DXで儲けるための4つの視点 ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方③

企業:

DXという言葉を聞かない日はないが、実際、DXをして儲けた企業があるのだろうか?という疑問を持つ人は多い。その疑問に応えるべく、特集「デジタル時代のあたらしい儲け方」では、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。

特集「デジタル時代のあたらしい儲け方」は全八回で、今回は第三回目、「非デジタル企業のDX」がテーマだ。

小野塚氏は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て、現在、ローランド・ベルガーでパートナーを務める。2022年5月19日には「DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略」を上梓した。

ローランド・ベルガーは、戦略系のコンサルティング会社。企業の中期経営計画の策定、企業の買収、リストラなど、企業が経営戦略でな大きな意思決定を行う際のサポートを行っている。

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 前回の話(第二回)で、板金加工などの非デジタル企業の人たちが持つ「デジタルは我々には関係ない」という問題は解決できましたが、次の疑問も出てきます。

例えば、板金加工事業者であれば、ずっと板金加工し続けなければならず、よく分からないネットビジネスをやっている事業者が儲かる。

つまり、グーグルや、メタ(旧フェイスブック)といったプラットフォーマーが儲かり、自分たちは牛耳られてしまうのではないかという質問をしてくる人がいます。これについてはどう思いますか?

ローランド・ベルガー 小野塚征志氏(以下、小野塚): 先に話した「Caddi」や「Fictiv」(第二回)が、そうしたプラットフォーマーになるかどうかは別にして、確かに胴元が儲かる仕組みになっているのは事実です。例えば、YouTube(ユーチューブ)であれば、YouTuber(ユーチューバー)以上に、グーグルが儲かる仕組みになっています。

そして、その胴元になる企業は、残念ながら、現在はほとんどがアメリカの会社です。私は、次のDX時代には、日本からも胴元となる企業が、ぜひ生まれてほしいと思っています。CaddiやFictivもそうですが、そうした会社がどんどん世界に羽ばたいてもらいたいというのが、まずひとつの願いです。

プラットフォーム活用が儲けのチャンスにつながる

小野塚: また、胴元以外は儲からないかというと、YouTubeでは、YouTuberも儲かっています。だから、板金加工で、すばらしい性能や技術があっても、営業が上手くいかないために仕事がもらえていなかった会社は、プラットフォームを活用することで、収入が増える可能性がある。本業をきっちりとやれば、むしろ儲かるかもしれないチャンスなのです。

儲けるための4つの視点 ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方③
左:IoTNEWS代表 小泉耕二 右:ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

小泉: 見つけてもらえるチャンスが増えることを、もっと肯定的に捉えなきゃいけないわけですね。

小野塚: チャンスとピンチは裏腹ですが、本当に頑張っている人がもしかしたら報われる社会になるかもしれないということです。

小泉: 特に最近は、異業種の技術を使いたいケースもあると思います。例えば、車の部品を作っているメーカーの技術を活用して、ロケットの部品を作ってほしいというケースです。ロケットは一品ものなので、1つ作ったらすごい金額がやりとりされます。車の部品だと、下請けで買いたたかれてしまうのに、ロケットになるとなぜか高額で取り引きされます。

ロケットを作っている事業者は、技術を持っている人を求めているが、普通は知り合うことができません。そこで、今までは誰かに「いい人を知りませんか?」と紹介してもらうしかありませんでした。しかし、プラットフォームサービスを使えば見つけられる可能性が出てくるということですよね。

小野塚: その通りです。そこで重要になってくるのは、「本当の意味の価値を出しているかどうか」とういうことです。過去の関係だけで、何となく儲けていた会社の場合、製造技術や開発技術を比較されてしまうので、真の実力が見える化されてしまうという言い方もできると思います。

小泉: デジタルトランスフォーメーション時代では、自分の会社だけを何かトランスフォームするのではなく、業界全体がトランスフォームするかもしれない。そして、そこにはピンチとチャンスが両面裏腹で存在するわけですね。

新しい儲け方の4つの視点

小泉: こうしたエキサイティングな話が、小野塚さんの本では「場を創造する」「非効率を解消する」「需給を拡大する」「収益機会を拡張する」という4つの項目に分類されています。

新しい儲け方の4つの視点

それぞれの項目について例を出して教えてもらえますか?

小野塚: まず、この4つの切り分けの大前提についてお話しします。本の中では、DX時代のビジネスモデルとして、80個の未来のビジネスモデルを紹介しています。

これは、逆に言えば、「今までのビジネスモデルは何だったのか」という前提に立っています。前提となる今までのビジネスモデルとは、モノを作って売ったり、サービスを作って提供したりすることです。

もちろん、このビジネスモデルも、これまで通り大切です。例えば、板金という仕事がこれまでのように大事なことには変わりません。しかし、それに加えて、項目のひとつである「場を創造する」ということが大切なのです。この例は、先ほど挙げたYouTubeが典型です。

YouTubeができたことで、YouTuberという人が生まれ、YouTubeを見るという機会が生まれました。そして、それに伴って、モノやサービスのやりとりをする場が増えました。これが1つ目の「場を創造する」ということなのです。

2つ目の「非効率を解消する」で、分かりやすい例は、アマゾンです。今までは百貨店やスーパーといった物理的な店舗に行かなければモノが買えませんでしたが、アマゾンの登場で、インターネット注文すれば、家まで届けてくれるため、どこでもモノを買うことができるようになりました。

3つ目の「需給を拡大する」の事例となるのは「Airbnb(エアビーアンドビー)」といった民泊です。今までは家を開けている期間があっても、そのままにしておくしかありませんでした。しかし、Airbnbを使って、その期間だけ民泊を行うことができれば、空いているスペースの提供ができて、新しい需要が生まれます。

小泉: 宿泊者も今まではホテルに泊まるしか選択肢がありませんでした。

小野塚: そうです。そして、それは部屋が空(あ)いている側もそうでした。例えば、3年間は家を空けるという長期間の不在であれば借家にする手がありました。しかし、夏だけ空いているという短期間の空き家はどうにもならなかったわけです。民泊はその課題を解決し需要も作りました。これが、3つ目の「需給を拡大する」ということです。

DXで儲けるための4つの視点 ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方③
ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

4つ目の「収益機会を拡張する」は、モノやサービスを売った際に取れる情報を活用し、さらに収益機会を拡張するということです。

2022年の5月からJR東日本で始まった、「駅カルテ」というサービスがあります。これは、交通系ICカードの「Suica(スイカ)」に蓄積された乗降情報を匿名化しデータとして提供します。

例えば、鎌倉に観光に来た人は、同じ関東でも東京から来る人が多く、埼玉からはあまり来ていないということが分かったとします。その場合、埼玉を中心に広告を出すという施策を打つことができます。このように、「Suica」という鉄道サービスを提供する中で生まれた情報を売ることができるのです。

今までは、モノやサービスを売るという、比較的一直線のビジネスだったわけですが、その周辺に、実は新しい儲かる機会が4つもあるというのが4項目のコンセプトになっているのです。

小泉: なるほど。単純に何かを作って売るというビジネスは依然として残るため、作る過程をデジタル化して、効率的に安くしたり品質をよくしたりという方向性が1つある。

しかし、この本ではそうした方向性ではなく、今まで行ってきたビジネスの発想を少し変えることで、実はチャンスが4つもあることを伝えているわけですね。この本の楽しみ方がだんだんと分かってきました。(第4回に続く)

この対談の動画はこちら

以下動画の目次 巨大プラットフォーマーに牛耳られないか?(14:36〜)より

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