トレーサビリティとは、日本語では「追跡可能性」と訳され、ものが生まれてから廃棄(消費)されるまでの全ての工程において追跡をしていくというものだ。
有名なのは仮想通貨で用いられているブロックチェーンという技術ではないだろうか。デジタル上でのお金のやり取りを改竄されないように追跡して、データを残しておくというものだ。
また、食品においてもトレーサビリティの重要性が高まっている。平成30年6月13日に公布された食品衛生法等の一部を改正する法律、「HACCP」に沿った衛生管理に取り組むことが今後義務付けられていくからだ。
「HACCP」とは、食べ物の安全性を確保するため、その工程・加工・流通・消費というすべての段階で衛生的に取り扱うことが必要となり、食品製造行程中に危害防止につながる重要管理点をリアルタイムで監視・記録していくというものだ。
今回は食品のトレーサビリティに着目し、3つの事例から追跡することのメリットについて紹介したい。
生産者の想いをのせる
まずシビラ、仏バルドワーズ県経済開発委員会、電通国際情報サービスの3社共同で行ったワインのトレーサビリティ実証実験の例を挙げる。
[参考記事] ブロックチェーンで消費の未来を変える ースマートファクトリーJapan2019レポート今回全面協力を行ったのは「香月ワイン」という宮崎県綾町にある、小量生産の手造りナチュラルワインを手がけるワイナリーだ。
香月ワインでは、化学肥料、殺虫剤、除草剤を一切使わない完全無農薬でブドウを栽培し、品質の確保をするため収穫、除梗、圧搾、瓶詰は、すべて手作業で行なっている。そして発酵は、ブドウの皮や空気中に存在している野生酵母で行なっている。
こうした生産過程やこだわりは店頭ではなかなか伝わりづらい。特にこの実証実験ではフランスへの輸出をしており、海外での販売ではさらに難しくなる。
価格も一万円前後と決して安くはなく、本来の価値を理解してもらう必要がある。
そこでこの実証実験では土作りから葡萄の作付け、収穫、醸造、加工、出荷、輸送まで、全ての履歴がブロックチェーンに記録された50本の有機ワインが実験のためにフランスに空輸された。
そしてこれは生産者のこだわりの伝受といった面だけでなく、安全面への信頼にもつながる取り組みだといえる。
滅菌のデータを可視化
次に取り上げるのはスイスの食品の検査装置、選別機を作っているBUHLER(ビューラー)という企業の取り組みだ。

これはBUHLERの小麦を滅菌する機械がブロックチェーンと紐付き、滅菌のデータが追跡されるというものだ。機械が持つ高い滅菌技術を確実に示すことのできる手法だ。
先ほどの香月ワインでは人が行なっている作業を追跡していたが、BUHLERでは機械で行われる食品工程を追跡するというものだ。今後人口減少により食品加工などはどんどん機械に置き換えられていくだろう。
機械だけで成り立つ工場の中で、人が食品の安全性を管理していくことは困難であることが予測される。そこでこのようなブロックチェーンなどで追跡を行うことは、食品の安全性を担保するのに有効だといえる。
IoTを使ったトレーサビリティ
上記2つの事例はブロックチェーンを活用したトレーサビリティだったが、ブロックチェーンを用いなくても食品の情報を追跡していくことはできる。
これは北海道古宇郡神恵内村が、富士通、沿海調査エンジニアリングと共に行なったウニ・ナマコの陸上養殖の実証実験だ。
北海道古宇郡神恵内村では、主要特産物のウニ・ナマコの需要がインバウンドや中国への海外輸出などを背景に高まっている。
そこで富士通と沿海調査エンジニアリングは、IoTを活用した高品質なウニ・ナマコの効率的な陸上養殖手法の開発と共に、ウニ・ナマコの陸上養殖におけるIoTを活用した環境制御ノウハウの蓄積を行なっている。
具体的には、養殖するウニ・ナマコの種類や養殖水槽に入れた日付、個体数などのデータを、飼育者がPCやスマートフォンなどのモバイル端末から養殖管理システム上に登録する。養殖水槽に入れた日付ごとにロット管理を行い、給餌や出荷などの作業情報を入力することでデータを蓄積、可視化していく。
また、各種センサーやカメラと養殖管理システムを連携させることで、水の温度や濁度、塩分濃度などの値や養殖場のウニ・ナマコの映像を飼育者がPCやスマートフォンなどのモバイル端末からリアルタイムに確認することができる。
これはどのような環境で育った海産物なのかということを知るためのトレーサビリティ情報としても活用するができる。
今後海上で行う漁や養殖は、気候変動や汚染の問題から海自体が魚を育てるための環境として適さなくなってくると問題視している事業者も多い。
そこで陸上養殖が注目されており、このように全てをセンシング、管理することで安心安全な海産物の生産を行おうという取り組みである。
この実証実験は2019年の4月から2020年3月まで行うとのことで、集まったデータから陸上養殖の有用性を実証できることを期待している。
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