いま、日本の製造業で起きている3つの変化 ―製造業のデジタル化において今やるべきこと【第3回】[Premium]

本連載では、製造業のデジタル化をテーマとして、全3回で解説している。第1、2回では、設備の稼働状況の可視化や予知保全について、生産性を改善した事例や、PoCを行う上で大切なポイントをとりあげた。

デジタル化の第一歩である可視化による生産性改善や予知保全は、マーケティング、設計から保守サービスにいたるビジネスプロセス全体から見れば、「製造」という一部分の最適化だ。

一方、生産性の改善にとどまらず、デジタルの力を使って「ビジネスプロセス全体の全体最適化(デジタルトランスフォーメーション)」を実現しようという動きが、世界ではすでに始まっている。

そこでは、全体最適がなされるだけでなく、デジタライゼーションの結果創出される、「製造ラインの空き稼働状況の公開」や「製造ノウハウ」「製造データ」の販売、「バーチャル空間を使った製品の設計」など、新しいビジネスモデルが提案されている。

そこで第3回では、製造業を取り巻く環境が大きく変化する昨今、日本の製造企業がグローバルで競争力を維持していくために必要なことは何かを考察する。

具体的には、まず製造業における世界のデジタル化の動向を俯瞰したうえで、2018年、日本の製造業で予想される3つの変化について、解説していく。

IoTの目的はデジタルツインを活用したデジタライゼーション

再三述べた通り、世界で起きているデジタル化の動向を俯瞰するためには、「デジタルツイン」の概念を理解しておくことが重要だ。

「デジタルツイン」とは、リアルの世界からありとあらゆるデータを取得することができれば、リアルな世界をコピーしたようなバーチャルの世界をデジタル上につくることができる。このリアルとデジタルをまたぐ双子のことをデジタルツインと呼ぶのだ。

そして、デジタルツイン上で様々なアルゴリズムやAIによるシミュレーションを行うことで未来を予測し、リアルの世界にフィードバックするという考え方が、デジタライゼーションと呼ばれている。

デジタルツインをつくるには膨大なデータを収集することが必要なため、IoTが重要となってくる。また、膨大なデータは人間では処理しきれないため、高速処理が可能なインフラやアルゴリズム、AIが必要となる。つまり、IoTとAIは、デジタルツインを構築するための手段という見方ができる。

第1、2回で解説してきた設備の稼働状況の可視化や予知保全は、このデジタルツインの一部分を活用した一つの例で、「部分最適」と言える。

一方で、デジタルツインを使って、サプライチェーンから製品のライフサイクルを含めたビジネスプロセスの全体を大きく変革するような、「全体最適」の事例も出てきている。

たとえば、建機メーカーのコマツだ。同社は、建設プロセス全体をデジタル化する「スマートコンストラクション」を手がけ、IoTの先駆けとして注目されてきた。

建機の性能を向上させるという従来の「部分最適」にとどまらず、デジタルツインを使い、人出不足に悩む「土木建築」というビジネスプロセスの「全体最適」を進めることで、イノベーションを起こしたといえる。

デジタル革命によって起こる3つの変化

では、デジタルツインを使った製造業の「全体最適」とはどのようなことだろうか。昨今、よく議論されている3つのビジネスモデルの変化に着目し、解説していきたい。

1. 製品がつながることでサービスが変わる

出荷する製品に利用状況がわかるセンサーを組み込んでおくことで、その製品が顧客のもとに渡ったあとも、その利用状況のデータを取得することができる。

その結果、メーカーは、プロアクティブなメンテナンスや、利用状況を把握したうえでのプロアクティブな製品改良版ソフトウエアのアップデートなども行うことができる。

これについては、すでにたくさんの事例が出てきている。本連載の第1回でも、ファナックの射出成型機本体と予知保全サービスが一体となった製品の事例を紹介した。

GEがタービンにセンサーを搭載し、航空会社に対して予知保全や燃費を抑える航路情報を伝えるなどのサービスを先駆けて提案したことは、初期のIoTの事例として有名だ。

2. バーチャル工場で設計・開発のプロセスが変わる

次は、設計・開発のプロセスの変化だ。

メーカーが新商品の開発をする際、まず設計者は工場の製造担当者にその内容を説明する。そして、製造担当者はその情報を工場に持ち帰り、既存のラインで生産できるのかをテストすることになる。

問題があれば設計者にフィードバックし、必要な産業機械を購入する申請などを行う。これを何度か繰り返し、ラインを完成に近づけていく。ここで、仮にタイにある工場での導入の場合、担当者は日本とタイの間を何度も往復することになる。

しかし、産業機械から収集したデータやコントローラーのプログラムと、3D-CADで造られたバーチャル工場を重ね合わせることで、バーチャル空間上でラインをシミュレーションし、生産可能かどうかがある程度判断できるというのだ。

