コンビニで使われないデジタル ー渡辺広明氏に聞く、コンビニとデジタル②

我々に取って身近なコンビニ。さまざまなデジタル化を進めるニュースが出てくるが、実際のところ使えるものなのだろうか?という疑問もわく。そこで、特集「コンビニとデジタル」では、マーケティング・流通ジャーナリストの渡辺広明氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。

特集「コンビニとデジタル」は全四回で、今回は第二回目、「コンビニで使われないデジタル」がテーマだ。

渡辺広明氏は、ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザーなどを務めた後、ポーラオルビル・TBCを経て2019年にやらまいかマーケティングを設立。現在は商品開発、営業、マーケティング、顧問、コンサルティング業務などで幅広く活動。フジテレビのニュース番組「FNN Live News α」でレギュラーコメンテーターも務める。

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 2つ目のテーマは「コンビニで使われないデジタル」についてです。コンビニでは使われないデジタルには、どのようなものがあるのでしょうか?

マーケテンィングアナリスト・流通ジャーナリスト 渡辺広明氏(以下、渡辺): キャッシュレスの話(第1回)でも出ていましたが、まず、デジタル機器が地域やチェーンでバラバラなので、とにかく集約してほしいというニーズがあります。

例えば、レジの横にある唐揚げなどのホットスナックは、何時に作って配給したかを記録する必要があり、これまでは紙に書いていました。そして、それはホットスナックごとの端末に記録する必要があるのですが、レジとは連動していません。そうなると、結局使われなくなってしまうわけです。

コンビニで使われないデジタル ー渡辺広明氏に聞く、コンビニとデジタル②
マーケテンィングアナリスト・流通ジャーナリスト 渡辺広明氏

小泉: ホットスナックごとということは、例えば「唐揚げ専用の品質管理システム」というものが存在するということですか?

渡辺: そうです。そのため、現場のスタッフは毎回端末の使い方を覚える必要があります。そうなると、「紙にまとめて書いた方が早い」となってしまうのです。

小泉: 端末で管理するという考えは理解できます。だからこそ、使い勝手をよくすることはできないのでしょうか?

渡辺: 端末が個々の業務ごとに複数存在しているのが現状なのです。だから、まずはひとつに集約してほしいものですね。今は、いくつも端末を置かなくてはならないので、店内の限られたスペースの圧迫にもなっています。顧客が接する売り場は効率的になっているのに、バックルームは未だに非効率なのです。

小泉: 少なくともひとつの仕組みの中に集約できる形にするとよいということですね。

渡辺: そうです。その上で、使い勝手では、スタッフが端末の使い方を覚える必要がないくらい簡単なインターフェイスにしてほしいと思います。

情報が多すぎて把握できない現状

小泉: ほかにもコンビニで使われなそうなデジタルはありますか?

渡辺: 使われないデジタルというよりは、情報が多すぎて把握できていないという課題があります。コンビニでは毎週100品の新商品が出ています。年間にすると実に5000品にもなります。

小泉: 私の感覚では、そんなに多くの新商品が出ている気がしません。

渡辺: 実際は1年間で7割の商品が入れ替わっています。毎週で50~100品の新商品が出ている計算です。それを全て完璧に把握することは不可能です。だから、見るべき情報を絞る必要があり、端末も見やすいインターフェイスの必要があります。しかし、現状では両方ともできていません。

小泉: なぜそこまで頻繁に商品の入れ替えをする必要があるのでしょうか?

渡辺: メーカーは新商品がコンビニに採用されると売り上げが上がります。だから、新商品を売り込んできます。顧客も新商品は目新しいので購買につながり、一時的には売り上げが上がります。しかし、本来は、その店舗が売り上げるべき領域を見極めて、適切な品ぞろえを行って、売り上げを上げることが顧客体験の向上につながるのです。

小泉: 確かに、コンビニにあるだろうと期待して行ったら、売っていなかった経験をしたことがあります。

渡辺: だから、デジタルは必要ないということではありません。情報も端末も種類が多くて煩雑な現状を改善してもらいたいのです。デジタルを活用することで、必要な情報を効率的に打ち出してほしいと思います。

コンビニで使われないデジタル ー渡辺広明氏に聞く、コンビニとデジタル②
左:IoTNEWS代表 小泉耕二 右:マーケテンィングアナリスト・流通ジャーナリスト 渡辺広明氏

今、コンビニに必要な情報とは?

小泉: 例えば、どのような「情報」が出てくるとよいと考えていますか?

渡辺: 究極は「店舗に来店している顧客の属性」と「それに伴った品ぞろえが何か」ということです。これが一番欲しい情報になります。しかし、現状ではオーナーの仕事が多すぎて、品ぞろえを考えるところにまで手が回っていません。だからこそ、データから割り出された結果を提示してくれれば、あとは発注するだけなので楽になります。

小泉: 小売業で、商品の特性をデータ化した「商品DNA」と、顧客の購買データを掛け合わせて分析して、売れている「商品DNA」の商品を並べる試みがあります。そうした「商品DNA」の傾向をメーカーに伝えて作ってもらうということですか?

