我々に取って身近なコンビニ。さまざまなデジタル化を進めるニュースが出てくるが、実際のところ使えるものなのだろうか?という疑問もわく。そこで、特集「コンビニとデジタル」では、マーケティング・流通ジャーナリストの渡辺広明氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。
特集「コンビニとデジタル」は全四回で、今回は第三回目、「コンビニが先んじてデジタル活用する理由」がテーマだ。
渡辺広明氏は、ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザーなどを務めた後、ポーラオルビル・TBCを経て2019年にやらまいかマーケティングを設立。現在は商品開発、営業、マーケティング、顧問、コンサルティング業務などで幅広く活動。フジテレビのニュース番組「FNN Live News α」でレギュラーコメンテーターも務める。
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 3つ目のテーマは、「コンビニが先駆けてデジタル活用している」という点についてです。
例えば、空中ディスプレイや電子決済など、コンビニは先進的な技術を積極的に取り入れています。技術を開発しているメーカーは、コンビニは数が多く、様々な地域に展開しているから活用してほしいという気持ちがあり、コンビニ側もその提案に応じているという印象を受けます。
マーケテンィングアナリスト・流通ジャーナリスト 渡辺広明氏(以下、渡辺): 新商品を毎週100品も入れているように、コンビニ側の発想としては「新しいものを取り入れたい」という想(おも)いがあるのだと思います。また、PRやCSRを目的に導入しているケースもあります。エシカル商品などを早めに導入すればそれだけ話題になります。そうした側面はあるかもしれません。
小泉: コンビニの無人店舗については、アマゾンが「Amazon Go」を始めた際に「日本のコンビニはどうするのか」という文脈の記事をよく見かけました。そうした流れの中で、「試験的に取りあえずやっておこう」と始めた節もあるのではないかと感じています。
渡辺: それはあると思います。昔のコンビニは今ほどメーカーに注目される存在ではありませんでした。だから、自ら考える必要がありました。
しかし、今は組織が大きくなりすぎて、自ら考える力がなくなってきています。優秀なメーカーから様々な提案をしてもらえるので、極論、それをセレクトすればよいという流れが生まれています。
考える力がなくなると、「世の中で話題になっているから」という理由や、「競合がやっているから」といった発想で導入を決めるということが起きてしまうのです。
コンビニがロボット導入で必要な考え
小泉: 組織としては肥大化しすぎてコントロールしきれないのに、店舗を建てれば売れるという成長起点でもないとなってくると、もはや何を工夫すれば勝てるのか分からなくなります。だから、取りあえず目新しいデジタル技術や商品を受け入れて、判断は消費者に委ねるという発想になっているということですよね?
最近ではファミリーマートの一部店舗で、飲料陳列の品出しロボットを導入するというニュースがありましたが、実際にロボットの動きを見てみると有効な手段だとは思えませんでした。それでも導入してみようとなるのは、PRの要素が大きいのでしょうか?
渡辺: 品出しロボットについて、ファミリーマートは発表を控えていたので、もう少し進化すると予測していたのかもしれません。
小泉: 品出しロボットのスピードが遅いという問題については今後、改善されていくとしても、建物自体がロボットにとって働きやすい環境ではないという課題もあると思います。
ロボットというと、人以上に効率が良く問題を解決してくれるという期待を持ちがちですが、経済産業省は「ロボットフレンドリー」というキーワードを打ち出しています。これは、ロボットが働きやすい環境を整えるという考え方です。
分かりやすい例でいうと、お掃除ロボットを買った家では、お掃除ロボットが通りやすいよう、足が長い家具に買い換えるというようなことです。同じように、コンビニでもロボットが働きやすい環境を整えることも必要になってくると思います。
渡辺: それは必要な考え方ですね。実際に品出しロボットの場合も、ロボットを導入できる構造にしていますし、ロボットが並べやすいように商品を置いています。本当はそれ自体も自動になってほしいところではあります(笑)。
また、これまで何かを導入する際、全店導入を前提にしていたのですが、実験的に数種類のロボットを一部の店舗で使ってみて、よいものを実導入するという考え方も必要かもしれません。
小泉: 小売店側がロボットを作るメーカー側に要望を出せるとよいですよね。例えば、幅50センチ以内で稼働するロボットにしてほしいといったことや、電源工事の決まりを伝えるなど、導入しやすい流れが生まれればよいと思います。
渡辺: 現場の要望とロボットを作る側の技術との足並みがそろうのは難しいと思います。ただ、実際にはローソンとファミリーマートにロボットを導入する際、そうした取り決めが行われています。狭い通路で動ける仕様や、顔はいらないなどの取り決めをしたことで大きく進化しました。
でも今や回転ずしの方が、進化が早いかもしれないですね。コンビニだと数万店舗という規模ですが、回転ずしだと数百店舗と身動きが取りやすいのもポイントだと思います。
小泉: 回転ずしは自動で運んでくれるだけでなく、調理ロボットの導入やタッチパネル注文など、自動化が進んでいます。今回は「コンビニを見ているとデジタルの未来が見えてくる」というテーマですが、一概にそうだとは言えない時代かもしれません。
コンビニが本当に解決したいこと
小泉: 4つ目のテーマは、「コンビニが本当に解決したいこと」についてです。コンビニでは労働力不足を解決したいという話があります。そして、労働力不足は自動化によって代替えできるものだと思います。それが本当に解決したいことなのでしょうか?
