triplaは、独自に開発したAIにより、旅行業界向けITソリューションを提供し、観光産業に向けたサービスを展開している。
IoTNEWSでは2020年にも、同社の宿泊施設向けの多言語AIチャットサービス「tripla Bot(旧:「tripla チャットボット 」)と、SaaS型の公式サイト向けの宿泊予約エンジン「tripla Book」(旧:「triplaホテルブッキング」)についてのインタビューを行っているが、2年以上経った今、triplaはどのような進化を遂げているのか、tripla株式会社 代表取締役CEO 高橋和久氏にお話を伺った。(聞き手: IoTNEWS小泉耕二)
宿泊業界におけるダイレクトブッキングの重要性
以前のインタビューは2020年初頭、ちょうど新型コロナウィルスの影響を受ける前だった。当時はオリンピックの開催やインバウンド増加などの影響で、ホテル業界の需要は高まり、新規参入者も増えていたという。
ところが新型コロナウィルスの影響により、状況は一変。訪日外国人は98%減、加えて国内の移動も激減し、75%程度あった宿泊稼働率は20%〜10%にまで落ち込んだ。
しかし、宿泊施設の公式サイトからの予約を促すtriplaのサービスと契約している事業者の公式サイト経由の売り上げに関しては、第一回目の緊急事態宣言が発出された2020年5月・4月で落ち込むも、その後回復し、現在ではコロナ以前の水準を堅持しているのだと高橋氏は語る。
その理由は、顧客とのコミュニケーションの違いにあるという。
宿泊業界の集客方法の歴史は、旅行代理店を通して予約を行う店舗訪問からはじまり、現在では、オンライン旅行会社の予約サービス(オンライン・トラベル・エージェンシー:オンライン旅行会社の予約サービス)が主流となっている。
オンライン旅行会社の予約サービスは、利用者が時間を問わず比較しながら宿泊先を検討でき、外資系オンライン旅行会社の予約サービスの場合、海外からの集客に強く人気だが、オンライン旅行会社の予約サービス経由で予約した顧客の情報はオンライン旅行会社が保有するため、宿泊事業者は氏名と電話番号以外の情報を得ることができない。
しかし、公式サイトを経由して予約されることにより、宿泊事業者は顧客の情報を管理し保有することができるのだ。
例えばメールアドレスやSNSのアカウントなどを共有してもらうことで、「ワーケーションプランの新設」「テイクアウト開始」など、新たな施策の情報共有を行うことができる。
オンライン旅行会社の予約サービスからの集客比率が大きかった宿泊事業者は、過去に施設を利用した顧客に対してのコミュニケーションをとることができず、特に外資系オンライン旅行会社の予約サービスからの集客が大きかった宿泊事業者は、訪日外国人の減少も相まって、宿泊稼働率が大幅に減少してしまったのだと高橋氏は述べた。
こうした背景から、日本の宿泊業界でも、公式サイト経由のダイレクトブッキング売り上げを伸ばしていこうという流れがようやく生まれ始めている。
もともとインバウンド需要やオリンピック需要が存在しない海外のマーケットでは、コロナ以前から外資系大手ホテルチェーンを筆頭に、ダイレクトブッキングの重要性を訴えており、先駆けて経営戦略に組み込んでいたのだという。
高橋氏は、「例えばマリオット・インターナショナルでは、公式サイトからのダイレクトブッキングの割合を上げる方針を、投資家への説明資料にも組み込み、CEO自らが何年までに何%にしていくという具体的な計画も発表しています。
オンライン旅行会社の予約サービスなどを経由すると、顧客情報の問題だけでなく、オンライン旅行会社の予約サービスに支払う手数料も嵩むため直接利益率に影響してきます。
ダイレクトブッキングであれば手数料がからない分、宿泊料をオンライン旅行会社の予約サービスと比較して安く提供したとしても、事業者側は利益率を向上させることができます。
利益が増えれば、設備やマーケティングなどに投資することができるため、経営戦略としてダイレクトブッキングが重要視されています。」と、ダイレクトブッキングの重要性について語った。
ダイレクトブッキングを促す「tripla Book」
ダイレクトブッキングの比率を向上させるためのサービスが、宿泊予約エンジン「tripla Book」だ。
「tripla Book」は、多言語に対応しており、利用者は公式サイトから宿泊予約をクリックし、プラン選択、3つのお客様情報の入力、決済方法の選択という、4ステップで予約を完了することができるサービスだ。
また、Google Hotel AdsやTripadvisorといったメタサーチとの連携を行う「tripla Agent」が搭載されている。
