「買う理由、買わない理由」を人工知能が解き明かす -ABEJA(アベジャ)CEO岡田氏インタビュー

【株式会社 ABEJA 代表取締役CEO 岡田 陽介氏】
1988年生まれ。2011年、株式会社響取締役CIOに就任。Webサービス開発・SMM戦略立案を担当。その後、株式会社リッチメディアに入社。6ヶ月で最速最年少事業本部マネージャーに昇格。四半期で数億円の事業開発を経験。その後、シリコンバレーに滞在。2012年4月に同社を退社し、同年9月に起業。

最近では「人工知能」というキーワードが新聞にも載るようになり、インターネット上でも見かけることが多くなった。企業が少しずつ人工知能サービスを取り入れ始め、実際に活用されはじめている。企業が人工知能を取り入れる時に、どんな人工知能サービス提供者を選ぶといいのだろうか。

今回インタビューを実施した株式会社ABEJA(アベジャ)は、人工知能を活用したインストアアナリティクスサービスABEJA Platformは、リアル店舗内のデータ取得から解析、可視化までを一手に行うクラウドサービスだ。

ABEJA Platform 概要
ABEJA Platform

ABEJA Platformを導入することで、来店者数や店内の滞在動態、顧客属性などの従来取得できなかったあらゆる店舗内データと、既存データから新たな価値を生み出し、売上向上やコスト削減につなげることができるという。

 

ABEJA Dashboard「店舗概要画面」

ABEJA Dashboard「店舗概要画面」では、リアルタイムに収集した店舗データのサマリーを表示し、来客人数、売上、購入人数、客単価、買上率など、店舗運営における重要な指標となるデータを、一目で把握することができる。

 

ABEJA Dashboard「分析画面」では、来客人数、売上、買上率などの店舗データの相関性を分析する。時間毎や客層毎に傾向を比較することで、店舗の課題が浮き彫りになる。
ABEJA Dashboard「分析画面」では、来客人数、売上、買上率などの店舗データの相関性を分析する。時間毎や客層毎に傾向を比較することで、店舗の課題が浮き彫りになる。

 

これまで、小売りや街の現場で「なぜ買わないのか?」など、これまでデジタル化できなかったデータが取れるようになってきている。今回、その株式会社 ABEJA 代表取締役CEO 岡田 陽介氏に話を伺った。

店舗「買う理由、買わない理由」を人工知能が解き明かす -ABEJA(アベジャ)CEO岡田氏インタビュー
左:株式会社 ABEJA 代表取締役CEO 岡田 陽介氏/右:IoTNEWS代表 小泉耕二

 

3年前に日本でディープラーニングをコア事業としている会社はなかった

 
-まず社名が特徴的なのでお伺いしたいのですが、なぜ「ABEJA(アベジャ)」というのでしょうか。

ABEJAはスペイン語で「ミツバチ」という意味です。もし地球上からミツバチが1匹もいなくなったら、生命体がほぼ全滅します。その理由は、ミツバチは花と花を繋いで蜜を集めてそれが受粉に繋がると、植物が育って動物が食べるという食物連鎖の一番いいポイントにいるからです。受粉プロセスの一番の要の場所にいるミツバチ、我々はそういった存在になりたいと思ってABEJAと名付けました。

もし我々がいなくなったら、経済全体、社会全体の構図が崩れるというようなレベルのことをやりたいなと思っています。現在、設立してから3年と6か月目です。

 
-なるほど。最初から人工知能をやろうと決めていたのでしょうか。

はい。前職はシリコンバレーにいたのですが、その時にディープラーニングが話題になるタイミングでした。その時、「これ絶対やりたいな」と思って日本を見渡してみたら、まだ一社もやっていなかったので、「ディープラーニングをコアテクノロジーとして事業をやろう」と決めて日本に戻ってきました。

 
-なぜ日本でやろうと思われたのでしょうか。

人工知能分野はすごく特殊なのですが、日本にはとても優秀な研究者が多いのです。なぜ日本でアメリカのように人工知能が産業化していかないかというと、産業化できる人がいないからだと思っています。

研究成果を産業に結び付けて、それをビジネスとして社会に広めるという、「間を繋ぐ」人が少ないので、「それを私がやろう」ということではじめました。そのあとにさまざまな大学の先生とお話をさせていただいて、共同研究をしたり、顧問になっていただいたりして、イノベーションのエコシステムを作っています。

 
-人工知能において、基本の論理が研究者によって異なるということがありますが、そういう、研究者間での重複感は問題ないのでしょうか。

実は、人工知能とその関連分野は広く、我々が共同研究を行っている先生方は研究領域が全て違います。研究が「重複する」というよりは「うまく融合していく」のが我々の役割となるのです。

 
-なるほど。「主張が違う」のではなく、「領域が違う」ので、うまく混ぜていくということなのですね。

おっしゃるとおりです。例を挙げると、ある先生は画像認識に特化したディープラーニングを研究していますし、ある先生はビジュアライゼーションの分野を研究しています。さらに、また別の先生はデータを分析するための基礎ロジックを研究しているという状況なので、明確に違います。

