ロボットが生活にも、産業にも入り込んできていて、どんどん身近なものとなってきている。そこで、特集「ロボット最前線」では、ugo COOの羽田卓生氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。
特集「ロボット最前線」は全六回で、第一回目は「ロボット開発とシンギュラリティ」がテーマだ。
羽田卓生氏は、ソフトバンクに入社後、携帯電話の雑誌編集、通信部門でのコンテンツ開発や端末開発を経て、ロボット事業を展開するアスラテックの立ち上げに参画。同社でロボット関連事業に携わり、AI(人工知能)関連やロボットの会社に在籍した後、現在はugoでCOOとして事業開発を担当する。
ugoは、主に、双腕(両腕)を使って様々な作業ができるロボットを開発しており、建物の点検業務や警備業務で利用されている。同社は工場でパーツを運んだり、工程の進捗を確認するロボットの提供も行っている。
アトムはどこまでできた?
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 最初のテーマに入りたいと思います。それは、「アトムはどこまで実現できているのか」という話です。
ロボット好きとしては、ロボットの原点は鉄腕アトムになると思います。でも正直、空を飛んで悪者を倒すロボットは出てきている感じがしません。
2021年に開催された「Society5.0科学博」では、アトム展が開かれ、どこまで実現できるのかを検証していましたが、実際、アトムはどこまでできていると思われていますか?
ugo 羽田卓生氏(以下、羽田): 私の感覚では、1%未満です。全くできてないと思います。まず、地球の重力の中で、自由に空を飛び回るということは実現していません。また、アトムの高度な知性や、人と戦う際に殺さない程度に勝つということはかなり難しい技術です。
小泉: それは力の加減ということですね。卵をつかむロボットを開発している人たちも、強すぎると潰してしまうし、緩いとつかめないので、試行錯誤していると聞いています。卵をつかむだけでも大変なのに、ケンカとなるとかなり難しそうですね。
羽田: そうです。さらに、アトムの最大の魅力は人間よりも崇高な心です。物語の最後では、アトムの姿を見て人間が心を取り戻すシーンが印象的ですが、こうしたアトムの特徴は、まだまだ実現できていないのです。
小泉: そういう意味では確かに全然できてないですね。アトム展では、「もし鉄腕アトムを再現するとしたら、今ある技術のこういうものが使われるのではないか?」という展示が、いろいろとされていたので、実現できている部分もあるのかと思っていました。
シンギュラリティは2050年になっても来ない
羽田: ロボットにおいてのシンギュラリティは、いろいろと考えがあると思いますが、私は完全に否定派です。現状では、ロボットを作るために人が右往左往している状態です。ロボットやAIが人を支配するということは、まだ先なのではないかと思っています。
小泉: 2045年にシンギュラリティが来て、その後、SF映画のような人類を滅ぼすロボットが登場するというシナリオがよく言われていますが、こうした未来は来ないだろうということですか?
羽田: 現状のスピードでいくと、2050年ぐらいではまだ無理だと思います。ただ、予想できないような技術が現れて、進化のスピードが10倍、100倍で進化してくると、あり得る話かもしれません。
小泉: アトムは自律的に動くという、かなり高度な技術を必要としますが、人が操縦するガンダムの実現性はどうですか?
羽田: 「GANDAM FACTORY YOKOHAMA」(横浜市で2020年12月19日~2023年3月31日まで開催)に展示されている「動くガンダム」が今の限界と感じています。
小泉: 「動くガンダム」はどこまで実現しているのですか?
羽田: クレーンにつられているような状態で動いているので、自律はしていません。
小泉: 私は「巨大な人型ロボットに人が乗ったらどうなるか」を検証している本を読んだことがあります。その本によると「人間が走るようにロボットを走らせたら、操縦している人は脳しんとうを起こす」そうです(笑)。
羽田: 私は4mのロボットに実際に乗ったことがありますが、乗り心地がよいものではありませんでした。コックピットは狭くて暑く、揺れるので、現状では人の乗り心地まで考えて設計されていないのです。
「人は人が好き」だからロボット開発に挑む
小泉: それでも、人は夢のあるロボット開発にトライしていますよね。夢のあるロボットを実現させたいという開発者のモチベーションは何だと考えていますか?
羽田: やはり、アニメなどの原体験もあると思いますし、「人は人が好き」という心理に帰着するのではないでしょうか。人は、「人がどうなっているのか」という自分自身について探求したくなるものなのです。それを模した人型ロボットに対して、通常の感情以上の思い入れが湧くのではないでしょうか。
ugoでも、キャラクター性を強めたロボット開発を行っています。例えば、工場の点検で取り扱うロボットにキャラクター設定はいるのかと問われると、合理的に考えれば「必要ない」と言うこともできます。しかし、キャラクター性があるからこそ、工場で働いている人たちにかわいがってもらって、なじむことができるというメリットもあるわけです。
小泉: 「Pepper(ペッパー、ソフトバンクが開発した人型ロボット)」が販売された当初もそうした議論はありました。「頭があって、腕が動く必要があるのか」ということを言う人もいました。しかし、人のような姿や動きをするからこそ、親しみが湧いて仲間意識が芽生えるともいえますよね。
羽田: 人の解明されてない部分として、人を見つけたら反応する「何か」があるのだと思います。人型であることで、ただの機械ではない何かを醸せるのだと思います。
小泉: 1つ目のテーマであるアトムが、どこまでできているかについては、まだ1%未満、ガンダムはつり下げられながら動くのが限界ということで、私のワクワク感は打ち砕かれました(笑)。
羽田: ただ、ロボットがここまで来たのは、すごいことでもあると思います。
小泉: 動くガンダムで実現できていることは、前だと考えられなかったということですか?
羽田: まず、開発には費用もかかる。そして、きっかけもなかったので、誰もやろうと思わなかったのだと思います。しかし、要素技術が少しずつ進化してきたことで、「やれるのではないか」という兆しが見えたからこそ、プロジェクトが始動し、ひとつの形として「動くガンダム」が実現したのではないでしょうか。そして、この動くガンダムを見た次の世代が、また新たなイノベーションを生み出し、徐々に本当のガンダムに近づくのだと思います。
小泉: そういう意味では、まさに「大いなる一歩」を踏み出したわけですね。
羽田: 今、実現している事柄や技術も歴史をたどると、最初は何の意味もないと思われるようなものが生み出されています。例えば、ロケットであれば、ペンシル型の小さなものから始まり、そこから大型のロケット開発にまで発展しました。技術の原点は、当時、評価されていないこともあるのですが、たどると元祖になるものがあるのだと思います。
小泉: 今は原体験をしていて、今後、進化したガンダムが登場したときに、ガンダムの原点の話をすることができるということですね。(第2回に続く)
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