今年の秋に控えた、5G通信の実用化。5G通信というと「高速」「低遅延」にばかり注目が集まるが、事業に5Gを取り入れるのには、それだけを知っていればよいということではない。
ネットワーク技術発展の歴史を紐解くと、5G時代にうまくネットワークと付き合うコツが見えてくる。
そこで、今回はシスコシステムズ合同会社・Distinguished Systems Engineerの河野美也氏に、インターネット勃興時代からのネットワーク制御の歴史を皮切りに、ソフトウェア制御が注目される背景と、ネットワーク制御の今後についてお話を伺った。
(聞き手:IoT NEWS代表 小泉耕二)
完全自律分散からソフトウェア制御へ
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉):現在、5Gを見据えてネットワーク制御に注目が集まっています。そこで、ここに至るまでの歴史を、まずは伺いたいと思います。
シスコ 河野美也(以下、河野):システムのアーキテクチャはこれまでも集中と分散を繰り返してきました。ネットワークアーキテクチャにおいても同様です。
インターネットが登場した際には、システムは自律分散(個々のオペレーションを各ネットワークノードで制御しつつ、全体との連携を構築すること)の流れに向かいました。
しかしこのために、ネットワークのオペレータは各ノードにログインし、CLI(Command Line Interface)で各ノードを制御する必要がありました。それで、例えば「開発者がネットワークの動作を少し変更したい、と思っても、思うようにできない」というような事態が出てきたのです。
そのため、「もう少しソフトウェア制御による集中管理を行いたい」という考え方が出て、SDN(Software Defined Network:ネットワークをソフトウェアにより定義することで柔軟性を高めようという技術)を利用しようという議論につながりました。
小泉:インターネットでシステムが分散し過ぎた結果、SDNの話が出てきたのですね。
河野:そうです。ソフトウェアは手元にあるコンピュータをコントロールするので、本来は設計者の意のままに動かしやすいはずです。でもネットワークは自律分散で、ノードに対してCLI制御を行う必要があり、意のままに動かしにくくなっていました。
インターネットのネットワークシステムでは、誰がどういったルーティング・テーブル(ルータに記録される経路情報)を持ち、どういったロジックでデータを送っているかというのが十分に可視化されていませんでした。
そこで、スタンフォードの研究者が、ソフトウェア制御で集中管理をするために、ネットワークのデバイスにあるテーブルをソフトウェアで書く「オープンフロー」という規格を開発しました。
しかし、「オープンフロー」は大規模には普及しませんでした。というのも、インテリジェンスを中央に集め過ぎると、回線が切れたり、知らないデバイスが繋がってきたり、といった不確実性に即時に対応することができないという問題点が発生するため、耐障害性、頑健性の観点から実用的ではなかったからです。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。