AIoT のパワーを解き放て―― AIとIoTを統合したAIoTを今すぐ導入すべき理由とは?

ロボットの未来 ー羽田卓生氏に聞く、ロボット最前線⑥

企業:

ロボットが生活にも、産業にも入り込んできていて、どんどん身近なものとなってきている。そこで、特集「ロボット最前線」では、ugo COOの羽田卓生氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。

特集「ロボット最前線」は全六回で、今回は最終回、「普及が進むサービスロボット」がテーマだ。

羽田卓生氏は、ソフトバンクに入社後、携帯電話の雑誌編集、通信部門でのコンテンツ開発や端末開発を経て、ロボット事業を展開するアスラテックの立ち上げに参画。同社でロボット関連事業に携わり、AI(人工知能)関連やロボットの会社に在籍した後、現在はugoでCOOとして事業開発を担当する。

ugoは、主に、双腕(両腕)を使って様々な作業ができるロボットを開発しており、建物の点検業務や警備業務で利用されている。同社は工場でパーツを運んだり、工程の進捗を確認するロボットの提供も行っている。

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 5つ目のテーマは、「サービスロボットの最前線」です。「サービスロボット」というのは、レストランやホテルなどの、身近な店で働くロボットのことです。そうしたサービスロボットの最前線はどのような状況なのでしょうか。

羽田卓生氏(以下、羽田): サービスロボットの分野では、「清掃ロボット」と「配膳ロボット」が代表例です。この2つのロボットは、社会で普通に使われているといっていいほど出荷されています。ソフトバンクの発表によると、累計で2万台を出荷しています。(2022年4月時点)実際に街で見かけることも増えたのではないでしょうか。

普及モードに突入した配膳ロボット

小泉: 私も街を歩いているときに、テラス席があるカフェで配膳ロボットが動いているのを見たことがあります。

普及が進むサービスロボット ー羽田卓生氏に聞く、ロボット最前線⑥
ソフトバンクが提供している配膳ロボット「Servi」

羽田: それぐらい、レストランでは普通に導入されていますし、どこのレストランに行っても同じモデルが動いています。要するに、現場ごとにカスタマイズする必要がないのです。ロボットが使えない現場であれば、諦めるか現場を変えるしか選択肢がありません。

だからこそ、出荷台数が一気に伸びているのだと思います。何ができるロボットで、どう使うことで生産性が上がるのかということを利用者は理解しているという状態です。

新たな機能などを誰も求めませんし、仮にあったとしてもソフトバンクは開発しないと決めています。この状態になれば、道具として完全に成立しているといえます。

Pepper(ペッパー、ソフトバンクが開発した人型ロボット)」の時代は様々な要望があり、期待値のコントロールができませんでした。しかし、清掃ロボットや配膳ロボットに会話するなどのコミュニケーション機能を求める人はいないですよね。加えて、お客さんに手渡しできるアーム機能なども開発していません。

小泉: 確かに配膳ロボットとはいうものの、お客さんは自分で取りますね。

普及が進むサービスロボット ー羽田卓生氏に聞く、ロボット最前線⑥
「Servi」が運んできた水を顧客が取っている。

羽田: これは、ある意味。「セルフ化」です。

小泉: そうですね。当初は日本人には受け入れられないのではと思っていたのですが、案外、平気でしたね。

羽田: 配膳ロボットを導入したことで、サービスレベルを低下させているという言い方もできると思います。これまでスタッフがテーブルに運んでいたものを、お客さんが取るわけですから。でもこの程度のことであれば、支障がなかったということです。

ロボットを使う、レストラン側の人たちも、サービスを受ける一般人も、ロボットの性能について認知しているのです。もし、見たことがない人がいたとしても、ほかのお客さんが受け取っているところを見れば、すぐに分かります。この状態は完全に普及モードに突入していると思います。

最初に話した「アトム」や「ガンダム」(第1回)といった人型ロボットは、冗長なのです。しかし、マーケティングして量産して売ると決めたら、余白を切り落としてシングルタスクにしていくことで、何をするロボットか誰もが理解できる状態にしているからこそ、出荷数が伸びているのだと思います。サービスロボットは、ロボットに対するロマンを超えたのです。

小泉: ある意味、期待をしなくなったということですか?

