ネットワークの仮想化、そして機能分散へ
河野:ネットワーク制御の自律化と同時に進んでいるのが「ネットワークの仮想化」であり、さらに仮想化によって進むのが「機能分散」です。
データプレーン(フレーム転送など単純な処理を担うもの)とコントロールプレーン(経路制御など複雑な計算を担うもの)の分離によるデータプレーンの偏在化、またクラウドRANやバーチャルRANといった無線システムの分離などによって、ワークロードをデータセンターに集中させる必要はなく、「ワークフローをもって機能分散させることが可能」となりました。また、機械学習のためのデータレイクも用途や特性によって偏在させることになるでしょう。
シスコでもかねてよりフォグコンピューティングを提唱していましたが、ようやく現実的になってきたとみています。
ネットワークをデータやアプリケーションの特性に応じて使い分けることができるようになってきた
小泉:どんどん、ハードウェア制御からソフトウェア制御に移っている、ということですね。その場合、企業や学校といったコンシューマーはどういった恩恵を受けられるのでしょうか。
河野:大きく2つあると思います。1つは、エンドポイント同士を繋ぐコネクション中心だったパラダイムが「データ中心」になることです。
これは、例えば自分のデータを保管したいと思ったときに、「データセンター」や「エッジ」、「パブリッククラウド」など、データの特性に合わせて選択肢を選べる、ということを意味します。
2つ目は、プライベートシステムとパブリックシステムが相互に乗り入れ出来るようになってきた点です。今までプライベートシステムはWi-Fiで、パブリックシステムはセルラーといった明確な区別がありましたが、その区別が無くなってきています。
例えばWi-FiはWi-Fi6として進化し、使っている通信方式はセルラーと共通する部分も増えてきました。一方セルラーはインドアLTEやローカル5Gといった公衆サービスではないものも出てきました。
このように、「ネットワークをデータやアプリケーションの特性に応じて使い分けることができるようになってきた」ということが、ソフトウェア制御の恩恵のひとつと言えるのではないでしょうか。
小泉:昨今、テレワークで働く人が増えてきて、例えばカフェなど外部から企業の情報システムにアクセスする必要性が出てきたので、パブリックな環境からでもプライベートのネットワークへ安全に接続しなければいない。
以前であればこんなことは考えられなくて、企業内のネットワークへの外部からのアクセスは特別な人にしか許容されなかった。逆に、企業内からパブリッククラウド上にデータをアップロードするような局面も見受けられます。
ネットワークは今やこういった、複雑な制御が求められているわけですよね。
河野:はい。ユーザがどこにいても、複数のクラウドや企業内システムを一貫性を持って利用できることが重要になります。
一時はパブリッククラウドがあれば十分ではないか、という意見もありましたが、データの特性によってはパブリックなネットワークには上げられないものがあり、パブリックとオンプレミスを合わせるなど、複数の選択肢をもつケースがあります。
その場合、安全性とポリシー一貫性を考慮し、各データを振り分ける必要が出てきますが、そこに大きなチャレンジがありビジネスチャンスがあると思っています。
小泉:そういった振り分けが可能になったこともSDNと仮想化の恩恵ですよね。
河野:そうですね。そして今では抽象化が進んできているので、「どのデータがどこにあるべきか」ということがアプリケーションの特性によって選択できるようになりました。
それを実現するための取り組みとして、マルチクラウド、マルチアクセスにまたがったセキュリティやポリシーの一貫性の構築、企業の一意のIDで公衆WiFiもセルラーもアクセスできるような仕組みづくり、といったことをシスコでは行なっています。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。