ロボットが生活にも、産業にも入り込んできていて、どんどん身近なものとなってきている。そこで、特集「ロボット最前線」では、ugo COOの羽田卓生氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。
特集「ロボット最前線」は全六回で、今回は第五回目、「物流ロボットの今」がテーマだ。
羽田卓生氏は、ソフトバンクに入社後、携帯電話の雑誌編集、通信部門でのコンテンツ開発や端末開発を経て、ロボット事業を展開するアスラテックの立ち上げに参画。同社でロボット関連事業に携わり、AI(人工知能)関連やロボットの会社に在籍した後、現在はugoでCOOとして事業開発を担当する。
ugoは、主に、双腕(両腕)を使って様々な作業ができるロボットを開発しており、建物の点検業務や警備業務で利用されている。同社は工場でパーツを運んだり、工程の進捗を確認するロボットの提供も行っている。
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 4つ目のテーマは、「物流で働くロボット」の最前線です。物流も、倉庫内の機械やトラックなど、様々な道具を活用していますが、物流現場ではどのようなロボットが現在、動いているのでしょうか?
羽田卓生氏(以下、羽田): 私の考えでは、倉庫のロボットはバリエーションが出つくしたのではないかと思っています。それぞれのケースに対するメソッドは決まってきています・今回は、その全てを紹介します。
新設・大規模倉庫 AutoStoreのコンテナ搬送ロボット
羽田: 1つ目は、ノルウェーのAutoStore(オートストア)のロボットです。
倉庫は通常、収容量を上げるために、高い場所にもモノを積んでいきます。しかし、置き場所が上になればなるほど、置くのも取り出すのも大変です。

そこで、AutoStoreのロボットは、格子状に組み上げられたグリッド内に、「ビン」と呼ばれる専用コンテナ(トート)を隙間なく格納し、そのグリッドの上をロボットが縦横無尽に走行してビンを回収し、作業者が待つポートまで、ビンを搬送します。
小泉: 荷物自体は密集した箱の中に入っているわけですね。
羽田: そうです。ですから、コンテナに収まるものであれば、ロボットが回収して人に渡すことができます。人はポートから必要なコンテナを指定するだけで、ロボットがコンテナを運んできてくれます。そして、そのコンテナの中から、必要なものをピックアップするという仕組みです。

小泉: 細々した商品が、たくさんあるような倉庫にはよさそうですね。
羽田: AutoStoreのロボットは、大規模で新築倉庫向けのソリューションです。既存の倉庫に導入するものではなく、一から倉庫を設計するため、一番コストがかかる事例です。だから、コンビニのバックヤードで使いたいとなっても、その程度の規模だと全体の生産性が合いません。大規模な倉庫だからこそ意味があるソリューションになります。
既存の大規模倉庫 アマゾン「Goods To Person」
羽田: 2つ目の事例は、アマゾンの倉庫で導入されているロボットです。これは、ピックアップする人のところにロボットがモノを運ぶ「Goods To Person」と呼ばれているものです。

これも1台や2台導入しても生産性が合わないので、大規模に導入するからこそ意義があるソリューションになります。また、導入する倉庫は、床面が完璧にフラットである必要があったり、様々な箇所にマーカーをつけなければならなかったりと、それなりに制限があります。