羽田: 正しい認知と正しい使われ方をすることが重要です。つまり、全員の気持ちがそろったということだと思います。

普及が進むサービスロボット ー羽田卓生氏に聞く、ロボット最前線⑥
ugo 羽田卓生氏

小泉: レストランの顧客側の気持ちとしても、サービスクオリティーを上げるために100万円値段が上がるのであれば、最低限やってくれれば、気の利いたことはしなくてよいとなりますよね。

羽田: 普及がさらに進むと、配膳ロボットや清掃ロボットは、「ロボット」と呼ばれなくなります。要するに配膳する道具であって、ロボットという認識はなくなるのです。

小泉: 「ロボット」というのは、あくまでもテクノロジーサイドの総称であって、レストランサイドの言い方ではないですよね。「ウェイターロボ」のような別の言い方になるということですね。

羽田: 「ロボット」という言葉はとても範囲が広い言葉になります。「乗り物」と同じくらい広い言葉です。船も自動車もヘリコプターも飛行機も全部「乗り物」であるのと一緒で、「ロボット」とは、それくらい広い範囲のことを言っているのです。

それが、例えば、「ウェイターロボ」のような新たな固有名詞が出てくれば、産業として成り立っている証拠になります。ですから、製造業の現場でも、確立されている機械はそれぞれに固有名詞がありますよね。

配膳と清掃の次にくるロボットは?

小泉: 確かにそうです。ちなみに、配膳ロボットと清掃ロボットの次にくるサービスロボットは何だと思われますか?

羽田: 次は調理系ロボットがくるのではないかと思います。調理系ロボットも様々なタイプが出始めていますが、いろんなモノを何でも作れるというロボットは登場しないと思います。ですから、特定の調理を行うロボットが出てくるのではないでしょうか。

小泉: すでに、おすしのシャリを握るロボットが登場していますよね。立方体のシャリをロボットが作ってくれて、その上にネタを置いて提供するものです。大手回転ずしチェーンで普通に使われていると聞きます。

普及が進むサービスロボット ー羽田卓生氏に聞く、ロボット最前線⑥
SUZUMOの「Sushi Machine」

羽田: そもそも回転ずしは、レーンを使って自動で運ぶわけですから、ほぼ全てがロボットで運用されています。

小泉: この間、大手回転ずしチェーンに行ったら、タブレット注文に始まり、おすしがレーンで運ばれてくる際も、自分が頼んだものを間違えないように、流れてくる直前にしっかりとアナウンスで知らせてくれました。初めて来た利用者でも、スムーズに利用できる仕組みが整えられていると感じました。

羽田: 回転ずしは、昔は本当におすしを回転させるだけでした。そこからオンデマンドになっているということは、制御技術が上がってきているということです。

小泉: 私はラーメンの湯切りロボットが実現してほしいです。湯切りが下手な人が作ったラーメンは正直、おいしくないです(笑)。出汁(だし)はセントラルキッチンで作られたものを温めるだけですが、湯切りが下手だと出汁の味が変わってしまいます。

羽田: それは重要なポイントです。ラーメンの達人が作るものにロボットが勝つことは難しいかもしれませんが、下手な湯切りよりはおいしいものを提供できるとは思います。

ロボットが行うことのメリットは、ムラなく安定的に作業を行うことができる点です。チェーン店としては、人の作業によってバラついてしまう作業は、ロボット化したいと考えていると思います。利用者も、この店にくれば安定した味を提供してくれるという安心感を得ることができます。つまり、ロボットを導入することでブランドを生み出すことも可能だということです。

普及が進むサービスロボット ー羽田卓生氏に聞く、ロボット最前線⑥
左:IoTNEWS代表 小泉耕二 右:ugo 羽田卓生氏

小泉: ほかにも、次にきそうなサービスロボットはありますか?

羽田: 点検・見廻り系のロボットもくると思います。AIの進化と組み合わさることで、大きな可能性があると思っています。あとは、屋外や公道でモノを運ぶロボットも注目ですね。

小泉: 「ラストワンマイル問題」ですね。

羽田: そうです。大きな社会問題でもあるので、法律の改正も始められています。

小泉: ECが流行り、配達するものが増えたので、トラックから配送先までの間をロボットに任せようという発想ですよね。

羽田: 2022年4月に道路交通法が改正され、電動キックボードの利用を緩和させる改正案が可決されたのですが、同時に、公道を走る電動小型モビリティーやロボットも認められました。ルールが変わり、技術も変わり、社会状況も変わっているので、これも間違いなく来ると思っています。

ロボットの未来はどうなる?

