カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編

2023年3月9日〜10日、ものづくりとデジタルを融合させて新たな社会をデザインし、世界に発信する一般社団法人IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)による、最新のシンポジウム「IVI公開シンポジウム2023 -Spring-」が開催された。

本稿は、パネルディスカッション、「メタバースと生産現場の新たな関係~カーボンニュートラルを目指すアフターコロナのものづくり~」の後編だ。5つのトピックスのうち、「カーボンニュートラルで生産現場はどう変わるのか?」「脱炭素へ向けた中小製造業のリアルな取り組み」「日本のものづくりはアジアのリーダーとなれるのか?」の内容から、主にカーボンニュートラルに関する内容を紹介する。

前編はこちら:日本のものづくりをつなげ、強みを助長するメタバースの可能性 ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート前編

パネリストは、トップ画左より、ロボット革命産業IoTイニシアティブ協議会(以下、RRI) 事務局⻑ 堀田多加志氏、錦正工業株式会社 永森久之氏、IVIカーボンニュートラルタスクフォース副主査兼日本電気株式会社 岡田和久氏、IVI幹事兼ブラザー工業株式会社 ⻄村栄昭氏、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 小宮昌人氏、モデレーターはIVI理事⻑の⻄岡靖之氏が務めた。

エネルギーの生産性を上げ、カーボンニュートラルを目指す

カーボンニュートラルに関してIVIは既に、昨年の3月10日に開催された公開シンポジウムで、「すべての製造業がカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)を基軸に活動を組み立てる世界」を前提としたコンセプトを提言している。さらに、2023年1月25日には、カーボンニュートラルに関する新たなホワイトペーパー「トラストなカーボンチェーン・ネットワークの実現方法」が公開された。

ホワイトペーパーに関するインタビュー記事はこちら:連携の連鎖で確実なCO₂削減を目指す ―IVI 西岡氏インタビュー

こうした取り組みを前提に、西岡氏は、「カーボンニュートラルはコンセプトではなく、具体的なアクションフェーズに来ている」とし、その現状について、IVIカーボンニュートラルタスクフォース副主査である岡田氏に聞いた。

まず前提として、カーボンニュートラルの意味合いについて、以下の図により説明された。

カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編
製造業におけるかーボンニュートラルの意味合い

そもそもCO₂は、エネルギーを発生させるときに排出され、さらに、そのエネルギーを活用する際にも排出される。

しかし、現状注目されているのは、自然エネルギーや再生可能エネルギーへの切り替えによる、エネルギー発生時のCO₂削減なのだと岡田氏は述べる。

エネルギー発生時のCO₂削減も重要であるが、それでは製造現場のモチベーションにはなかなかつながらない。

そこで、製造現場で使用するエネルギーを、いかに少なく生産できるかといった、「エネルギー生産性」に注目すべきなのだという。

エネルギーの生産性を上げるためには、サプライチェーンをつなぎ、製品ごとのCO₂排出量を見ていくことが求められる。

そうした中、商品やサービスの、原材料の調達から廃棄・リサイクルに至るまでの温室効果ガスの排出量を、CO₂に換算して表示する「カーボンフットプリント(以下、CFP)」が、改めて注目されていると岡田氏は言う。

しかし、これまでのCFPの考え方は、電気の総使用量に対して総出荷数の按分で割ったり、部品の購入金額で割ったりと、企業やサプライチェーンによって、フォーマットや計算手法がバラバラであった。

CFPのあるべき姿は、サプライチェーンを構成する企業間で協力してCO₂を削減していくために、それを見える化することで、消費者自らが低酸素な消費活動に反映されるために活用されるというものだ。

カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編
サプライチェーンを構成する企業間で、協力してCO₂を削減していくことが重要であり、それを見える化することで、消費者自らが低酸素な消費活動に反映していくという、CFPのあるべき姿が描かれている。

岡田氏は、CFPのあるべき姿を実現するためには、「末端の設備から上流までをつなげていくため、企業間で排出量データを交換する際の技術要件などを定める必要がある。設備別時間単位のエネルギー使用量を、製品やオーダーと紐付け、BOMやBOPで設定した目標値や基準値と、実績値の管理をする。また、フォーマットや計算手法も標準化する必要があるため、企業間のデータ連携を行うための『CIOF』のようなデータ流通基盤が重要になる。」と述べた。

