【IoT×AI】動画データ×AIで屋内フォークリフトの位置を特定
「IoT×AI WG」が今年取り組んだテーマは、物流倉庫における「動画を活用したヒヤリハット可視化ソリューション」だ。前述した物流WGとの連携により実現した取り組みである。
基盤となるしくみの一つは、三井物産エレクトロニクスが提供しているフォークリフトのIoTプラットフォーム「FORKERS」(※)だ。FORKERSでは、急発進・急停止・急旋回などの「危険運転」を加速度センサーで検知可能。さらには、その危険運転の前後30秒の動画を撮影し、クラウドに自動転送できるため、危険運転が起きた要因を分析できる。
しかし、倉庫内のどこでその「ヒアリハット」が起きたのか、位置を特定するしくみはなかった。事故が起きやすい場所をつきとめ、「死角がある」「荷物の置き方に問題がある」などの詳細がわかれば、さらに安全対策をつきつめていくことができる。GPSを使えば位置を特定できるが、物流倉庫は屋内のため使えない。そこで、同WGはこの問題を「動画データをAIに分析させる」ことで解決しようと考えた。

動画データを使う理由について、同WGのリーダーである株式会社オークファンの中村泰之氏(冒頭写真・中央)は「倉庫内は広く、センサーを取り付けようとするとその数は膨大になってしまう。できれば、安価で容易に実現できるソリューションにしたい。また、FORKERSのしくみにより、既に蓄積されたデータがあった。それらをどこまで使い倒せるかが重要だと考えた」と述べた。
ただ、動画だけでも「何となくこのあたり」という位置はヒトの眼でもわかるかもしれないが、倉庫内ではレイアウト変更もあり、そうした不確実性は排除しなければならない。そこで、中村氏らが考えたアイディアが、「倉庫内に座標がわかるタグを写りこませる」という方法だ。そうすれば、動画を見た時に、フォークリフトが倉庫内のどのあたりを走っているかを推定することができる。
実際に活用したのが、株式会社インフォファームが提供している「カメレオンコード」である。座標情報が組み込まれているこのカメレオンコードが写りこんだ動画データをAIで解析し、位置を算出するというのだ。
中村氏らは、10メートル間隔で立っている柱に、遠くからでも認識できるよう「1メートル×1メートル」の大きなコードを張り付けた。一方、フォークリフトには運転手の頭上にカメラが2つ搭載され、そこにコードが写りこむしくみとなっている。

中村氏によると、今回のPoCを通して「紙のコードを柱に貼るだけなので検証が容易」「フォークリフトの位置だけでなく、向きもわかる」「コードは安価なため、数を増やすことで精度を向上できる」など、カメレオンコードのメリットを十分に確かめることができたという。
また、動画データを利用することにおいても、「GPSを使えない屋内環境において、既存の動画データだけで位置を割り出せることは大きなメリット。また、移動軌跡や移動速度も推定できるなど幅が広がる」と述べた。
一方、課題もあるという。2回目のPoCを行った際に、コードが認識されないというトラブルがあった。原因を調べてみると、フォークリフトに使われていたカメラが、画角の広い機種に変更されていた。画角が広いとコードや写りこむ範囲も広くなるものの、「歪み」が大きくなり認識率が下がってしまったのだ。
そこで、中村氏らはアプローチを変えた。これまではFORKERSの動画データを提供してもらい、画像処理を行っていた。しかし今後は、カメラの提供から画像処理まで一貫して行う「位置測定ソリューション」として提供していくこととしたのだ。「これにより、フォークリフトだけではなく、さまざまな動くモノに適用できる汎用的なソリューションとして展開できる。来期はユースケースを探っていきたい」と中村氏は展望を述べた。

※関連記事:フォークリフトのIoTプラットフォーム「FORKERS」、LTEモデルで本格始動 ―三井物産エレクトロニクス 丸氏インタビュー
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。