日本のものづくりの強み、そして将来のあるべき姿
大坪: 私たちの会社は少数精鋭で、新しいこと、難しいことにチャレンジしたいというメンバーが集まっています。量産型の現場もたくさん見てきましたが、社員のやるべきことはマニュアル化されている場合が多いです。
そういう現場を見ていると、ロボットに置き換わる可能性があると思うこともあります。私たちはロボットに使われる側ではなく、ロボットをつくる側にいたいと考えています。
-製造業は色々です。ロボットのような自動設備を用い、「生産性改善」に取り組むというのも一つの流れです。IoTで取材する場合には、そうしたシーンの方が多いです。
問題は、“そっちの話”をしているのに、匠の技術や少量生産のこともいっしょくたにした議論をよく耳にします。でも本当は、それぞれ切り口が違うはずなのです。
また、既存産業をどうするか、といった話に焦点が偏っており、新しい産業をつくっていこうという議論が少ない印象を持っています。チャレンジするべき領域は、まだまだあるはずなのですが。
大坪: そうですね。私は、日本の企業が、世界中のものづくりの開発拠点になっていけばいいなと考えています。今は、中国の深センやアメリカが注目されています。あれはものづくりの一つの“カタチ”ではありますが、日本はちょっと違うと私は思っています。
中国は、製品の種類は電子制御系が多く量産です。それに対して、日本はわりと少量多品種で、精度が高い製品をつくるのに長けています。
Appleもいまや日本に開発拠点がありますが、そのような世界の企業が、深センでやる開発はこう、日本でやる開発はこう、というように、“キャラ”があるといいなと思うのです。とくに、モノをつくるための機械と金型は、日本でできればいいですね。
工作機械メーカーは、日本が世界でも圧倒的に強いです。「〇〇をつくるなら、日本の製品でやろうよ」というプロモーションが、世界的にできればいいと思っています。

-日本のものづくりは、他にはどのような特徴がありますか。
大坪: いいものをすぐに調達できるというのも、日本のいいところです。電子部品は中国の深センの方が早く調達できますが、機械部品は日本の方が早く調達できます。当社はフランスに拠点を置き、ヨーロッパの市場も見ていますが、「日本は便利だ」と思うことが多々あります。
たとえば、イタリアやフランスで、ハードウェア製品をつくろうとした時のスピード感を日本と比較すると、圧倒的に日本の方が速いなという実感があります。世界最高峰の技術を使ってこの製品をつくりたい、と思った場合には、知り合いの会社だけでほぼ世界最高峰の技術が手に入ります。
世界最高峰の技術を見に行こうとスイスの展示会などに行くと、確かにすごい企業はあるのですが、その技術が日本にはできないと思うことは殆どありません。逆に、スイスの企業から当社が仕事をもらう場合もあります。
その代わり、日本はもっと高く売らないといけません。ヨーロッパを見ていると、物価が全然違います。いい製品でも、「日本ではなんて安いのだろう」と思うことがよくあります。ヨーロッパの企業は高く売っているから、労働生産性が高いのです。日本はもっと付加価値を前面におしだしていっていいのではないかと思います。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。