設計が終わったら5分後に工場でモノ作りを始められる -シーメンスのデジタルエンタープライズ
シーメンスでは、「SDPD(システム・ドリブン・プロダクト・ディベロップメント)」という言い方をするのですが、要はシステムエンジニアリングのことです。もしくは、最近はよく「モデルベースデザイン」と言われますが、「モデルベースにするための様々な情報をデータベースで見えるようにしていくアプローチ」です。
これの大事なところは、「要求、ファンクション、ロジックと実際のプロダクションは別で、定義していかなければいけない」ということです。
「要求」というのは、国からの規制や、お客さんのこんなものが欲しいという情報などです。それを実現する方法は数多くあるので、俯瞰的に全体を見て、こっちを選ぼう、あっちを選ぼうというようにやっていかないといけません。

-決めつけちゃいけない、ということですね。
そう、決めつけちゃいけないです。そのように考えると、実はインダストリー4.0自体は、こういったシステム化そのものだといえます。
そして、RAMI4.0(Reference Architecture Model Industrie 4.0:多次元の全体最適化を実現するための、インダストリー4.0におけるリファレンスアーキテクチャ)はまさにシステム化のための図です。マップのようになっていて、全体でどこをやっているかということを網羅できるようになっています。このことについて慶應大学の白坂先生(モデルベース開発やデザイン思考の専門家)と先日一緒に講演をしたのですが、「やばいね、ドイツ人。こんな方向から攻めてきたか」となったくらいです。
アカテック(Acatech:ドイツ工学アカデミー)が出している資料によると、インダストリー4.0やIoTの実行において一番の課題は「人」だというアンケート結果が出ています。つまり、「人」がついてきていないのです。
例えば、スマホ時代が到来する前に「スマホってこんなにすごいんだよ」と言っても、イメージできない人が多かったのですが、こういったことをブレイクしないといけない。
どういう人材が必要かというと、いろんな業界やいろんな技術を組み合わせることができる人です。例えば現在では、三次元のCAD製作者と、工場のメンテナンススタッフは完全に離れています。
しかしドイツでは、工場の人がメンテナンスする前に三次元でシミュレーションできたり、メンテナンスを止める前にシミュレーションできたりする人材を積極的に作ろうとしています。
さっきお話したデジタルエンタープライズは、「それって前に聞いたような話だな、何が違うのだ。何をわざわざシーメンスみたいな会社がそんなこと言っているのだ」とおっしゃるかもしれません。
PLM (Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)、製品の設計企画、シミュレーション、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)/MOM(Manufacturing Operations Management:製造オペレーション管理)と言われる生産計画や品質管理、それから、実際に工場で動いているシーケンス、インバーター、モーションなど、これらを一体で活用できるものをデジタルエンタープライズと呼んでいます。
(下図参照)
「デジタルで一気通貫」と言うのは簡単ですが、現在「PLMとMES/MOM」、「MES/MOMと自動化製品」の間はデジタルではつながっていません。実際は、複数のシステムが動いていて、システム間を人の手でつないでいたりします。また、一般的に工場内のシステムやネットワークについては、IT部門の人はあまりタッチできていないと思います。
そこで、これらを繋ぐことで、マス・カスタマイゼーションが素早くできるのではないかと考えているのです。例えば、「設計が終わったら5分後に工場でモノ作りを始められる」。そういったことをシーメンスでは実際におこなっているのです。
-ほんとですか!
はい。言うのは簡単ですが、ただ、やろうと思うと様々な前提条件を変えていかなければいけません。
現状では、一般的な開発・製造の現場では、設計者が設計をし、生産技術者がいろいろやってくれた後に完成となりますが、デジタルエンタープライズでは、最初の設計の段階でモノが作れるまで作り込まなければいけません。
現在の製造現場では開発した製品は、まずBOM(Bill of materials:部品表)を作成して、ERPに入れて、様々な人が作業をして、やっと工場まで情報がたどり着きます。
IoTを活用している製造の現場でもPLMのデータを直接工場に出しているところはありませんが、デジタルエンタープライズではこれを直接出します。作り方とオーダーは分けていますが、この両方のデータを工場へ直接送ります。(つまり、プロセス間のムダが一気に省かれる)
こういうことが起こってくると、今までの生産の仕組みは根本的に変わってきます。今までの生産の仕組みは、私は中「ロット生産」と言っています。小ロットと言ってもいいかもしれませんけど、ロットがある程度あって、設計もそのロットに合わせてできるように準備してという作業をするため、実際に工場で作れるようになるまで結構な期間がかかります。
それに対して、シーメンスは、「すぐ作り始められる究極のフレキシビリティ」を目指しています。
次回に続く。
【シーメンスインタビュー 一覧】
第一回:インダストリー4.0の本場ドイツのスマートファクトリー、その本質は何なのか? 設計終了後5分で製造が始められる秘密
第二回:ここまでできる、シーメンスが考える製造業のIoT —シーメンス 島田氏インタビュー
第三回:製造業のIoTが、月額数千円から始められるIoTプラットフォームとIoT時代の工場のセキュリティ
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