ラスベガスで行われているCES2019。
昨晩のLGのプレショーキーノートが前夜祭的な位置づけだとしたら、このオープニングキーノートはまさにCES2019の開会式を兼ねた場となる。そのオープニングキーノートに登壇したIBM。IBMはCES2016で初めてキーノートに登壇して以来2回目のキーノートになる。
前回の登壇当時、IBMはAIをAIと言わず「Cognitive」と表現していた。
日本語に直訳すると「認知の」または「認識の」ということになるが、リアルにある物体や現象を認識し判断する力を持ったものとして、世の中的にAIと言われるものを定義していた。
それから3年でIBMのAI領域への取り組みや強さがどう変化したのだろうか。
CEOのジニ・ロメッティ氏は、壇上「AI」を「Cognitive」とは言わず、AIという単語をそのまま採用しており、AIがテクノロジートレンドの中心になったことを感じさせた。
IBMのDNAはオープンと透明性にあるということを前提にAI領域における今後注目すべき取り組みを3つのテーマに分けて説明した。
1つ目のテーマは「データのこれから」である。
ここでいう「データ」とは、いわゆる「ビッグデータ」ではなく「ディープデータ」なのだという。ディープデータとは取得可能だがあまり活用されていない高精度なデータのことで、例えば、爪から獲れる触感や振動などからその人が何に触れていて、何をしているかがわかる、といったものだ。
例えば、天気予報の分野では、ディープデータの活用によって、リアルタイムに高精度な天候把握が可能となっている。このディープデータ活用によって様々な社会課題が解決されていくというのだ。
ディープデータをビジネスに活用しているDELTA航空の事例では、10年ほど前の欠航理由の99%が解決されているという。
この例では、メンテナンスに関して、飛行機の状況把握を高精度にリアルタイムに行い、それに合わせたオペレーションも最適化することで、機材トラブルによる欠航が無くなるということだ。
現在は天候による欠航が起きるという課題が残されているが、天候が高精度に把握できることで、欠航回数を減少させることができるということだ。
次にウォールマートの事例が紹介された。
ウォールマートでは食料品の安全確保とロスを無くすためにディープデータが活用されているという。
顧客が求める安全な食料品を用意することが流通業いとっては重要な要素となるが、廃棄する食料品を減らすことも同時に実現しなければならない。
そのために食料品の店頭までの「ジャーニー」をトレースし可視化するシステムを導入したということだ。
10年前は、農場から店頭までのジャーニーを可視化するために1週間かかっていたが、今では2.2秒で実現できているという。
さらに、時間がかかっていた理由は小さい農場が非常に多く存在し、それらのデータがリアルタイムに取得できていなかったためだ。
現在では、農場は、ウォールマートだけでなく、競合の小売店にもブロックチェーンを用いて食料品ジャーニーが把握できる仕組みを活用しているということだ。
2つ目のテーマは「これからのコンピューティング」についてだ。
まず「ジェネラルAI」という言葉で人間の知能に置き換えられるAIを一般的なものとして定義した上で、「ブロードAI」という考え方を持ち込んだ。ブロードAIとは、スケーラビリティにポイントがあるという。
ラーニングからルールや理屈を見出した後、それを他の領域にも転用できる仕組みだという。
例えば、ExonMobilでは、これからさらに高まるエネルギー需要に対応するためには新しいエネルギーを生み出す仕組みを分子レベルから考えていかなくてはならない。しかし、過去のデータ分析から得たルールで置き換えて、新エネルギーを開発することが難しいため、ブロードAIを活用して新しいエネルギーを生み出す仕組みを作り出そうとしているというのだ。
ブロードAIという言葉も、具体的な事例も顕在化していないが、今年注目のワードとなりそうだ。
またコンピューティングのこれからというテーマの中では量子コンピューティングにも言及し、ジェネラルAI、ブロードAIを量子コンピューティング「IBM Q System One」を活用して数年で大幅に進化させていくと述べた。
最期に、「テクノロジーには目的があり、全てのデータの所有と分析には許可が必要であるため、IBMはオープンで透明性を担保したテクノロジー活用による、より良い社会づくりをしていく」と締めくくった。
■CES2019レポート
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。