コロナによる物流業界3つの変化
では、コロナによって社会全体が変化を迎えた場合、ロジスティクスはどのように変わるのだろうか。それについては、ミーカー氏の「7つの変化」を参考に、以下の3点が挙げられた。

DXの加速
1点目は「DXの加速」である。もともと物流業界はデジタル化が進んでいない業界と言われていたが、ドライバー不足の問題といった物流クライシスが騒がれ始めた近年、デジタル活用の動きが見られるようになった。その動きが新型コロナウイルスによって更に加速するだろう、というのだ。
DXの加速については、野田氏は「特に社員や消費者をコロナの感染から守るという観点から、非対面・非接触に関するテクノロジーについてのデジタル化が進んでいくだろう」と意見を述べた。
ここで焦点となるのは「企業におけるデジタル化への投資」である。DXを進めるためには投資が必要となる一方、景気の後退によって「投資を行わない」と判断する企業が出る事も考えられる。
この点について、佐藤氏は「デジタルに関する投資を増やさなければ、この先はやっていけない、と企業は判断するだろう。新型コロナによる行動制限によって人々の消費地が変われば、データを基にした物流のネットワーク変更を柔軟に行う必要がある。そのデータを取得するためには、デジタル化は必須であるからだ」と意見を述べた。
政府によるスマートロジスティクス対応
2点目は、「政府によるスマートロジスティクスへの対応」である。これは、ミーカー氏の「7つの変化」にあった「最新のテクノロジーを使った政府主導の経済対策、コロナ対策」にように、政府がロジスティクスのデジタル化を後押しするのではないか、という事だ。
この点について、佐藤氏は「災害が起きた場合、物資を運ぶためのルートが押さえられない、自衛隊と消防署のデータが共有できていない、といった問題を、政府やボランティア団体が抱えているという話を聞く。したがって、政府の側でも物流のデジタル化を進めていきたいという思いがあるはずだ」と見解を述べた。
政府によるデジタル化の後押しについては、観客から「例えばHacobuの提供するプラットフォーム「MOVO」に政府が直接アクセスして、物流をコントロールする、といった事は想定しているのか」という質問があった。
この質問について、佐々木氏は「データの使い方について、「ガバナンスボード」という公共的なデータ利用についての監視の仕組みを作った上で、災害時などにおける政府のアクセスを想定している」と答えた。
ウェブ会議など、働き方の変化が現れる
3点目は、「働き方の変化」である。物流業界においても、現場以外ではウェブ会議などが導入され、いわゆる「働き方改革」につながる動きが出ているという。
働き方の変化については、観客から「コロナによる外出自粛が広がっている現在でも、Hacobuではシステムを導入する際には、現場に赴いているのか」という質問があった。
この質問について、佐々木氏は「現在はウェブ会議を通して行っている。万が一、当社のメンバーがお客様に感染させてしまった場合、倉庫が止まり、物流がすべて停止してしまうリスクがある。そのリスクを避けるためだ」と説明した上で、「物流業界において、現場を見る、という行為にも何かしらの変化が訪れるのではないか」と見解を述べた。
一方で、消費者側の働き方の変化が物流に影響をもたらす、という意見が佐藤氏から挙がった。つまり、リモートワークが推奨される中で、都市集中型の消費が止まり、モノを届ける先の範囲が広がる。それにしたがって、物流のネットワークも複雑になるのではないか、というのだ。
野田氏による「物流7つの仮説」
セミナーでは上記に挙げた3つの論点とは別に、野田氏が独自に考察した、コロナによる「物流の変化に関する7つの仮説」が紹介された。

- 業国内拠点への回帰、海外における複数拠点の担保といった、サプライチェーンの見直しが進む
- 都市から地方への分散によって、「人」中心から「モノ」中心へのインフラ設計に変化する
- 人からモノへのウイルス感染対策が物流の品質基準となる
- 自動走行、置き配といった無人化、非対面化が進む
- AR・VRといった非接触型のテクノロジーの導入が進む
- 紙の受け渡しを避けるためのペーパーレス化が進む
- 代引きなどにおけるキャッシュレス化が進む
次ページは、「コロナ対応で物流業界が取るべき戦略」
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。