渡辺: オーナーの視点からいうと、労働力不足は本当に解決してほしいと思っています。なぜなら、オーナーが見ているのは今の忙しさであって、未来を見据えているわけではないからです。
小泉: 確かにオーナーは土日も休みがなく、深夜バイトが休んだら自分が店頭に立つなど大変だと聞きます。
渡辺: 「いつか」は労働力不足を解決するという本部の考え方とは逆に、オーナーは「今すぐ」に解決してほしいと思っています。「売り上げを増やしたい」というのは究極の解決したいことだとは思いますが、目の前の忙しさから取りあえず解放されたいという想(おも)いもあるわけです。
小泉: 売り上げ増については、例えばAI(人工知能)による自動発注が実現できれば、状況が変わるという考えですか?
渡辺: そうです。品ぞろえは重要なポイントです。また、どこに建てるかといった、立地の選定も売り上げに直結します。建てた後に競合店舗が建ってしまうこともありますが、どのような立地であれば売り上げを上げやすいかをAIで予測することができればいいですね。
小泉: よい立地には、大体複数コンビニがありますからね。
渡辺: ローソンの横に土地がある場合、セブン-イレブンのオーナーが出店するのではなく、そのローソンのオーナーに、2店舗目をやってもらう方がよいと思います。フランチャイズなので、全体最適を考えて建てることが大切です。ただ、顧客視点でいえば、多様性がなくなってしまうので難しいところではあります。
小泉: 各チェーンで特徴があるから、その品ぞろえをみたいというニーズもありますよね。一方、本部の視点から解決したいこととは何なのでしょうか?
渡辺: 本部の中でもそれぞれ解決したいことが違うので、多様な施策が広がっているという印象です。目指すべき目標が異なり、一致団結していないと思います。自らの自己実現をコンビニを通して解決しているため、バラバラのサービスが生まれていると感じています。
昔は「お客様のために」「小売業を盛り上げよう」といった、一種の宗教のような団結感があったと思います。それは、創業者の熱い想(おも)いがあるからこそと思うので、代替わりすれば失速してしまいます。小売業は、ロジカルにビジネスをやろうとすると、なかなか成功はしません。だから、商社と小売業はあまり向いていないのです。
小泉: 創業者の特別な想いがあるからこそスタートできるのであって、サラリーマン的な発想になると山が当たらなくなってくるのですね。
渡辺: YouTube(ユーチューブ)やアマゾンも、サービスが浸透するまでは既存の発想ではないものを打ち出していました。それが多くの人に活用されることで、徐々にサービス内容や企業としての在り方を見直しながら規制されていきました。それは、尖(せん)がなくなっていくことを意味します。こうした企業もコンビニも「今まさに伸びている段階」こそが面白いのです。
小泉: 外食産業は海外にも進出できるので、まだまだマーケットとしてのポテンシャルがありますよね?
渡辺: 私が今後、期待しているのは、回転ずしとラーメン、日本酒です。また、日本の野菜も海外で受け入れられると思います。バンコクのドン・キホーテの店頭で焼き芋を販売しているのを見て、もっと広がっていってほしいと思いました(笑)。(第4回に続く)
この対談の動画はこちら
以下動画の目次 コンビニが早くからデジタルを使う理由(25:47〜)より
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