これは、メタサーチで抽出された料金一覧の中で、オンライン旅行会社の予約サービスの料金と公式サイトでの予約料金を比較し、自動的に公式サイトの予約料金をベストレートに調整し、自社サイトへの流入を促す機能だ。
「tripla Book」では他にも、会員プログラムやポイントプログラムの提供、会員割引やGoToトラベルにも適用できるプロモーション機能など、リピーターへの施策を行うことも可能だ。また、後述するCRMとの連携により、マーケティング施策を講じることもできる
利用者が「tripla Book」を介して得たポイントは、デジタルギフト「デジコ」と連携することにより、Amazon、App Store &iTunes、Google Playなどで利用できるデジタルギフトと交換することができ、利用者へのメリットを打ち出している。
宿泊業界に特化したCRM「tripla Connect」
ダイレクトブッキングの比率を増やしたのちに必要とされるのが、リピート顧客や潜在顧客に対するロイヤリティを高めるマーケティング施策を講じることだ。
そこでtriplaは新たに、宿泊業界に特化したCRM(顧客関係管理)・マーケティングオートメーション「tripla Connect」の提供を開始している。
これまで宿泊事業者は、宿泊施設の受付で得た顧客情報を、PMSというオフラインかつオンプレミスなシステムに収集し、管理をしていた。
そのため、PMSの顧客情報を単純にCRMに移行したとしても、マーケティングで活用できるのはメールアドレスのみで、アクションとしてはメルマガ配信と限定的であった。
「tripla Connect」では、PMSの情報に加え、宿泊事業者の公式サイトからユーザに発行されるCookieの情報もCRMに取り込んでいる。
そして、「tripla Bot」や外部のDSP(Demand Side Platform)などと連携することにより、セグメントごとに適したチャットボットの吹き出し(オートメッセージ)を発信させたり、広告やバナーを表示させたりと、積極的なプロモーションを促すことができる。
例えば、家族旅行を考えている利用者が、「tripla Connect」を導入している宿泊施設の公式サイトに訪れたとする。
この見込み客にはファーストパーティCookieが振られ、どのタイプの部屋を探しているかなどのサイト内の閲覧情報から、セグメントを切っていく。
これにより、一度サイトを離れたとしても、もう一度サイトに訪れた際、チャットの吹き出しからセグメントに沿った限定クーポンのバナーを表示させることにより、予約を促すといったことが可能なのだ。
そして、「tripla Book」とも連携させることにより、予約完了後に会員登録を行ってもらえれば、ファーストパーティデータと顧客情報が紐付き、その後One to Oneマーケティングを行うことができる仕組みになっている。
このように、公式サイト訪問から会員獲得まで、一連の流れに対してリーチできる点が強みだと高橋氏は語る。
また、宿泊事業者向けに特化している点について高橋氏に伺うと、「通常CRMを構築するには、予約システムとマーケティングツールを連携するなどの開発を行う必要があり、小規模宿泊事業者にはコスト的に導入が難しいのが実情です。
そこで弊社では、「tripla Connect」を月額15,000円で提供することにより、導入のハードルを下げています。
また、SNSと連携してメッセージを送るといったことや、記念日や家族構成、ペットのワクチン情報といった、宿泊業界ならではの会員情報の管理なども標準で行える仕組みにしています。
将来的には公式サイト経由だけでなく、オンライン旅行会社の予約サービスから流入したユーザに対しても、自動的なプロモーションを行える仕組みを構築していきたいと考えています。」と、より多くの宿泊事業者が活用できる設計にしているのだと述べた。
宿泊事業者の負担を減らす「tripla Pay」
さらに、宿泊事業者を支援する新サービスとして、クレジットカード払いにおける初期費用や手数料といったコストを削減する「tripla Pay」を、2022年5月より開始している。
これまで、宿泊予約の事前決済は「tripla Book」においても20%程度に留まり、現地でのクレジットカード払いを選択する利用者は半数以上であったという。
現地でのクレジットカード払いは手数料が平均3.5%以上と、宿泊事業者の負担が大きかった。
そこで、クレジットカード会社との交渉をtriplaがまとめて行うことで、事業者は初期費用・固定費共に無料でクレジットカード決済を導入できる「tripla Pay」の提供を開始したのだ。
