現実とデジタルの境目がなくなっていく
加藤: デジタルツインを実現するには、VRとARの技術も重要になってきます。VRやARは、ものづくりの現場でも活用が進んできてはいますが、課題はあります。その一つが画像のクオリティです。現実とデジタルで見た目が違いすぎるのです。
その違いがユーザーにとって違和感になってしまうと、活用が進みません。そこで私たちは、「本物そっくり」のVR/AR空間を提供することを一つのゴールとしてかかげています。
小泉: ものづくりの設計に使う3DCADのモデルと、ゲームのように光の反射なども加味された3Dのモデルはそもそも違うものですよね。ものづくりのデジタル空間をより現実に近づけるには、ゲームの技術も必要とするのですか?
加藤: おっしゃる通りです。クオリティの高い画像が必要な場合は、もともと3次元CADでつくった精密な形状を、デジタルゲームに使うようなデータケースに変換します。
小泉: なるほど、変換するんですね。
加藤: ええ。こちらは(下の画像)、今年、弊社のユーザーイベントで行った、VRを使ってビルの建設現場でロボットを動かしてみるという体験デモです。
小泉: これはデジタルですか?
加藤: ええ、デジタルです。
小泉: そうですか…。現実なのかデジタルなのかわからなくなってきました(笑)。
加藤: ありがとうございます(笑)。
最近では、ガラス張りのビルが多くなってきました。ガラスをはめる作業というのはとても大変です。熟練の作業者がクレーンをすごくうまく操作したり、人力でビルの外に回り込んではめていたりと属人的な技術を使っています。
しかし、ご存知の通り日本では熟練の作業者が減ってきており、技術の継承が課題となっています。欧米も含めてですが、デジタルと土木建築の技術を組み合わせて、そうした課題を解決できないかと私たちは考えています。その一つが、このVRを活用したロボットのティーチングです。
小泉: さまざまなことが3D空間でシミュレーションできるようになってきているのですね。
加藤: そうですね。ただもちろん、わざわざ3Dでシミュレーションしなくても改善できることもあります。
たとえば、この部屋の気温を適正に保つにはどうしたらよいでしょうか。この部屋にいる私たちがセンサーとなり、全員が「暑い」と言えば、空調の設定温度を下げればいいのです。また、部屋にセンサーを設置して、適正な温度を自動で調整することもできるでしょう。これは、別にオートデスクの技術を使わなくてもできることです。
しかし、温度調整が十分に効かなかったり、局所的に冷えすぎたり、暑すぎたりする場合はどうでしょうか。その場合は、エアコンの位置や数、エアコンの性能そのものを変えなければなりません。エアコンの性能を変えるには、ルーバーの3次元形状を変えたり、整流板を追加したりするなどの検討が必要です。
こうなると、3Dのモデルをつくってシミュレーションすることが必要になります。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。