【社員インタビュー】ヒト・仕事・組織・匠の技―。すべてをつなぐデジタルの価値
こうしたデジタル化の取り組みについて社員はどう思っているのだろうか。インタビュー後半では、4人の社員の方にも加わっていただき、議論した。
業務の見える化やデジタル化を進めたことで何が決定的に変わったのか?
「業務プロセスの改善をするまでは、人間関係が悪かったですね(笑)。ただ、今では社内で何か問題が起きた時に、「誰が悪い」という感覚を持っている人はいないと思います」。こう述べるのは、執行役員業務本部 本部長の今野三千代さんだ。
「営業がちゃんとやってくれないとか、業務がやっていないとか、以前は人のせいにしていました。多くの場合、問題の原因は上流にありますが、起こるのは下流です。上流といっても多くの場合は営業なんですが、営業は何の情報があれば後工程の人が便利かどうかわからないまま仕事を進めがちです。それが積もり積もって、後工程で問題になるのです。VCPCの方々と業務の見える化を進めていたとき、ベテランの営業マンが言いました。「原因は俺だったのか」と(笑)」(今野三千代さん)
「私は当時、ベテランから「10年早い」と言われました(笑)」。当時若手の営業マンだった高橋博文さんはこう振り返る(現在は、営業本部 企画開発営業部 マネージャー)。
「当時、特注品はその道一筋40年というベテランの方が担当していました。お客さんの現場も知り、製品のこともわかり、油圧技術も経験的に深く体得している。こういう人じゃないと特注品はできないと。把握すべき要求事項が標準化されておらず、一生懸命やっているつもりでも、新人の自分たちには何かしら肝心なことが抜けてしまうのです。叱られてばかりで、自信喪失の日々でしたが、10年経験積めば大丈夫だからと慰められて、かえって不安になりました(笑)」(高橋さん)
ものづくり本部 技術部 マネージャーの菅原知史さんは次のように語った。
「今でこそ、営業がお客さんから話を聞いた時点で、営業と設計が話し合って構想設計を決めます。設計と製造も話し合います。ただ、昔は「特注」といっても簡単なカスタマイズのみだったという事情はありますが、ベテラン営業からトップダウンでいきなり製造に指示を出していました。営業の段階で顧客要求が細かなところまで把握しきれていないことも多く、それでは当然トラブルになります。
昔はよくクレームがありましたが、今はもうクレームはありません。新製品をつくるときにはアフターサービスのことも考えます。「10年やって一人前」というのは製造現場でも言われていたことです。でも、今では一人前の仕事をするのに10年もかけていられません」(菅原さん)
ベテランの頭の中にしかなかった知識や経験を共有化していくことが、今野製作所の業務改善に大きく寄与したようだ。では、ベテランはどう思っているのだろうか。今野社長は次のように語る。
「ベテランは、どういう変化が求められているかがわからなかったのだろうと思います。「見える化」とはいっても、彼らはすでにいろいろなことを知っているし、自分のやり方で数十年やってきたわけですから。だから、本人は悪気もないし、新しい取り組みを否定したりもしません。ただ、何かのときにぽろっと言っていたと思うんですよ。昔の今野製作所はこんな仕事はできなかったけど、今は随分できるようになったね、今の若い連中はやれちゃっているねと。それができている理由がチームワークにあるということも、薄々わかっていたようなのです」(今野社長)
仕事をつなげ、部署をつなげることが大切だった
また、今野製作所では油圧機器事業と板金事業が、別の会社のように分断されていた過去があったという。
「油圧事業は、本社、大阪営業所、福島営業所で場所が離れており、人数も多いです。そうすると、工夫しないとうまく回らないですから、チームでの業務改善も割とスムースにいきました。ただ、板金事業だけはまったく別の会社がそこにあるという感じでした。自分たちで発注し、売上の伝票を立てていました。自己完結の職場でした」(今野三千代さん)
そうした状況も今は改善され、部門と部門がつながり、一つの会社として動けるようになったという。2010年以降、8年にわたり進めてきた業務の見える化とデジタル化の取り組みにより、「つながっていないものをつなげる」ことの大切さをすべての社員が実感しているようだ。
また、最近では女性の社員も増えてきているという今野製作所。そのための手段としても、デジタルの活用が期待できるという。
「これまでだと現場で女性が働くのは無理だという考え方がありましたが、今はそんなことありません。男性しかできない力のいる作業も自動化・半自動化など工夫をして、誰でもできるようにしていこうという機運が高まっています。今ならそこに自然な形でデジタル化を折り込んでいけるはずです」(菅原さん)
今後の取り組みについて
営業本部 企画開発営業部の高橋博文さんはIoTを活用した「サービス化」を見据える。「受注、調達から出荷、アフターまですべてのデータを収集することで、新しいサービスをつくりたいと考えています。迅速な納期回答はもちろん、お客さんに出荷したあとの製品サポートも充実できるはずです」(高橋さん)
そうしたさまざまな新しいアイディアをカタチにしていくのが、技術部で「IT担当」をになう今川祥太朗さんだ。菅原さんから2年前にIT担当を引き継いだ。現場の改善要望がどんどん今川さんのところに上がってくるので、大変な役割だ。
「今川は大変だと思います。社長からこんなシステムをつくってほしいと言われたのに、いざつくってみると、現場からはこんなの使えないと言われたり(笑)」(今野社長)
しかし、今川さんは失敗を糧に自信をにじませる。
「現場の生産管理システムはけっこう痛い目をみました。仕事のやり方が定まっていない状態でシステムをつくってしまったからです。本来あるべき姿というのに合わせて無理やりつくったのですが、それと現実の仕事の現場と乖離がありました。立ち上がるまで3年かかりました。ただ、逆にそういう失敗があったので今があります。これからはITやIoTをもっとうまく活用できると思います」(今川さん)
ある意味、ベテランなど一部の人間だけが持っている知識や経験、技術は何もしなければ次の世代に「つながらない」のかもしれない。ただ、今野製作所はチームで動き、デジタルツールなどを活用することで、それをつなげてきた。仕事や組織など、さまざまなことにおいてつなげることの重要性が、今野製作所の取り組みからは見えてくる。
最後に、今野社長は今後の抱負について次のように語ってくれた。
「私たちが得意とする多品種少量生産では自律性が求められます。ですから本来、デジタル化の取り組みとも相性がいいはずです。それは知識型の仕事であり、作業ではありません。私は、こうしたIoTなどの最新の取り組みを活用しながら、ものづくりの好きな人たちがやりがいを持って持続的に働ける確固たるしくみをつくりたいと考えています。『今野製作所ができたらみんなの希望になる』と西岡先生(法政大学教授/IVI理事長)に言われたことがあります。がんばりますよ」
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。