利用方法は、宿泊施設側が「tripla Pay」の管理画面より、支払い情報と金額を設定。自動で作成されるQRコードを利用者に提示し、利用者はそのQRコードをスマートフォンで読み取ることで、クレジットカード情報入力画面へ遷移する。利用者がクレジットカードのスキャン及び入力をすることで、支払いが完了する。
また、宿泊料金以外にも、レストランや売店、スパやアクティビティなどでも活用することができるのが特徴だ。
さらに、「tripla Pay」を活用することで、キャンセル料の請求を行うこともできる。
通常、現地決済を選択している利用者に対しては、電話をかけて対応するという、人手のかかる手段しかなかったのだという。
そこで「tripla Pay」では、SMSを送信することにより、キャンセル料を請求することができる仕組みを構築している。
キャンセルをした利用者は、SMSに届いたQRコードリンクをクリックして、支払い画面にて決済を完了することができる。
将来的には、会員登録やメール送信の許可を得るオプトインを「tripla Pay」に組み込むことで、オンライン旅行会社の予約サービスから予約した顧客に対してもリピーター施策を講じるための、入り口にしていきたいと高橋氏は述べた。
「tripla Bot」の拡張機能で、宿泊事業者のニーズに応えていく
また、以前のインタビューでもお話を伺った「tripla Bot」についても、新たな機能が追加されている。
「tripla Bot」は、ホテルの公式ホームページに設置することができる、ホテル業界に特化したAIチャットボットだ。質問事項の入力および選択を行うことで、利用者はホテルに対する質問の返答をうけることができる。
また、チャット内で宿泊予約を完了できるほか、他社の予約機能と連携することで、レンタカー予約やレストラン予約を行うこともできるサービスだ。
今回新たに追加されたのは、API連携やWebhookを活用した外部システムとの連携が行える機能だ。
例えば、宿泊事業者の公式LINEやFacebookアカウントとの連携を行うことができる。
その他にも、API連携し、Webhookを活用することで、チャットで収集した情報をメールで送信するといったことや、オンライン旅行会社の予約サービスで予約した利用者の事前チェックインを、チャットボットで行うといったことが可能となる。
API連携の事例について高橋氏に伺うと、利用者へのアンケートが挙げられた。
宿泊事業者はアンケートを取りたいが、利用者側からするとメリットが感じられず、クレーム以外ではなかなか集めることが難しいのだという。
そこで、Google FormとAPI連携することにより、アンケートに答えてもらえれば、ポイントを付与するといったことを自動で行うことができるのだ。
また、「tripla Connect」とAPI連携することにより、利用者に対するポイント付与や、アンケート結果の自動集計も行えるようになっている。
さらに、クリスマスケーキやおせちといった、数量の多くない期間限定商品を販売する際に、Google SheetとAPI連携することで、効率的に販売することが可能となる。
在庫情報はGoogle Sheetを介して管理しておくことで、利用者はチャットから商品を購入することができ、購入完了すると、Webhookを介してその情報がリアルタイムにGoogle Sheetに入力される。
顧客ファーストの視点から、逆算してサービス設計を行う
このように、様々なサービス展開や機能追加が行われ、進化を遂げているtriplaだが、一貫しているのはホテル事業者のメリットだ。
例えばGoogle SheetsやQRコードなどの、既存のサービスやテクノロジーを最大限活用することで、最小限のコストと労力で必要な機能を構築しているのが印象的だ。
エンジニアベースの発想にならず、顧客ファーストでのサービス展開を行うための秘訣について伺うと、サービスをまずは使ってもらうことに重きを置いているのだと高橋氏は言う。
「宿泊事業者の方に使ってもらうためには、導入コストや月額費用含め、手の届く価格設定を心がけています。UI・UXに関しても、分かりやすく使いやすいことは、使ってみようと思ってもらえる重要なポイントです。
また、以前事業者にヒアリングをせずにサービスを立ち上げ、結局企画倒れしてしまったという経験もあり、ヒアリングには時間をかけています。
確実に欲しいと思ってもらえるサービスを突き詰めて設計していくことに、CTOの鳥生をはじめとする技術者が、徹底しているからだと思います。」と、顧客視点でのサービス設計の重要性について語った。
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