小泉: これはロボットが棚を自分で持ち上げて運ぶというものですよね。そうなると確かに、デコボコした床面だと倒れてしまうから、平らである必要がありますね。

羽田: そうです。他の特徴としては、売れ筋を把握して、売れている商品の棚は手前に戻るという機能があります。アマゾンなどのECでは、売れ筋が動的に変わります。突然、売れたり、売れなくなったりするので、そうした売れ筋を把握しながら、最適な配置に戻ります。こうすることで、最短時間で運べるため、全体の効率を上げることが可能になるわけです。
小泉: 場所が固定していない、動く棚であるからこそのメリットを最大限に生かしているわけですね。
羽田: 倉庫ではかなりの台数のロボットが動いています。ただ、アマゾンなどの大規模倉庫だからこそ活躍できるロボットで制限はありますが、AutoStoreのように一から倉庫を新設しなければならないわけでもありません。これが「既存の大規模倉庫」に活用されている事例になります。
既存の中小倉庫 Rapyuta Roboticsのロボット
羽田: 3つ目が、既存の倉庫でも自動化したいというニーズに応えた、日本のRapyuta Robotics(ラピュタロボティクス)の事例です。これは、基本的には人がピッキングに行きます。そして人がピッキングした荷物を、ロボットが運ぶというものです。

人に対して、2台以上のロボットが割り当てられていて、次にどれをピックアップするかをロボットのモニターから人に対して指示が出るようになっています。

つまり、人が歩く距離が最短になるように設計されているのです。そして、最短で人がピックアップしに行った先には、もう1台のロボットが先回りしているので、そのロボットにピッキングしたものを乗せます。ロボットが走行する距離や時間は長いですが、人は比較的に短い歩行距離だけで済むので生産性が上がるという考え方です。

小泉: 1台のロボットがずっとついてくるわけではなく、倉庫内に散らばっている複数のロボットが、人のピッキングに合わせて移動しながら、一番効率的な状態で荷物を梱包(こんぽう)するところに持っていくわけですね。
羽田: Rapyuta Roboticsの導入現場の床面や棚を見たのですが、ロボットのために床をフラットにしたり、棚を入れ替えたりといったことは全くされていませんでした。つまり、既存の倉庫にロボットを導入するだけで効率化することができるのです。
小泉: そうした場合には、タイヤが付いているクローラー型のロボットはよさそうですね。
羽田: もしこれが、高速に動くのであれば床面はフラットでなければいけません。しかし、人の動きに合わせて移動するため、そこまで高速に動く必要がないのです。
小泉: 高速に移動しようとするから、専用レーンや床面がフラットである必要性が生まれるわけですね。
羽田: これが、3つ目の、既存の倉庫で使える中小倉庫の事例です。ある程度台数を入れないと生産性が合いませんが、アマゾンの例ほどの台数を導入する必要はないので、導入コストを抑えることができます。
ピッキングの自動化 Boston Dynamics
羽田: 4つ目は、アメリカのBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の事例です。タイヤが付いているロボットが、自分でピックアップを行って運ぶというものです。

小泉: ピッキング自体はどのようにして持ち上げているのですか?
羽田: サッキング(吸引)して持ち上げています。これは初期型は年間出荷分が一瞬のうちに予約で埋まったという、大人気のロボットです。これまで紹介した3つのロボットは、ロボットがピッキングをするものではありませんでした。基本的には荷物を運んでいるだけです。
しかし、Boston Dynamicsでは、「ピッキングするロボット」というアプローチを取っており、これにならってピッキングを行うロボットを開発するメーカーも出始めています。今後、物流ロボットの新たなパターンになるのではと期待しています。
小泉: こうしたタイプのロボットだと、「Mujin」という、物流センターなどで使われるロボットを作っている日本の会社がありますよね。
羽田: Mujinのロボットは、Boston Dynamicsのロボットのように移動はしません。そして、日本は荷物に傷をつけてはいけないという文化があるため、優しく荷物のピッキングを行うことができる仕様になっています。

小泉: ピッキングする際のつかむ場所にもこだっわているという話を聞いたことがあります。
羽田: 以前はロボットにピッキングは難しいと思われていましたが、発想が少しずつ変わり始めてきていると感じます。2022国際ロボット展に出店していた、オカムラは、双腕のロボットに、AIと人の遠隔操縦でピッキングさせるようなアプローチを発表していました。

