DXの主軸は「トランスフォーメーション」 ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方⑦

企業:

DXという言葉を聞かない日はないが、実際、DXをして儲けた企業があるのだろうか?という疑問を持つ人は多い。その疑問に応えるべく、特集「デジタル時代のあたらしい儲け方」では、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。

特集「デジタル時代のあたらしい儲け方」は全八回で、今回は第七回目、DXで儲けるための4つの視点の三つ目の視点である、「需要と供給を拡大する」がテーマだ。

小野塚氏は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て、現在、ローランド・ベルガーでパートナーを務める。2022年5月19日には「DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略」を上梓した。

ローランド・ベルガーは、戦略系のコンサルティング会社。企業の中期経営計画の策定、企業の買収、リストラなど、企業が経営戦略でな大きな意思決定を行う際のサポートを行っている。

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 「需要と供給を拡大する」では、ほかにどんな事例があるのでしょうか?

ローランド・ベルガー 小野塚征志氏(以下、小野塚): これまで紹介したakippa(第6回)や民泊(第3回)の事例は、「空いているものを貸せばよい」という発想でした。一方で、本の中では違う切り口での需要の拡大にも触れています。

服のサブスク「airCloset」、ブランドバッグシェアの「Laxus」

それが、「airCloset(エアークローゼット)」という、服のレンタルを行っている会社です。airClosetは、服のサブスクリプションサービスです。サービスでは、服がまず3着送られてきます。その3着を着てみて好みではないと思ったら、返却すれば、airClosetから次の洋服が送られてくるのです。

需要と供給を拡大する(2) ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方⑦
airclosetのサービス概要図

小泉: 服は月に3着と決まっているのですか?

小野塚: プランによりますが、基本は3着が送られてきて、その3着を返したらまた次の洋服が送られてくるという仕組みです。服は買い取ることもできます。だから、airClosetは、いろいろな洋服を借りるというコンセプトのサービスになります。

小泉: 3着を上限として、いろいろ試しながら自分の好きなものを模索して、すごく気に入ったら買ってもいいし、嫌だったら返して次の洋服を楽しむというサービスなのですね。

小野塚: 同じようなサービスで、「Laxus(ラクサス)」という、ブランドバッグを借りることができるシェアサービスを展開する会社もあります。

洋服をレンタルしているairClosetと、ブランドバックをレンタルしているLaxus。この2つを取り上げたのは、同じようなビジネスをしているようで、全く異なる発想でビジネスモデルを構築しているからです。

需要と供給を拡大する(2) ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方⑦
左:IoTNEWS代表 小泉耕二 右:ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

airclosetとLuxas、それぞれの儲け方

小野塚: まず、airclosetは、利用者が服を選ぶことはできません。自分の体型や好みの情報を登録することで、プロのスタイリストがセレクトした洋服が送られてくることになっています。

小泉: それは、逆に言えば服に出会えるということになりますよね。

小野塚: そうです。airclosetの最大の価値は、自分ではない人が選んだ服に出会えるという点にあります。自分では選ばないような服を偶然、着ることができる。着た結果、服といい出会いができる可能性もあるわけです。

小泉: 私は似たような服を買ってしまいがちです。好みが偏りすぎていて、持っているのに同じようなのを買ってしまいます(笑)。

小野塚: そうであれば、airclosetを活用すれば、世界を広げてくれます。

需要と供給を拡大する(2) ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方⑦
ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

小泉: よいサービスですね。確かに需要を喚起されました。

小野塚: airclosetでは、出会いたいという人が利用するケースと逆のケースもあります。

逆のケースは、そもそも自分で服を選ぶのが面倒くさい人です。たくさんのブランドや服があって、いろんなところを見て、比較検討するのは大変と思う人、毎日同じ服を着ていると思われるのは嫌だけど、選んで買うのは面倒だという人です。

こうした人たちは結構います。それがairclosetを使えば、選んでくれた新しい服を送ってくれます。その人たちには、これも「出会い」という価値になるのです。

一方、Laxusは、ブランドバッグを自分で選ぶ仕組みです。

また、airclosetは彼らが自分たちで買ってきた服を在庫を持って提供しています。しかし、Laxusは、自社で保有しているものもありますが、半分ぐらいは「余っているバッグを貸したい」という人が預けているバッグを貸し出しているのです。