ディープラーニングで、できないことを明確にする

店舗「買う理由、買わない理由」を人工知能が解き明かす -ABEJA(アベジャ)CEO岡田氏インタビュー
株式会社 ABEJA 代表取締役CEO 岡田 陽介氏

 
-人工知能の分野としては、まずは「画像認識」から事業化されているのでしょうか。

まず研究としては、「できることとできないことをハッキリさせる」ことが重要だと思いました。

「できないことを探る」ということは、結構重要なことで、できないことを永遠とやっても、できないことはできないのです。まず画像認識から始めたのは、明確にディープラーニングが得意としている分野だから、研究を進めていきましょう、ということなのです。

さらに、今「小売」という領域を選んだ理由は、Googleが持っていないリアル空間のデータを扱うことが重要だからです。インターネット上ではGoogleやFacebookにはもう勝てません。

GooogleやFacebookは、インターネット上では圧倒的な市場とデータ量を持っている状態です。たとえ、ディープラーニングエンジンで我々の方が、少し精度の高いものを作れたとしても、数の原理で勝つことは難しいです。彼らに勝つためには、リアルの領域をいかに扱うことができるか、という点が重要になってくるのです。

 
-私も、IoTというのは、久しぶりにGoogleではない会社が勝てそうなチャンスが来ていると思っています。例えば、がん検診時のMRIデータなど、日本だけに特別多いデータが眠っている分野は日本企業にも勝ち目が高そうです。

そうですね。日本は小売業も非常に強いです。例えばあるコンビニエンスチェーンのヘッドクオーターは日本です。世界的にみても日本が優秀といわれるような小売の仕組みを、グローバルに展開していければ、ビジネスチャンスは無限大に広がると思っています。

おもてなしを科学する

店舗「買う理由、買わない理由」を人工知能が解き明かす -ABEJA(アベジャ)CEO岡田氏インタビュー
IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-アメリカでは中途半端な日本のおもてなしサービスを取り入れている気がして、何か違和感を感じます。

特に日本でレベルの高い接客を受けている方に関しては、多くの方が感じると思います。

日本人の接客における「間(ま)」や、「トークの内容」などがサイエンスできていければ、革命が起きると思います。デパートのトップセールスマンは億単位で販売しますが、そういう方の「なぜ売れたのか?」というのを科学していくことが大事なのです。

小売業では、エンドユーザーの情報が重要な役割を持っています。メーカーが創るモノが売れていない時代ですが、売れていない場所というのは小売業の店舗の中です。なぜ売れていないのか、逆になぜ売れているのかを科学できれば、メーカーのマーケティングにとっても、かなり有効になります。

 
-今は売れたか売れていないか、売れたあとのユーザーの声などは情報としてキャッチできますが、なぜ売れてないかはわかりませんね。その仕組みはどのようになっているのでしょうか。

全てのデータをつなぎます。まさしくIoTですが、店舗の中にセンサーデバイスを多く設置することで、スタッフやお客様、商品の情報といったあらゆるデータを集めることができます。

かつERP、CRM、POSなど、既存のデータと統合し、ディープラーニングをはじめとした人工知能のエンジンで解析することで、それらの相関関係を導き、未来予測もできるようになる。最終的には、未来予測に基づいて、在庫最適、人事シフト最適、といったアウトプットがWebダッシュボードで見ることができるようになります。

 
-単なる画像解析という次元ではなく、昔でいうビジネスインテリジェンスの仕組みや、来店客を把握する顧客マネージメントのシステム、マーケティングシステムなどを統合したデータを解析するというのは、かなり冒険ですね。

我々はイノベーションで世界を変えるという企業理念を掲げていますので、イノベーションが起こらないことはやらない、と決めています。

リアル空間のあらゆるデータを取得、統合、解析するようなIoTプラットフォームをつくることができている企業は世界に1社もありません。その中で、インストアの領域におけるあらゆるデータを活用して、日本人ならではの接客を科学する。そして、ジャパニーズリテールエクセレントのオペレーションを世界中で回していくことができれば、革命です。

 
-もうすでに導入している企業があるのでしょうか。

多くの企業で導入していただいてますね。百貨店の株式会社三越伊勢丹、レンタルショップの株式会社ゲオ、アパレルの株式会社ジュンなど、国内小売大手企業を中心にご利用頂いています。実際にたった数年の期間で、画像データ以外のデータを10TB以上蓄積しています。

 
-この後の、「人工知能社会」ではどうかわっていくと思われますか?