人がピッキングする前提でのソリューションは出つくして、バリエーションがそろいました。ここから先は、倉庫で人のピッキングを自動化するソリューションが生まれていくと考えています。
今、無人化のソリューションが出始めてきたので、何年か試行錯誤が続いた後、いくつかのバリエーションが出そろったら、倉庫向けの自動化ツールは大体そろうと思います。
物流ロボット導入のメリット
小泉: 4つの事例に加えて、例えば、お箸が持てるロボットや、パソコン1台だけ持てるといった、様々な荷姿のモノを持てるロボットが出てくるということですね。そして、それらが、さらに進化していくことで、4つのパターンもさらに進化する可能性がありますよね。
羽田: 今後、ピッキングがさらに進化していけば、どれかが、もしかしたら過去のものになる可能性もあります。
小泉: 確かにロボットが進化することで、既存の倉庫のままで使える可能性もあります。将来、倉庫の無人化が実現できた際のメリットを考えてみたのですが、倉庫についている電気はまず必要なくなりますよね。
今は人が動く前提なので、電気がついて明るくないと作業できないですが、ロボットであれば、暗くても作業できる仕様にできそうです。
現状では効率を上げようとすると、24時間、電気をつける必要があり、物流倉庫の電気代はそれだけでも膨大なコストがかかります。だから、電気をつけなくていいというだけでも、大きなメリットになるという話を聞いたことがあります。同じように人のための空調も、荷物側に問題がなければ、気にする必要がなくなります。
物流倉庫というと、物流センターを思い浮かべますが、製造業でも自社で倉庫を保有しているケースも多いので、そうしたシーンでもロボットを活用できますよね。そう考えると、物流ロボットの進化は、産業に変革を与えるかもしれません。

羽田: 物流ロボットの進化は、この数年で一気に進んでいる感じがします。「倉庫」という規格に、そこまでバリエーションがあるわけではないので、分かりやすいのだと思います。生の野菜をつかむとかではなく、ある程度梱包されているものを運ぶという、規格やルールがあるからこそ、ロボット導入が進んだ印象です。
コンビニの品出しロボットの高度化は難しい
小泉: 個人的には、もう少しロボットが柔軟になってほしいと思っています。先日もちょうど、コンビニのロボットの話をしていた際に、そうした話題になりました。コンビニの現場でも人材不足は深刻で、なるべくスタッフをレジ周りの仕事に集中させたいが、どうしても商品を陳列する品出し作業が発生してしいます。
さらに、お弁当やおにぎりは鮮度が大事なので、1日に3回ほど納品されます。納品された商品を一度バックヤードに片付けるなど、レジ以外の業務も多いのが実情です。そこで、「品出しロボットが高度化してほしい」という要望を聞きました。
羽田: コンビニ向けのソリューションは正直、難しいですね。あれだけの小スペースに、多種多様な品ぞろえをしているというのは、コンビニ自体がロボットのような存在だと思います(笑)。
また、モノをハンドリングするには、世界的に規格されているものから進んでいきます。一番大きな単位は船などに積むコンテナです。コンテナ自体は規格が決まっており、コンテナを運ぶクレーンも世界基準の決まりがあるので、ルールがはっきりしていて自動化しやすいのです。
そのコンテナから小さくなればなるほど、ルールが増えていきます。コンビニだと製品単位かつ、飲み物、食べ物、雑貨、本などバリエーションも多数で、一番難しい分野だといえます。

小泉: ジュースをつかむアームとおにぎりをつかむアームでは、圧力を変える必要がありますし、形状も全然違いますよね。
羽田: そう考えると、人の手は本当よくできていると思います。折り紙を折ることもでき、バットを振り回すこともできる。2つの極端な作業が同じ手できるというのは、すごいことです。
小泉: 確かに人間の自由度はすごいですね。そうなると、やはりコンビニの品出しロボットでもロボットフレンドリーの考え方が大切になってきそうです。(第6回に続く)
この対談の動画はこちら
以下動画の目次 4)物流業で働くロボット(41:57〜)より
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