小泉: 最後は「ロボットの未来」についてです。羽田さんは、ロボットの未来はどうなると思いますか?

羽田: どうなるかは分からないです(笑)。だから、みなさんで作ればいいのではないでしょうか。ただし、作るといっても、「根っこ」から作る必要があると思っています。

小泉: 「根っこ」とはどういうことですか?

羽田:例えば、今、横浜の「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」(横浜市で2020年12月19日~2023年3月31日まで開催)で、ガンダムが動いていますが、原作者の富野由悠季監督は、ガンダムを40年ほど前に小説を書いてアニメ化しています。そして、40年経って実際に動きました。しかし、今までの40年間と、これから40年間は技術の進化スピードは同じではないですよね。加速していきます。

もしも、スピードが倍になったら、20年。それが5倍になれば、たった8年で実現するという世界観です。ロボット開発者を含めた未来を考える人たちは、小説を書き、それを自分で実現し、また世の中を変えてまた小説を書くというサイクルを、何周もできる時代がきたわけです。

ですから、「未来はない。だから自分たちで作る。」ということを伝えたいですね。さらに、開発したロボットを、どう使ってほしいのか、どういう社会を作っていきたいのかというところまで文章にして、小説にしてほしいと思います。

小泉: そうですね。小説ではないですが、トヨタが「Woven City(ウーブン・シティ)」という近未来型の街を作ることを発表し、イメージ動画を作成しています。

普及が進むサービスロボット ー羽田卓生氏に聞く、ロボット最前線⑥
トヨタが打ち出したWoven Cityのイメージ。家の中にもあらゆるロボットが共存している。

今までは近未来的な都市というと、空中に車が飛んでいるようなSFの小説やアニメのイメージを持ちがちでしたが、現実離れしているという印象でした。しかし、Woven Cityの映像を見ると、今の技術でできそうな街が描かれています。

ただ、街自体の捉え方が違うと感じます。配送や移動が自動化され、ロボットが街や家、地下などの随所に置かれていて、それぞれの目的に合ったロボットが、それぞれの役割を果たしています。

羽田: こうしたコンセプトを打ち出すからこそ、関連する要素技術を持っている人や、賛同者が集まってくるのだと思います。

イーロン・マスクも「Tesla Bot」というヒューマノイドロボットを発表しています。

普及が進むサービスロボット ー羽田卓生氏に聞く、ロボット最前線⑥
2021年の「Tesla AI Day」で登場した、「Tesla Bot」

ただ、2021年時点での発表時は、明らかに着ぐるみの人を登場させていました(笑)。しかし、恥ずかしげもなく着ぐるみを発表するイーロン・マスクだからこそ、賛同があり、人が集まり、技術が集まってくるので、それが実現化されていくのだと思います。

小泉: イーロン・マスクは、成功体験がありますよね。コンセプトを打ち出して、人や資金がこれまでも集まってきています。そういう意味では、実現させたいロボット像をイメージし、それに対する小説を書くことで、具現化できる時代が来ているということですね。

羽田: 大きな共感を得ることができれば、具現化されていくと思います。

小泉: 動くガンダムも、きっかけとなる「動かしたい」という情熱を持った人がいて、詳細に動かせるイメージや技術を提示し、それに賛同する人や、サポートする人がいたから実現したのでしょう。

ロボット開発は、ロボットエンジニアの人たちが独占的にやる時代じゃないということですね。インターネット黎明(れいめい)期のときに、ホームページを作った人たちが現れた時代と似ていますね。

インターネットを活用したビヴィジョンを描く人はたくさんいましたが、案外技術が追いついていないために、挫(くじ)けていく人がたくさんいました。しかし、時間がたつにつれて要素技術自体が高まり、当時、夢だと言われていたことが、今となっては組み合わせる程度で実現することができるようになりました。

歴史は繰り返すという意味では、ロボットの未来はもっと民生化されて、我々でも描けるのではないかという気がしてきました。また、羽田さんの話で、ロボットが身近に感じられ、これから先に描けるロボット像も大きく変わりました。今回は貴重なお話をありがとうございました。(終わり)

この対談の動画はこちら

以下動画の目次 5)お店やホテルなどで働くサービスロボット(57:56〜)より

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