さらに、積み上げ方式でCFPを計算する必要があるのだとして、以下の図を示して説明した。

カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編
CFPを積み上げ方式で算出するための仕組みを表した図

積み上げ方式でCFPを計算するには、BOMやBOP(部品管理システム)、ERP(企業資産計画システム)やMES(製造実行システム)、現場のデータベースやエッジ系のデータコレクタの、全てをつなげた仕組みを構築する必要があるのだという。(上図右側)

「全てをつなげることはハードルが高いが、実現できれば経営的な視点から全体を分析するといったことや、工場の視点からエネルギーの全体像を見ていくことが可能となる。」(岡田氏)

また、フォーマットや計算手法の標準化に関しては、商品・製品ごとにCO2を計算する「PCR(プロダクトカテゴリールール)」や、ISOが定める規定などについて調査し、動向を掴んでいるところだとした。

カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編
CFPを企業間でデータ流通させるために取り組んでいること

カーボンニュートラルの現状を踏まえた上で、西岡氏は、カーボンニュートラルとメタバースに関する共通点について、JICベンチャー・グロース・インベストメンツの小宮氏に伺った。

小宮氏は、「デジタル分野のデータが重要になってくるという点で共通部分が非常に大きい。また、企業を超えて連携を図るためのルールづくりが行われている点も同じだ。」と、共通点について述べた。

さらに西岡氏は、カーボンニュートラル実現のためにメタバースを活用することができるかを小宮氏に聞くと、「サプライチェーンや都市全体でのCO₂排出量の見える化や、エネルギーの生産性を向上させる工場ラインをソリューションとして販売することなどに寄与すると考えられる。」と語った。

電力多消費産業がカーボンニュートラルを追い風にするために

次のトピックは、錦正工業の永森氏による、「脱炭素へ向けた中小製造業のリアルな取り組み」だ。

錦正工業は、1928年に栃木県に創業した、鋳物に関わる企画設計から鋳造・加工・塗装・組立や、重工業の受託製造などを行う、従業員41名の中小企業だ。

鋳物業界は多くのエネルギーを必要とし、CO₂を大量に排出する。そのため、国からの規制や発注主からのCO₂削減要求などが年々厳しくなっているのだという。

カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編
鋳物工場のイメージ

こうした状況に対し永森氏は、「特に中小企業は何も行動しなければ取り残されるのは目に見えているため、これをチャンスと捉えて行動しなければならない。また、単に国や発注主にCO₂排出量の報告をするという一方通行な仕組みではなく、顧客に対する価値訴求をし、新たなビジネスにつなげることも可能だと考える。」と、前向きな姿勢を述べた。

錦正工業のカーボンニュートラルへ向けた具体的な取り組みは、IVIのワーキンググループにて行われている。IVIが公表している企業間オープンフレームワーク「CIOF」を活用し、CO2排出量に算出。CFPとして、企業間取引に活用できるようにする取り組みを行ってきた。

永森氏は、「データとその価値を守るためにも、データ・オーナーシップ(データ協調戦略)に配慮する仕組みを構築しようとしている。新たに生まれた価値を、つながっている企業間全てで享受していきたい。そのためには、中小企業であっても受け身ではなく、カーボンニュートラルに関して議論が行われている今から入りこみ、積極的な参加が必要だ。」と語った。

これに対し小宮氏は、「苦しんだ分、それを乗り越えた企業はノウハウや知識が蓄積され、今後はソリューションとして販売することも可能。こうした前向きに取り組んでいる企業が、参加しやすいデータ共有の仕組みやルールを日本から打ち出すことができれば、アジアでの仲間づくりを強化しながらも、競争力を加速させることができる。」と、中小企業の頑張りが日本の競争力となる仕組み作りも重要だとした。