これからはデータ収集とオペレーションを自動化して、人間はよりクリエイティブな仕事をするということに集約できていければいいなと思っています。

現在は、小売店舗のほか、東急グループのような街をつくる企業とも一緒にやらせていただいています。例えば街中にセンサーを張り巡らせ、交通量に応じてデジタルサイネージを自動化するといったことを検討しています。IoTでモノを置く場所といえば、店舗、家、街の3択だと考えているので、我々は店舗と街をとっていきたいですね。その中で自動運転や、電力自由化の中でエネルギー最適など、幅広い領域に向けて人工知能プラットフォームを応用させていく予定です。

事業をはじめた当初は苦労した

店舗「買う理由、買わない理由」を人工知能が解き明かす -ABEJA(アベジャ)CEO岡田氏インタビュー

 
-目標に対する進捗としては現在どの程度進んでいますか?

けっこういいペースです。事業の将来性やサービスの価値に納得していだける方が多くなってきているので、思ったより早かったという印象ですね。

しかし、創業当初は苦労しました。「機械学習?ディープラーニング?それってなんですか?」という状態でした。そして最近やっと人工知能ブームがやってきて、ようやくうまくいきはじめたといった段階です。

機械学習に取り組まれる会社は多いのですが、ディープラーニングまで手をつける会社は多くありません。その理由は、ディープラーニングには大量のデータが活用できないと取り組むことが困難な領域であるためです。

昔はアルゴリズムで勝てる領域があったのですが、最近では、いわゆる人工知能はGoogleのテンサーフロー(TensorFlow)をはじめとしたライブラリが無償公開されはじめています。そのため、もうアルゴリズム単体で勝つことは非常に難しいです。そうすると、どれだけデータ量とノウハウを持っているかが鍵になります。

 
-それをいちはやく始めたところがすごいと思います。やればいいことはわかっていても、なかなか踏み出せないことが多いです。

最近思うのは、テクノロジーもデータも時が経てば陳腐化しますが、重要なのはその陳腐化を防ぐ努力ができる「ヒト」だと思っています。そういうヒトがいないと今後の企業は難しいのではないかと考えています。

将来的に自動化できるところはどんどん自動化されていきますので、「自動化されない領域をいかに自動化していくか」に取り組んでいくか、「絶対無理」と思われている領域にいかに切り込んでいくかが大事。我々が取り組んでいるディープラーニング、IoT、ビックデータといった領域は、明らかに先行優位性がある領域だと思っています。

 
-そうなると、御社の競合は最終的に大手IT企業などになるのではないでしょうか?

そうなってくるかもしれませんね。テクノロジーベンチャーはイノベーションを起こすかどうかがキーになってきますので、我々を応援してくれる方も非常に多いと感じています。

継続的にディスラプティブ(破壊的技術)が起きそうな分野に関しては、継続的な投資をして、我々が一番先にディスラプティブイノベーションを起こすという流れを作っています。

 

今後は、インダストリー5.0とテクノロジーの掘り起こし

店舗「買う理由、買わない理由」を人工知能が解き明かす -ABEJA(アベジャ)CEO岡田氏インタビュー

 
-最後に、今後アベジャをどうしていきたいか教えてもらえますか?

事業的な側面でいうと、インダストリー5.0をすすめたいと思っています。4.0はあらゆるものがコネクティングされたところがゴールだと感じますが、5.0になるとコネクトされたもの同士が連携し自動でオペレーションが行われる。まさしくオートメーションになると思います。オートメーション化によって生まれた時間の余裕を、人間にしかできないクリエイティブな活動に活かしてもらう、ということは明確にやっていきたいです。

すごくシンプルな話、小売業・飲食業はアルバイトを雇うことが難しくなってきていて、人材不足という課題が顕著になっています。そういった領域で人工知能が不足を補完することで、ヒトの生活が便利になり、新しいライフスタイルがうまれます。

その中で企業として目指していきたいと思っているのは、テクノロジーのタネがたくさんある中で、それらを活用した新しいビジネスを次々と生み出すことに挑戦することです。

世の中にはすばらしいテクノロジーがあるはずなのですが、社会に実用化されずに論文の中で眠っていることが多いのです。それをちゃんと掘り起こして、「このテクノロジーを活用すれば、この産業に対して、こういった破壊的イノベーションが起こせる」ということを伝え、実現していくことが重要だと思っています。

こういうことをやっている企業は「スペースX」や「テスラ」だと思っていまして、彼らは今から宇宙船を打ち上げるというような、驚くようなことを真面目にやっています。今後、中国やインドが急激に経済成長をしたときに、地球上で大気汚染が発生して、住めなくなってしまうのではないかという明確な課題意識に対して、ちゃんとテクノロジーを使って解決していきたいと考えているからです。

彼らは、テクノロジーを生み出して、それをビジネスとしても成立させて、イノベーションを起こし続けています。そしてきっと同様のことは日本でもできると思います。

日本の研究者ネットワークには、とても優秀な方がたくさんいらっしゃいます。彼らとともに、革命的なテクノロジーを作って、プロダクトを生み出して、社会に還元する。そして生み出した利益を再びテクノロジーの研究開発に投資する。このようなエコシステムをつくっていかなければ社会は良くならないと考えています。我々はそこを使命を持ってやっていくことができる企業だと自負しています。


-本日はありがとうございました。

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