渡辺: 顧客単位の情報だと細かすぎて分かりづらくなってしまいます。だから、立地程度の範囲で売れている商品を推定し、品ぞろえを提示してほしいと思います。

私も小泉さんも、明日に食べるものを今、決めてはいないですよね。そうした個人の感情に合わせようとすると、さすがに発注が間に合わない。だから、その手前くらいの粒度の情報を見ることができたらよいと思います。

小泉: 小売業ではこれまでも、「エリアマーケティング」という手法を活用して、地域に合わせた商品展開を行っていたと思います。しかし、それではなかなか上手くいかず、さらに細かな顧客一人一人へ向けたマーケティングに注目するようになっていると感じるのですが、どうでしょうか?

渡辺: 私が言っているのは、エリアマーケティングと顧客一人一人へ向けたマーケティングの「間」くらいの粒度の情報です。これを個店レベルで実現できたらと考えています。そのためには、店舗に来店する顧客の特性をしっかりと把握することが重要です。

コンビニで使われないデジタル ー渡辺広明氏に聞く、コンビニとデジタル②
マーケテンィングアナリスト・流通ジャーナリスト 渡辺広明氏

例えば、青山大学に近い店舗と、渋谷駅前の店舗では、同じ渋谷区でも顧客の特性は違うわけです。

これまでは、住宅立地やビジネス立地など、もっと大きなエリアでのマーケティングを行っていました。それを個店ごとに、店舗に来る顧客の特性に合わせた品ぞろえにできればよいのではないかと思っています。

小泉: 個人情報の観点は置くとして、例えば、店頭の入り口にカメラを設置し、通りがかる人や来店した人を捉えて分析すれば、来店している顧客の特性が大まかに分かります。

そして、購買データを全国で共有すれば、ある特性の顧客が買いそうな商品が大まかに分かるので、それを踏まえたものが品そろえの提案リストとなり、提示されるというイメージでしょうか?

渡辺: それが実現できれば、「ある店舗の立地周辺に住んでいる人口と同じくらいの他店舗は、売れる傾向が似ている」というようなことも分かるようになります。つまり、品ぞろえを横展開することができるのです。

小泉: できるはずですよね。

渡辺: できるはずなのですが、商品部などのメインの社員ではない、情報システム部門などの人材がデジタル施策を行っているケースが多く、実業が分かっていないために上手くいかないのです。

実業を完全に把握していなくてもよいのですが、レジ打ちを一度も経験したことのない人材がレジのシステム改善を行っているわけです。3日間でもいいので現場でレジ打ちを実際に経験すれば改善点が分かるのですが、それができていないのです。

コンビニで働く人は必ず現場に行くべき

小泉: なぜやらないのでしょうか?

渡辺: 部至上主義が根付いているからではないでしょうか。私が現場の店長から商品部に移動する際も「商品部に上がる」という言い方をされました。

小泉: それは偉くなるというニュアンスなのですね。

渡辺: 仕事の内容が違うだけで、上下があるわけではないと思うのですが、そうした発想が根底にあるからダメなのではないかと感じます。

現場に行けば、使われていないものや必要なものがすぐに分かります。だから、関係者の人はぜひ現場に行ってほしいですね。その上で「エンドユーザーが快適に利用できるか」「エンドユーザーに楽しんでもらえるか」ということを最終的には考えるべきなのです。

システムや機械を導入するにしても、店の使い勝手がよくなることで、快適な買い物体験につながるのかが一番重要なことです。エンドユーザーの視点に立つことができれば、大体の物事は解決できると思います。そのために、デジタルをうまく活用すればよいと思います。

小泉: 小泉:バックヤードであっても、結局は顧客のために働いているわけですから、顧客が快適に買い物をできるためのバックヤードシステムはどうあるべきなのかを考える必要があります。バックヤード業務が煩雑で顧客に時間が使えないのであれば、デジタルを活用して整理するという発想ですね。

渡辺: 「デジタル活用した上で生まれた時間を接客に当てることが重要だ」という話を前回(第1回)にしましたが、結局はそこに通じているのです。(第3回に続く)

コンビニジャーナリスト 渡辺広明氏氏に聞く、「コンビニとデジタル」
この特集の他の記事はこちらから(全4回、完結)
  1. なぜコンビニにデジタルが必要なのか
  2. コンビニで使われないデジタル
  3. コンビニが先んじてデジタル活用する理由
  4. コンビニとデジタルの未来

この対談の動画はこちら

以下動画の目次 コンビニで使われないデジタル(13:28〜)より

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