需要と供給を拡大する(2) ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方⑦
Laxusのサービス概要図

小泉: 前に話した「akippa」(第6回)のような感じなってきましたね。

小野塚: Laxusの場合はそうです。最近では、Laxusで儲けるためにバッグを買う人が出てきているという状況にもなっています。Laxusではバッグのマッチングを行い、提供者は回転率が上がると稼働に応じた収入を得ることができるのです。

では、なぜ、airclosetは洋服で同じことをやらないのでしょうか。airclosetだけではなく、洋服でLaxusのようなビジネスモデルを構築している会社はほとんどありません。それは、服は種類が多すぎるし、サイズもいろいろとあるからです。

バッグは、大柄な人と小柄な人でサイズが変わることは基本的にはありません。しかし、服の場合は、バリエーションが無限にあるわけです。それに対応して在庫で持てば、ビジネスモデルとしては崩壊します。だから「出会い」を価値にして提供しているのです。

ところが、バッグの場合は、人気のあるバッグは決まっているし、それほど種類はありません。だから、ある意味、「金融資産」として回すことができるのです。

airclosetとLaxusは、どちらも同じくアパレルのシェアリングサービスであり、マッチングサービスであり、サブスクサービスです。しかし、扱っている商材が異なるため、ビジネスモデルの発想が全く違うわけです。こうした発想をどう見つけるかが重要なのです。

需要と供給を拡大する(2) ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方⑦
左:IoTNEWS代表 小泉耕二 右:ローランド・ベルガー 小野塚征志氏

ビジネスモデルを見つける視点の鍛え方

小泉: それを見つける視点は、どのように鍛えたらいいのでしょうか?

小野塚: まずは本を読んでいただきたいのですが(笑)、身近なところにいろんな発見があるはずです。

例えば「服を選ぶのは正直、面倒くさい。でも、同じ服しか持っていないと思われたくない」というニーズがあって、服を貸してくれたら便利だなと気づくことができれば、ビジネスにもしかしたらつながるかもしれないという考え方です。

小泉: 私もそこまではイメージが思いつきますが、そこからジャンプして、「重要なのは出会いだ」というところに発想を持って行けるところがすごいと思います。

小野塚: airclosetもLuxasも、いろいろな可能性を模索したのだと思います。「選べた方がいいのか」「選んで送った方がいいのか」で、どちらの方が可能性があるのかということを棚卸しした上で、どれが勝てそうで、在庫のリスクを負わないのかといったことを、様々にトライした結果だと思います。

小泉: アパレルブランドは、1つの会社が10も20もブランドを持っています。そうした、いろいろなブランドを保有する企業は、「組み合わせてマッチした洋服を送ります」というサービスをやってもよいということですよね?

需要と供給を拡大する(2) ー小野塚征志氏に聞く、デジタル時代の新しい儲け方⑦
IoTNEWS代表 小泉耕二

小野塚: その通りです。もしかしたら、売れ残った洋服でもサービス展開は可能かもしれません。送られた側からすれば、売れ残りかはわからない。その服が自分にすごくフィットしてくれれば、それでいいのです。

小泉: 店舗だと販売者は売る必要があるから、とりあえず、何でもすすめせざるを得なくて、購入者は買った後に後悔したりします。airclosetは提案してくれて試せるのが大きなメリットなわけですよね?

小野塚: airclosetは、利用者が今回の服が嫌だったと思えば伝えることができるし、すごく気に入ったということを伝えることもできる。こうしたコミュニケーションを取ることで、同社は利用者の希望により近しい服を提供したり、もっと新しい出会いを生み出したりすることが可能になってきます。

また、コミュニケーションを通して、「こういう女性、こういう男性は、こういう服が好きだ」ということを定期的に知ることができます。airclosetはこうしたビジネスをやっているとは言っていませんが、これらの情報をアパレルメーカに売ることもできるわけです。

このように可能性の裾野(すその)を広げるには、とにかくトライしてみる必要があります。Luxasも初めは自社でバッグの在庫を持っていました。そして、トライした結果、バッグを持っている提供者と借りたい人をマッチさせるサービスを始めたのです。