アジアでのデータ連携へ向けた日本の取り組み

最後のトピックは、「日本のものづくりはアジアのリーダーとなれるのか」だ。

これについてRRIの堀田氏より、日本の現状について、RRIの取り組みを通した説明がなされた。

まず、1960年代にコンピュータが使われ始めてから、産業のデジタル化の進展について、以下の図によって示された。

カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編
産業のデジタル化の進展を表した図

RRIが発足されたのは2015年は、AIやIoT、協働ロボットが注目され、複数のシステムをつなげる「システムオブシステムズ」が話題になった頃だ。

堀田氏は、「当時はシステムオブシステムズがあまり普及しなかったが、最近になってデータ連携が再注目され、IoTもようやく実るのではと感じている」と、期待感を示した。

RRIでは、中小企業に対するアクショングループにて、中小企業間のネットワーク化や、中小企業が参加できる規格やルール作りなどに取り組んでいるが、今年はデータ連携やモデルベースズ(MBSE)に対するアクショングループの設置を計画しているという。(上図黄色部)

製造業におけるデータ連携の動向については、ドイツをはじめとする欧州を例に挙げ、欧州産業エコシステムについて以下の図で説明された。

カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編
欧州のデータ連携動向

「Gaia-X」をはじめとするデータ交換基盤サービスの統合を行い、その上にマーケットプレイスのようなデータスペースレイヤーが構築される。データスペースにはルールがあり、その認証を受けたアプリケーションがさらに上のレイヤーに構築されているという構想が活発になっているという。(上図左側)

堀田氏は、アプリケーションの例に「カーボンニュートラル」や「サーキュラーエコノミー(循環経済)」などを挙げ、個社だけでは解決できない課題へ向けた仕組みだと述べた。

「ヨーロッパでこうした動きがある中、日本やアジアはどう動いていくのか、また、どう関わっていくのかについて、アクショングループの設置などで対応方針を出していこうとしている。」(堀田氏)

最後に、データ連携に対するアクショングループでの具体的なタスクが3つ挙げられた。

カーボンニュートラルへ向けた具体的なアクションのヒント ーIVI公開シンポジウム2023 Springレポート後編
データ連携に対するアクショングループの3つのタスク

1つ目のタスクは、データスペースの中で進んでいるとされている、ドイツの自動車OEMやサプライヤーが中心となって結成されたオープンコンソーシアムである「Catena-X」の動向調査や評価だ。これを踏まえた上で、日本の戦略を検討していくのだという。

2つ目のタスクは、どのようなシチュエーションでデータ連携を行っていくのかといった、ユースケースの検討だ。また、ユースケースの共通要件を抽出し、リファレンスモデルに落とし込んでいくという。

3つ目のタスクは、エンジニアリング変革へ向けて、経済産業省の関連団体と連携し、情報や課題の共有を行っていくというものだ。

堀田氏は、「タスクを実行するにあたり、IVIと連携しながら議論を深めて進めていく」と、日本が行うべき今後の活動や方向性策定へ向けて、IVIと共に取り組んでいくのだと述べた。

西岡氏は、欧州のデータ連携基盤は着々と進んでいる一方、その基盤の輸出には手間暇がかかり、場合によっては大きな制約がかかる中で対応を迫られているとした上で、企業の立場から、データ連携に対する日本と海外の温度差について、ブラザー工業の西村氏に聞いた。

西村氏は、「カーボンフットプリントの観点では、日本は意識が高い一方、製品やプロダクトの選定理由にまだまだ考慮されていない。そうした中での勝ち筋は、レガシーなプロダクトを生産していた工場が、環境に配慮した再生工場として立て直すことだと考える。また、耐久消費財においては回収義務も発生している中、どのように回収し、再資源化するかのルーティーンを組むことができれば、競争優位になる可能性もある。」と、日本の現状と、進むべき方向性について意見を述べた。

西岡氏は、カーボンニュートラルに取り組む中で、アジアがつながるきっかけになれば、と期待感を示した。

そして最後に、「今回のパネルディスカッションは、『答えのない議論』をテーマにしているが、話に挙がった内容をヒントに未来を築いていってしてほしい。」と、製造業の未来へ向けたコメントで締め括った。

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