイルに関連した情報と、ゲノム・オミックス情報(※3)を掛け合わせた個別化医療・先制医療システムの構築
- 医療機関への情報提供を目的とした、モバイルヘルスの標準化によるインフラの開発
個人のデジタルデバイスから収集されたビックデータを活用することで、以下の成果が期待される。
- モバイルヘルスによって個々人の健康・ライフスタイルデータを継続収集し、自身の健康状態をリアルタイムかつ
数値などで把握し、自己管理することができる。 - モバイルヘルスで収集した個々人のデータを医療機関と共有し、個別化医療を実施することができる。
- モバイルヘルスで収集した個々人のデータをもとに、アルゴリズムによる疾患発症予測、重症化予測ならびに
行動変容の促進ができる。 - モバイルヘルスで収集した個々人のデータとゲノム・オミックス情報を組み合わせることで、精密医療や先制医療
が可能となる。
※1 IoMT:医療機器とヘルスケアの IT システムをオンラインのコンピューターネットワークを通じてつなぐという概念。
※2 個別化医療:バイオテクノロジーに基づいた患者の個別診断と、治療に影響を及ぼす環境要因を考慮に入れた上で、多くの医療資源の中から個々人に対応した治療法を抽出し提供すること。
※3 オミックス医療(Omics-based Medicine)研究:オミックス情報を駆使して、疾患の予防、診断、治療、予後の質を向上することを目指す医科学研究の名称。
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