バルセロナで開催されているMWC2018(Mobile World Congress)のレポート第一弾は、クアルコムの取り組みだ。
クアルコムというと、スアートフォンのモデムを含むチップセットを作っているメーカーとして、世界でもナンバーワン企業だが、2019年、2020年には5G通信が始まると言われている昨今、その対応に余念がない。
ところで、5Gというと、「高速」「大容量」「低遅延」というキーワードが出てくる。
昨年、世界の主要な事業者が5Gを進ることを合意、そして12月には決まらなかった仕様も、ようやく3GPPで決定したという状況をうけて、現在は、それを使った「商用化」に向けた段階に来ていると言える。
3GPPは、通信の仕様の検討・作成を行うプロジェクトのことで、世界中の通信関係者が参加している
5Gといっても、いきなり4Gからパチンと切り替わるわけではなく、4Gも使いつつ、5Gの対応エリアが徐々に広がっていくというイメージなのだ。
商用化に向けた5Gの開発状況
5Gは、大きく二つの要素で構成されていて、国によって使える周波数は異なるのだが、大きく言って、「サブ6GHz」と「ミリ波」と呼ばれる帯域に分かれる。そもそもなぜ二つの帯域を使わないといけないのかというと、「サブ6GHz」の帯域では他の用途で使われてしまっているため、逼迫してきている。それに対して、「ミリ波」の帯域はまだ使われていないのだ。
ちなみに「サブ6GHz」はその名の通り、6GHz以下の帯域を使うという意味で、「ミリ波」は日本では28GHzあたりの帯域を使うと言われている。(正式に決定していない)
一方で、あまりに高周波を使うと、直進性が高くなり、例えば建物の裏側に回り込めないなどの問題がでるのだが、そこを「サブ6GHz」と組み合わせることで、「カバレッジ」と呼ばれる、要は通信ができる範囲が広くなるのだ。しかも、高速通信も実現できる。LTEで使っていた帯域もあいてくるというメリットもある。
そこで、「ミリ波」が注目をされるようになったのだが、一方でそれを実現することができる、スマートフォンサイズのチップセットをつくるのが難しいと言われていたのだ。
しかし、上の写真を見るとわかるように、1年半〜2年くらい前にクアルコムが発表した時点での基盤で、それがどんどん小さくなってきて右側のスマートフォンの大きさになっている。
クアルコムは、この小さくなったチップセットを使った、インフラベンダーとの間での「インターオペラビリティ(相互運用生)データテスト」というテストをすでに行っていて、すでにミリ波帯でのエリクソン、ノキア、サムスンの基地局とチップが通信できることを確認している。
また、「サブ6GHz」についても、ノキア、エリクソン、ファーウエイ、ZTE、サムスンとのテストを行っているということだ。
つまり、主要な世界のインフラベンダーとのテストが、スマートフォンサイズのチップセットで完了しているということになる。
では、実環境において、5Gがどういうスループットを出すことができているだろうか。デモでは、フランクフルトにある現在のLTEの基地局に、5Gのサブ6の基地局を置いた場合と、サンフランシスコの今のLTEの基地局にミリ波の基地局を置いた場合の評価したものが展示されていた。いずれもLTEだけと比べてかなりのスループットの向上が見られる。
ギガビットLTEによる、エリア外への対応
5Gがメリットが多い一方で、クアルコムは、いきなり5Gが広範囲に普及するわけではないことから、「ギガbit-LTE」という考え方を以前から示している。
これは、過渡期において、5Gが使えるところはスピードが早くて良いが、使えないエリアではいきなりLTEに落ちるという現象が起きることに対しての対策だ。
実際にTelstraというオーストラリアのキャリアでLTEを使った2GbitLTEでの通信を年内商用化することが発表されている。
この取り組みが、4Gから5Gへの架け橋となっていくのだ。
5GマッシブIoTと5Gミッションクリティカル
ところで、IoTに関する取り組みはどうだろう。
IoTでは、何百万の端末からつながることになっていても対応する必要がある。
しかし、これまでの通信ではそんな多くの端末からの接続が考慮されていないため、「つないでみると通信ができない」という状況が起きかねない。そこで、多くの端末からの接続にも耐える「マッシブ」という考え方が実現されようとしているのだ。
マッシブIoTを考えると、チップセットに書き込むプログラムは、これまでのようにスマートフォンメーカーだけでなく、多くのサードパーティも書き換えできることが必要になる。そこで、日本でもCat-M1/NB-IoTのチップとして提供されている製品のSDKを公開することにしたのだという。
また、5Gの特徴の一つである「低遅延」。産業用途に使うIoTのユースケースで、URLLC(Ultra Reliable Low Latency Communication)と呼ばれる技術の利用も挙げられた。
これについては、シーメンスと共同で実験を行っているということで、工場の有線ネットワークを5Gに変えるという考え方だ。5Gでは遅延は、1msなので、イーサーネットと同じレベルで実現ができるということだ。
メリットとしては、ケーブルがないため工場の配置を柔軟にすることができる、製造環境を作り変えることができるということだ。
5Gの時代では、モバイル通信は、これまでのようにスマートフォンにだけ、接続すればよいというわけではなくなっていく。
そこで、様々なIoTのユースケースに対応できるよう、こういった実証実験やSDKの公開を始めとして、CESレポートでも紹介したc-V2Xなどの技術の利用実験も5Gの商用化に向けてどんどん行われていくということだ。
MWC2018レポート
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。