実際にラインを動かしてみると、シミュレーション通り生産できない場合もある。しかし、うまく最適化できれば、開発コストは劇的に削減することができる。

3. プラットフォーム化によって変わる、課金モデル

製造業に限らず、さまざまな産業・業界においてビジネスレイヤーやテクノロジーレイヤーでのプラットフォーム化(エコシステム化)が進んでいる。

「空き稼働」を公開することがビジネスになる

例えば、ある製造設備をもつ企業が自社の持つ生産設備の「生産能力」と「空き状況」を公開していたらどうだろうか。そうすれば、なにかを作る際、空いている工場に発注することができるようになる。

当然、取引実績のない企業にいきなり発注をするのは難しい。しかし、ある程度の取引実績があるならば、グローバル企業が市場に一番近い、稼働が空いている、もしくは価格が安い、品質がよいなどの理由で工場を選択するようになるのは当然の流れだといえる。

このように、プラットフォームを通じて、物理的、空間的、時間的な制約を解消することが可能となるのだ。

このようにデジタルの力を使うことでビジネスチャンスは増えることになる。

データを販売する

また、データを販売することでも新しいビジネスが生まれる。

すでに、工場のラインを可視化している企業が、ラインを構成する産業機械メーカーに対して稼働状況のデータを販売する事例がでてきているのだ。

データを販売するというと、多くの人が「全部見せるの?」と疑問をもつのだが、当然見せて良い部分と見せてはいけない部分を識別することになる。

特に、生データではなく、なんらかの加工を加えた意味のある情報を販売する企業は、今後ますます増えていくだろう。

2018年、日本の製造業で予想される3つの変化

以上で述べてきたことは、まだまだ先のことのように思える部分もあるかもしれない。しかし、2018年の現時点で、もうすでに以下ような動きは始まっている。

1. プラットフォーム化が進む

日本国内では、ファナックの「Field System」やオムロンの「i-BELT」、村田製作所の仮想センサプラットフォーム「NAONA」など、製造業に関わるさまざままプラットフォームが立ち上がっている。

今年の4月からは、アドバンテック、オムロン、NEC、IBM、日本オラクル、三菱電機など6社を中心としたプラットフォーム「Edgecross」の運用も開始される。

スマートファクトリーのプラットフォーム化と要素技術 —第2回スマート工場EXPOレポート1

Edgecrossは、マルチプロトコルに対応したデータ収集から、稼働監視や予知保全などのエッジ・アプリケーションにいたるまで、すべて共通のソフトウェアで実行できるというものだ。

先日シーメンスから、MindSphere3が発表されたのも記憶に新しい。

シーメンスのMindSphere3 -どんなモノでもつながり、データの利活用が簡単になる日

ただ、製造業と言っても、非常に幅が広い。一つののプラットフォームだけですべてを包括することは不可能だ。そこで、製造業における製品レベルで、技術レベルで、新しいプラットフォームがどんどん立ち上がってくるのでないかと予想することができる。

さらに、プラットフォーム同士が相互に連携するような動きも活発化してくると考えられる。たとえば、コマツの「LANDLOG」、GEの「Predix」、ブリヂストンの「Tirematics」は、鉱山の現場ではすでに密につながっているという。

プラットフォーム間連携だけでなく、プラットフォームに無い要素、例えばデータ分析やAIの学習処理といった要素を取り込んだり連携したりしていく動きも出てきている。

2. データの販売ビジネスがはじまる

前述したように、プラットフォーム化が進んでくると、企業としては使えるデータ、価値のあるデータを持っていることが重要になる。

コマツとGEにおいては、「LANDLOG」と「Predix」が連携することで、それぞれが持つデータを相互流通する体制を構築しているということだ。

日本国内においては、データ流通推進協議会が昨年11月から立ち上がり、データの共通フォーマットをどうするかなど、実務的な議論まで進んでいるという。

他にも、前述した、工場のラインに配置された産業機械から取得できる稼働状況のデータを販売する企業も出てきている。

3. エッジのインテリジェント化が進む

先日、ファナック・日立・Preferred Networksの3社が、インテリジェント・エッジ・システムを開発する新会社を設立した。

ファナック・日立・Preferred Networks、インテリジェント・エッジ・システムの開発で新会社を設立

「エッジ・コンピューティング」という言葉があるように、従来、クラウド側で担って高負荷な処理を、エッジデバイスで実行できるようになってきた。

その結果、多くのデバイスにAIなどのアルゴリズムが実装され、自律的に動作する可能性がある。自律制御が無理な場合は、エッジの機能を水平方向に分散させるフォグコンピューティングが重要となってくる。

今後に向けて

ここまで見てきたように、デジタルトランスフォーメーションによって、近い将来、製造業は最適化がすすみ、ビジネスモデルが変わる領域も多いと予想される。

しかし、この流れは製造業だけのながれではなく、多くのIoT/AIを活用する事業において同様の変化が想定されている。

まずは、自社の置かれた産業全体のビジネスプロセスを描き、デジタル化されていないところをデジタル化できないか検討したり、リアル世界でのすべての状況をIoTによって取得できれば、なにが変わるか、という観点で一つ一つのプロセスを見ていく。さらには、取得したデータを公開することでメリットが生まれないかを確認するといったことが重要になる。

製造業のデジタル化において今やるべきこと

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