彼らは、途中で「自社で在庫を持たなくてもよい」ということに気づいたのです。このように、トライをしていく中で、サービスメニューを追加していけばいいのです。airclosetであれば、服以外もレンタルすることを始められる可能性もあります。やってみてうまくいかなければやめればいい。もしうまくいったら広げればいいのです。

DXは「トランスフォーメーション」が主軸

小野塚: 前回でDXは「千三つ」(第6回)と言いましたが、1個目のアイディアが当たるか外れるかもトライする必要があります。その後、広げたり工夫したりする際にも、とにかくトライしてみることです。デジタルはコストが安くなってきているので、トライできる環境は整っていると思います。たくさんやってみて、失敗したらすぐ軌道修正することが重要です。

小泉: なるほど。そうなってくると、「デジタル」トランスフォーメーションじゃなくてデジタル「トランスフォーメーション」なのですね。つまり、この本は、「トランスフォーメーション」にフォーカスを当てたということなのですね。

小野塚: 確かに、今までDXは「デジタル」が主軸で、「デジタルだけ」というケースもありました。しかし、この本の中で一番言いたいのは、デジタルトランスフォーメーションは目的ではないということなのです。

デジタルトランスフォーメーションしたくてデジタルトランスフォーメーションをするのでなく、本当の目的は「もっと儲けたい」とか、「もっと価値を出したい」とか、「もっと使ってもらいたい」とか、などのはずです。

そのためには、「今までとは違うことをやって、今までとは違う価値を発揮しましょう」ということなのです。そして、それを実現するために、デジタルを活用したほうがよいのではないかと言っている。デジタルは道具なので、DXは「トランスフォーメーション」が主軸なのです。

小泉: そうなると、模索していくことを臆さない人たちが強そうです。勝ちパターンが決まっていて、「この仕組みを導入したら同じように儲かる」という発想の人たちが多いと思います。しかし、仕組みは高度である必要はなく、それを使って何をするのか、そしてひたすら何回もトライアンドエラーを繰り返せる人の方が、デジタルトランスフォーメーションでは強いわけですね。

小野塚: その通りです。そして、「この仕組みを入れたら効率化します」とか、「仕組みを入れたら生産性が上がります」というのは、そもそもデジタルトランスフォーメーションではありません。それは「デジタル化」なのです。

なぜ、それがトランスフォーメーションではないかというと、DXの目的は、「もっと価値を出したり、成長したりして儲ける」ということです。「でも生産性を上げたり、効率が上がったりすれば儲かるでしょう。それだって、デジタルトランスフォーメーションじゃないの?」という疑問を持たれるかもしれませんが、それは違います。

なぜかというと、この仕組みを入れたら効率化しますとか、この仕組みを入れたら生産性が上がりますという便利なツールがあれば、隣の会社も導入するからです。競合も導入するということは、差別化はできない。みんな同じことをするだけです。それでは儲かりません。だから、デジタル化は儲からないのです。

小泉: 小野塚さんのお話では、デジタルトランスフォーメーションには4つの段階があるということでしたが(第1回)、「DX1.0」のデジタイゼーション、つまり1番下の「デジタル化」が一番デジタル的には高度なのですね(笑)デジタル化のところが1番デジタルのレベルが高くて、技術力も必要で、おカネもかかる。

一方、「DX4.0」のインダストリアル・トランスフォーメーション、つまり一番上の「業界のデジタルトランスフォーメーション」という話になってくると、まさに今回、話してもらっている例はそうだと思います。デジタル技術的には昔からあるインターネットサービスばかりで、そんなに難しいことをやっているわけではない。

小野塚: 特別な技術がなくても、儲かって成長ができるのであれば、こちらの方がよいはずです。

小泉: 必要なのは「視点」と「行動」ということなのですね。

小野塚: その通りです。視点については、中には百発百中の人もいるかもしれませんが、普通であれば打率は0.3%です。0.3%を当てようとするためには、少なくとも100発、200発を打っていった方が早い。だから、視点も重要ですし、行動も重要になると思います。(第8回に続く)

この対談の動画はこちら

以下動画の目次 エアクローゼットの例(55:23〜)より

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