本記事は、オムロン株式会社の協力のもと制作しております。
現在、製造業の生産現場では自動化が加速しており、複雑かつ高度化している。
自動化には、さまざまなデバイスに対して高速に処理を伝えたり、それらのデバイスを同期して動かしたり、更には問題発生を素早く検知することが必要になる。
そして、これを実現するには、高速かつ多くのモータ等を同期して制御できるネットワークと、高度な処理に耐えるコントローラが必要になる。
そこでオムロンは、産業用オープンネットワークである「EtherCAT(イーサキャット)」を、多くのマシンオートメーションコントローラに採用しているという。
本稿では、産業ネットワークで「EtherCAT」を活用するメリットや、オムロンのマシンオートメーションコントローラで実現できる工場の自動化について、オムロン株式会社、Network&I/Oのプロダクトマネージャである李 海敦氏にお話を伺った。(聞き手: IoTNEWS代表 小泉耕二)
目次
コントローラーにEtherCATを採用した背景
オムロンは、インテリジェントなPLCとして、「マシンオートメーションコントローラ」を提供している。
オムロンのマシンオートメーションコントローラにEtherCATを採用したのは2010年代。ロボットやモータを使った制御が様々な業界で重要視され始めた頃のことだ。
EtherCATを採用する以前は、「DeviceNet」を採用していたが、様々なデバイスを同時に、かつ高速に制御するには機能が足りなかったのだという。
例えば、組立工場などで、ベルトコンベアのモータを動かし、カメラを活用しながら組み付けの状況を確認し、ロボットも同時に動かすといった場合、複数の装置の中に存在するモータなどの全てが同期し、正確な位置に正確に物を動かし、かつ高速に制御を行う必要がある。

こういう時、「高速性と高精度同期性を兼ね備えたEtherCATが適したネットワークだ」と李氏は語る。
「高速かつ高精度に、制御を行うオムロンのマシンオートメーションコントローラは、高速かつ高精度に同期処理が行えるEtherCATのネットワークを採用しているからこそ、複雑化する工場の自動化やデータ収集を行うことができるのだ。」という。
高速化を実現するEtherCATの特長
ところで、EtherCATとはなにかをおさらいする。よく知っている読者は次の章に進んでほしい。
複数のデバイスを制御する際に、通常の産業用Ethernetプロトコルでは、各デバイス宛にEthernetフレームを使用する必要があるため、回線効率がよいとは言えず、高速通信の実現は難しい。
一方、EtherCATの通信方式の場合、1つのフレームが全スレーブを周回し、その際に各スレーブが各自の領域のみで読み書きするため回線効率がよく、高速通信が可能となっている。
高速通信が可能となることで、タクトタイム(製造における、生産工程の均等なタイミングを図るための工程作業時間のこと)を短くすることが可能になる。

この特徴を活かした上で、さらにオムロンのマシンオートメーションコントローラに適した信頼性の高いネットワークとして仕上げるために、デバイスの通信信頼性の向上にも力を入れているのだという。
また、DeviceNetなどの、電源と通信線が繋がっているネットワークの場合、全てのデバイスが同じ線を共有している。これでは、例えば電源線に一箇所異常があると、ネットワークが全て使えなくなってしまうのだ。
一方EtherCATをはじめとするEthernetがベースのネットワークは、ノード間の信号の繋がりのみで、そこから先は独立して配線がなされているため、一箇所異常があったとしても、他を経由して動かすことができる。
IoTで活用するネットワークは、多くのデバイスからデータを収集することが重要なため、DeviceNetのように通信速度が遅く、制御できるデバイス数が限られているネットワークでは不十分だ。
EtherCATは、高速かつ大規模なデバイス数にも耐えられるネットワークであるため、オムロンのマシンオートメーションコントローラと併用して活用することで、最大512のスレーブを持つことができるのだ。
特殊な制御への対応を行う「ATC」
マシンオートメーションコントローラ上の制御プログラムは利用者が内製することは可能である。
しかし、複雑化する課題を解決してく必要がある昨今、担当者のみで設計を行うのが困難になる場合がある。
そこで、オムロンは「ATC(オートメーションセンタ)」という組織で、お客さまの装置の制御、安全、通信の課題解決のサポートも行っている。
例えば、搬送機を制御するケースを考える。高速に搬送しようとすればするほど、搬送時に揺れや振動が発生し、搬送機に載せている製品にも影響が出る。
そこで、揺れや振動を制御するためのアプリケーションをATCが作り込み、「ファンクションブロック」として提供しているのだという。
こうしたサービスにより、現場個別の複雑な自動化や制御へのニーズにも対応しているのだ。
マシンオートメーションコントローラとEtherCATの活用事例
次に、マシンオートメーションコントローラとEtherCATが、実際に導入されている事例の一部を紹介する。
自動車製造工程活用事例
マシンオートメーションコントローラとEtherCATの導入事例のひとつは、自動車製造工程だ。
自動車部品の組立工場では、組付けを行う際に、正しい位置に配置できているかどうかを検出する必要があるのだという。
組付け不良が発生した製品が、そのまま先の工程まで行ってしまうと、全て作り直さなければならず、時間や材料など、膨大なロスができてしまうため、一つ一つの工程を正確に行うことが重要なのだ。
しかし、従来のネットワークでは、正確な位置をリアルタイムで把握するには遅すぎるという問題があった。
そこでオムロンのマシンオートメーションコントローラとEtherCATを採用することで、正確かつ高速に把握することができるようになったという。
食品包装や電池の加工での活用事例
食品向けの包装機や、二次電池製造など、シート材加工に活用されている。
なぜなら、薄膜化するシート材にダメージを与えずに加工するには、同期性が重要になるからだ。
包装機の場合、ロール状になっている材料を、伸ばしながら袋を作っていくが、全てがきちんと同期されていなければ、材料がたゆんだり歪んだりしてしまう。

こうした、速度や同期性が求められる装置に導入されているのだ。
さらなる高速化に向けた今後の展望
今後の製造業では、「深刻な人材不足により、再現性を持たせる重要性がさらに高まってくる。そのため、データ活用をし、シミュレーションを行うことが重要だ。」と李氏は言う。
一方で、いくら高度なシミュレーションが実現できたとしても、現場がシミュレーション通りに動かなければ意味がない。
しかも、高速に自動化すればするほど同期性を保つのが難しいという側面もある。
今後はシミュレーション結果を現場で再現するためにも、さらなる高速性が必要となるため、EtherCATがさらに高速になった「EtherCAT G」の活用も視野に入れているという。
また、EtherCAT Gを活用することができれば、画像データなどの大容量データが流せるようになる。
現状では、制御用の信号はEtherCAT、画像データはEthernetで流しているが、EtherCAT Gにより同時に流すことができれば、「制御の幅が広がる」という。
技術の進化と、それを取り込むことができるマシンオートメーションコントローラの特徴を活かすことで、シミュレーション結果に対応できる「同期性」と「高速性」を実現していくことができるのではないか、と李氏は述べた。
関連リンク
詳細は、関連リンクや関連記事を確認してほしい。
関連リンク
- オープンな産業ネットワーク-Sysmacコンセプト(オムロン株式会社)
- EtherCAT通信とは何ですか?-FAQ(オムロン株式会社)
- 包装機ライブラリ(オムロン株式会社)
- 制振制御ライブラリ(オムロン株式会社)
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